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2016/12/25

関根にはもう一つ悩みがあった。元気良く訪問して、コピー機に関する状況を聞き出すというアプローチが継続的には通用しないのだ。1度目の訪問時のお客様の反応は、珍しがってまあまあ受け入れてくれるのだが、2度目の訪問からは、対応がとても冷たくなる。『営業は断られた時から始まる』と研修では教わったものの、お客様から歓迎されていないところに訪問するのは、結構辛かった。新規開拓では当たり前と割り切っているつもりだったが、目が合った途端、嫌な顔をされ、「また来たの。用はないよ。おたくはしつこいね」と冷たく言われてすごすごと帰る。
こんな訪問が5件も続くと、心が折れるのだ。次に訪問する気力がなくなり、喫茶店や公園で気持ちを立て直してなんとか次の訪問に立ち向かう。これを繰り返す内に、いい商談も出てくる。現金なもので関根はすっかり元気になり、新たなエネルギーが充填されアプローチに立ち向かえる。そしてまた冷たくあしらわれて気持ちが萎える。
毎日の営業活動がこの連続だと、心のエネルギー総量も消耗してくる。後輩の太田に負けるもんかと、自らを鼓舞しても、どうしても行動力は鈍ってくるのだ。
心のエネルギーを充填しながら、行動量を確保しつつ上京区のお客様の荷動きにうまく参画しようとすることは、かなり厳しくなっていった。
このような日々を過ごしていたある日、関根は、上京区と中京区の境目の丸太町通りを歩きながら、あることを考え出した。「そもそも、お客様の身になって考えてみると、俺はお邪魔虫だよな。いやがられて当然だな」。以前先輩の大山からの問いかけで気づいた自分を客観視するメタ認知能力が動き出したのだ。
次は、相手の身になって考えてみる。
「お客様の担当者も総務の仕事を抱えて忙しくしているところにこちらが押しかけていくのだからな。そういえば以前、ある担当者から『一日に事務機の営業マンが何人訪問してくると思う?多い日は10人以上だぞ』って言われたっけな」
「ましてや、経営者だったらなおさらだな。係長からは上に会えと、いつも言われているけど、経営者からしたら俺との面談は時間の無駄だしな」
「自分の営業活動のためには、経営者と会うのは重要だけど、経営者にしたら何のメリットもないかもな」
こんなことを考えると、自分の営業活動の無理さが見えてきた。ユーザーだとコピー機の調子を確認したりして、お客様も我々が訪問することにメリットを感じてくれるが、新規開拓先では、そうもいかない。
関根はまたもや袋小路に入っていった。さすがに行動量だけは確保していたので、以前のようなボロボロの成績になることはなかったが、苦しいもんもんとした日々が続いたのだ。仕事が終わって家に帰れば妻が待っていてくれるので、ハッピーだったが、朝は会社に行くのが辛かった。特に週明けは辛い。週末楽しく過ごし、日曜日の夜あたりから心がだんだん暗くなり、口数も少なくなる。
このころは営業という仕事から逃げたい気持ちも芽生え、会社を退職することも考えていた。しかし、同期の横山や後輩の太田に負けたままで辞めることは、逃げるようで我慢がならなかった。せめて表彰式の壇上に上がってから辞めたかった。また、妻という心休める存在があったことも大きかった。関根はギリギリの状態で踏ん張っていたのだ。

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