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2019/10/20

1on1コーチングによる変化への実感

戦略は実行されてこそ価値を生みます。しかし、実行するのは人。人は変化することに心理的抵抗もあります。今回は企業人として頂点に立った役員が自己変革した時、人と組織は動き始め、一人ひとりが変化を実感されたお客様事例を紹介します。

1on1コーチングとは通常、上司と部下との間で定期的に行う個別面談のことです。その目的は、短期的な業務課題の解決ではなく、中長期的な自立的人材を育成とエンゲージメントの構築にあります。それによって部下が“やらされ感”なく、主体的に問題解決に取り組み、持続的実行力を引き出すことが見込まれます。

シェルパワークスでは、これを経営幹部などに対する支援サービスとしても提供しています。部下のモチベーションを高め、信頼関係を構築する評価・フィードバックや会議の進め方、戦略実行に対するコミットメントなどをコーチングすることで、幹部としての経営的視点や思考・行動を高め、組織力強化などの効果が期待できるのです。

1. 常務の嗚咽

「うぅ・・・」

突然の嗚咽。二人きりの役員会議室。唐突に涙する常務取締役営業本部長の姿を目の前にして、百戦錬磨のコーチもさすがに言葉を失いました。

今回ご紹介する事例の舞台となるのは、卓越した生産技術と顧客志向によって競争力ある某メーカー系列で、大都市圏を中心に展開する販売会社です。親会社の品質経営のDNAにもとづく提案営業と物流システムによって経営基盤を築き、業界内で確固たる存在感を誇っています。と同時に、従業員を大切にする人間尊重の経営理念を標榜し、学生の就職希望ランク上位の常連で、社員の定着率も業界平均を上回っています。特に、育児と両立する女性社員が多くいることも働きやすい職場環境を物語っています。

2.新社長の危機感

そんな安定経営にここ数年、じわじわと暗雲が漂い始めていました。主因は縮小する国内市場に加え、新興国からの安価な模造品の流入などによる競争激化です。しかし、創業以来続く優良企業の危機感の薄さが、変化への抵抗や変革への躊躇を生んでいました。

そこへ就任したのが、親会社から転身してきた岩田社長でした。新社長は持ち前のビジネスセンスとグローバル競争の中で研ぎ澄まされてきた経営視点によって、この優良企業が揺らぎつつある厳しい将来を見通しました。今まで通用してきた営業・物流体制の強みや人を大事にする企業風土が、変革による生き残りに関してむしろ弱点に映ったのです。一方、生え抜き役員5名の環境認識とは相当隔たりがありました。

その代表格が6月で勇退する戸崎常務でした。役員は総じて実務での貢献を積み重ねた成功者です。特に、社長が親会社から送り込まれる社内事情によって、会社員人生の頂点である役員に登用されると、いわゆる「上がり」気分に浸ってしまっていました。そのような状況を踏まえて岩田社長は一計を案じました。

次年度から始まる新・中期経営計画立案と役員の意識改革を兼ね創業以来初の役員研修をシェルパワークスに相談されたのです。意思決定を仰ぐ社長プレゼンの機会に我々へ尋ねたのはたった一言。「御社がかかわることによって、“わが社と役員が変わった”と思えることとは何だと思いますか?」

その質問に答えた直後から役員陣と当社との8ヶ月にわたる取り組みが始まりました。「役員が当事者意識を持つことで、社長に委ねず、媚びない経営的視点で発言、行動するようになること。その結果、社員一人ひとりが自ら考える集団になることだと思います」

3.初めての役員研修

そのような背景や課題認識から設計した役員研修はまず、CS調査による外部からの視点およびES調査による内部からの視点の分析から始まりました。さらに、10年後の社会・政治・経済動向の未来予測にもとづいた「わが社のありたい将来像」を本気で考え、その実現に向けた中期経営計画・施策展開を合宿形式で検討するというプロセスを遂行しました。しかし、役員まで登りつめ、自身の成功体験に囚われた人材が通り一遍の集合研修だけで行動を変えることには限界があります。残念ながら相互の管掌領域には無意識に不可侵条約を結んで、表面的な問題抽出と要因分析、解決策に終始した中期計画に仕上がってしまう現象をたびたび見てきたからです。

その対応策として盛り込んだ施策が、合宿の1カ月後に行う1on1コーチングでした。そこでは、合宿でのディスカッションを踏まえた上で「当事者意識」にもとづく課題形成、自責で捉えた要因分析とその解決策立案についてコーチが聞き役に徹し、役員の本心を引き出し、使命感をもったテーマ・具体策を自己決定してもらうのです。

4.コーチからの一言

そのような一対一の真剣勝負のプロセスが4カ月ほど経たコーチング場面で、冒頭のシーンが生まれました。コーチの問いかけた一言は、「それほどまで社員を愛する常務さんは、職業人生をどんな風に終えたいのですか?」

それまで、戸崎常務の合宿やコーチング場面の態度は「あと1年の任期。後進の邪魔にならぬよう我を張らず見守りたい」と繰り返し語っていました。独自の人脈で市場を開拓して、確固たる顧客基盤を築き、強い統率力によって後継者も育んできた熱い企業戦士として、商才と人望を備えた常務が今や、自社の未来像について達観したような雰囲気を漂わせていました。しかし、そのような姿勢にコーチは一言も言及せず、傾聴を重ねた上で、本人の内面をえぐるような問いかけを敢行したのです。

「うぅ・・・」突然の嗚咽。

しばらくの沈黙のあと、常務は穏やかな口調で自分がこれまでの人生で多くの時間を過ごしてきた会社に対する想いを語りだしました。コーチは、その想いに吸い込まれるように、ただひたすら傾聴していました。

後でわかったことですが、常務がそこまで本音を出せたのは、そこに至るまでの数ヶ月間のコーチとのかかわりで、同じ方向をめざす同志として共感と信頼をしたからだということでした。

嗚咽しながら本心を吐露した一件以来、戸崎常務の言動が誰の目から見ても明らかに変わりました。役員会議での歯に着せぬ発言、営業本部の組織改革、部門長への権限委譲と後継育成の仕組みづくり。その変貌ぶりに岩田社長や役員陣は目を見張りました。部門長の目の色が変わり、受け身だった社員も目を輝かせたのです。

そこからは、人と組織が少しずつですが確実に変化していきました。

5.変革から3年後

それから3年。冬の日差しが落成した新社屋を眩しく照らしていました。

年頭式で表彰される社員や部門に岩田社長の感謝の言葉が続きます。それまで親会社が供給する商品を一律に扱ってきた販売会社が、全国で唯一のプライベートブランドを立ち上げ、過去最高の収益目標を達成しました。また、CS調査では「お客様の期待・充足度」が前回を上回り、ES調査においても上司への信頼度や働きがいといったスコアが改善しました。持ち前の団結力に加えて一人ひとりが自ら考え、行動する姿が岩田社長には何よりも頼もしく映りました。

年頭式後に開く歴代OBも招いた恒例の新年会。後輩たちを微笑ましく見つめる老紳士が佇んでいました。

現役時代の鋭い眼光もいまや穏やかな眼差しの戸崎でした。懐かしい姿を認めた幹部社員が思わず歓声を上げて近寄ってきました。「常務!いらしてくださったんですね。その節はホンマにお世話になりましたぁ」

嬉しそうにはにかむ戸崎が返しました。「もう常務じゃあらへん、ただのオッサンや。それより、新社屋完成おめでとう!君たち、いつまでも熱き心で職業人生のゴールを駆け抜けろよ!」

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