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2018/07/23
9月も下旬に入ると、京都の蒸し暑い夏も峠を越え、過ごしやすい季節になってきた。まだ紅葉のシーズン前で、京都全体が落ち着いている時期でもある。観光客が少ない分、ひどい渋滞もなくなり、仕事に身が入る季節だった。
関根は、コピー機の来年の契約更新に向けて、文書課文書係や使用部門との調整を進めていた。今までの実績と4月前後に入替えたコピー機の評判も良く、調整は順調に進んでいた。
宇治市役所を訪問して、いつものように企画課に立ち寄った時だった。館林係長から「ちょうどいいところに来たね。話があったんだ」と呼ばれた。
「なんですか、館林係長」。
「できたら、この足で公害対策課に行ってもらえるか」。
「はい、分かりました。まずは、行く前に、館林係長の知っている範囲で、状況を教えてくれませんか」。
「実は公害対策課の来島(キジマ)課長から昨日相談があってね。今、光化学スモッグ無線警報システムの更新時期が来ているらしいのよ。だけど今までのベンダーが強気で、見積金額を大幅にあげて来て困っているということだ。公害対策課としては、今までのシステムにも不便さを感じているので、システムを効果性の高いものに変えたほうがいいと思っているようだ。良いベンダーさんいないかと問い合わせて来たっていうわけだ。俺から聞いたと言ってもらえば分かるから、まずは行ってみて、来島課長の話を聞いてみてくれ」。
「分かりました。館林係長、ありがとうございます。これから行って来ます」と関根は答え、公害対策課へと向かった。
公害対策課に着き、来島課長に取り次いでもらうと、すぐ出て来てくれた。
「関根さんですか。今、館林さんからも連絡がありました。ちょうど時間があったので、状況を説明します」。
これから約1時間、関根は来島課長の話をじっくりと傾聴した。光化学スモッグ警報の話だった。
今まで光化学スモッグが発生する可能性が高まると、気象庁から京都府庁公害対策局へ連絡が入る。京都府庁公害対策局からは各市町村の公害対策課に無線で連絡が入り、公害対策課から各出先(小中学校・保育園・幼稚園・出張所・公民館など、宇治市では120ヶ所ある)に防災無線で一斉に連絡するという流れになっている。ここで使用している無線機が、法令で光化学スモッグ警報用の周波数帯が変更となるため、まだ使用できるにもかかわらず、来年度中に全出先の無線機を交換しなくてはならなくなったのだ。
現在の無線機メーカーに相談したところ、単純な交換だがだいぶ高額な見積もりを出してきた。自社以外の無線機には切り替えづらいと見て、強気な姿勢になっているようだ。
公害対策課の中で他社の話も聞いてみようということになり、まずは、最大手の通信会社に問い合わせて見たが、ここからの提案は、今の無線機をファクシミリに置き換える内容だった。費用的にはだいぶ安くなるので問題無かったが、ただの置き換えのため付加価値が感じられない。せっかく入れ替えるのだから、もっと業務が改善できる仕組みに変えて行きたい。ざっとこのような話だった。
関根は、館林係長との対話で感じた市役所幹部の強い「住民サービス向上と業務改善」意欲をこの時も感じた。宇治市役所が目指す姿と自社のビジネスが両立する案件として、強いやりがいがフツフツと湧いてきたのだ。
「来島課長、お話はよく分かりました。この課題にヤマトビジネスマシンとして、しっかりと取り組んで、宇治市役所のお役に立てる提案をして行きたいと思います。つきましては、まず120ヶ所の各現場の状況と課題を調べさせてもらえませんでしょうか」と切り出した。
「関根さん、全部行ってもらうのは大変な作業ですよ。まだ御社の機器を入れると決めているわけでもありませんし、そこまでやっていただくのは、ちょっと・・・」と来島課長は躊躇した。
「我が社は、京都府全域を各営業マンがカバーしています。ほぼ全ての事業所は、誰かが担当していて、まめに訪問していますので、120ヶ所の各現場に伺うことは、実は来島課長はご心配されるほど大変なことではないのです。まず弊社の営業が近所に行ったついでに、現場を訪問して、状況を確認してきます。この内容をもとに、一緒にどうしたらいいのかを考えて行きませんか」。
「そうですか。そりゃ助かりますが、まだ関根さんのビジネスになるかどうかわかりませんよ。導入する際は、調達課からは入札でと言ってきますし。本当にいいのですか」。
「ご心配いりません。でもいい提案でしたら公害対策課からは推薦してくださいね」。
「そりゃそうですが・・・」。
「当社にとってそんなに重いことではないですから、大丈夫ですよ」。
このようなやり取りの末、関根は120ヶ所の各現場の状況ヒアリングを決めて帰社した。
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著作:渡邊茂一郎