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2017/01/11
翌日の月曜日朝から先輩の大山に会うと、関根は早速質問した。「大山さんは、初回訪問の時って、どんなことやっているんですか」
「関根、どうしたんだよ、藪から棒に」
「実は、昨日カミさんと買い物に行きましてね。こんなことに気づいたんですよ・・・」と関根は昨日の出来事をかいつまんで話した。
「お前、良いことに気づいたな。そうだなー、俺は、初回訪問では、ほとんど商品の話はしないな。いつもその会社のメイン商品のことを聞いているよ。それから、うちの会社がどんなことに取り組んでいるかも話しているな。こうしたほうが喜ばれるからな。だから2回目もだいたい歓迎してくれるよ」
「そうなんですか。でもその会社のことがわからないとうまく聞けませんね」と関根が問いかけると、大山は「忙しい時なんかは、このハンドブックを見てから訪問するよ」と答えて厚さ1cmほどの小さな冊子を見せてくれた。
「こんなのあるんですか。」
「3年くらい前に配られたんだよ。いろんな業種の仕事内容が載っていて、結構役に立つぞ。確かどこかに在庫していたはずだよ」と言って、倉庫から1部持ってきてくれた。
「ありがとうございます。これ便利ですね。早速使ってみます」と関根は言って、席に戻った。中をめくると、いろんなメーカーの業務が記述されていた。上京区に多い病院の業務は載っていた。しかし、上京区を代表する西陣織のような特殊な業種は載っていなかった。
関根は「そう言えば、西陣織会館って堀川通り沿いにあったな。昼休みに行ってみるか」と思い立ち、その日の12時過ぎに早速行ってみた。
西陣織会館に行くと、西陣織の帯ができるまでの工程の展示があって、蚕から絹糸、帯と西陣織ができるまで詳しく説明されていた。
帯の図案も展示されており、コピー機の活用シーンもイメージできた。また、大手の帯屋は中国地方に工場を持っているので、このころからヤマトビジネスマシンでも製造販売を始めたファクシミリの活用の可能性も感じ取れた。
関根は、2回目以降のアプローチの道具として、無駄のない上手なコピー機の使い方とカラーペーパー(当時カラーコピーはまだなく、色分けのために色のついたコピー用紙がよく使われた)の上手な使い方の2種類の資料を作って、アプローチを始めた。
「こんにちは。ヤマトビジネスマシンの関根と申します」と訪問すると相変わらず冷たく「用はないから。なんかあったら電話するから」と追い返される。ここまでは今までと同じだが。その後は違った。
「お忙しいところすみません。今日は、この資料だけ持ってきました。コピー機の上手な使い方の紹介です。よかったら後で見てください。これからはお邪魔ではなく、お役立ちのために伺います」と言って、用意した資料を置いてすぐ帰った。
湿気の多い夏前にはコピー用紙の湿気防止対策の資料を作って配った。コピー機に関する資料以外に、その会社の同業が載った新聞や雑誌の記事のコピーもよく持参した。自分で探して見つけた店をもとに上京区のランチマップを作って配ったこともあった。
しかし、その効果はすぐには現れなかった。手間も結構かかるし、やめたくなる気持ちもちらほら出てきた。あの太田が、関根のこの活動をバカにしていると耳に挟んだからだ。
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