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2017/03/26

関根は、横山の担当していたユーザーを積極的に回っていた。まずは、ユーザーをしっかり把握することが肝要だからだ。まだ自分との関係が構築できていないので、どのユーザーを訪問しても、「何か困ったことがあったら、どんどん私に申し付けてください。すぐ駆けつけますから」と伝えていた。
ユーザー50社の内、重要ユーザー10社は横山との3日間の同行で、新担当として挨拶は終えたが、残りの40社は単独で挨拶回りをした。なんとか1週間で訪問でき、ホッと一息ついた頃だった。
ある中堅企業のユーザーから朝1本の電話がかかってきた。
「洛西染工の木村です。関根さんですか」
「木村課長、先日はありがとうございました。今日は何か?」
「いやねー、関根さんが先日挨拶に来た直後に京都OAさんが来られましてね。新製品のコピー機を1週間使ってくれとしつこく言ってくるものだから、渋々OKして、持ち込んでもらったのだけど、これが評判良くてね。ヤマトさんの今のコピーよりもスピーディに使えるものだから、社内からこちらに変えてくれないかという声が上がって来てね。関根さんからも何かあったら一声かけて欲しいと言われていたんで、連絡したのですよ。コストもだいぶ下がるようなので、今日連絡が取れなかったら、替えてしまおうとも思っていたんだが・・・」
関根の顔色はみるみる青くなった。心臓は早鐘を打ち、喉が乾いて来た。少しどもりながら「ちょっ、ちょっと待ってください。先日伺った時は、『まだリース期間も残っているんで、当分は使わなくちゃ』とおしゃっていたじゃないですか」と言うと、
「まあ、京都OAさんから、残りのリース料分は、特別に京都OAさんが持ってくれるという申し出もありましてねー」と木村課長が、まるで京都OAに決まったかのような感じで答えた。
「とりあえず、これからすぐ伺いますから、お待ちください。」
関根は、他のスケジュールを変更して、急いで洛西染工に駆けつけた。
約1時間後に洛西染工に着くと、総務課の木村課長が困ったそうな顔で出迎えくれた。「関根さん、早いですね」
「何せ一大事ですから。京都OAさんの持込デモはどちらですか」と聞くと、すぐ案内してくれた。コピー室のヤマトのコピー機の隣に、京都OAが持ち込んだムサシOA製の新型機が鎮座していた。さすが新製品だけあって、新機能が色々と付いている。
「お電話では、大層評価が高いと言う話でしたね」と関根が問いかけると、木村課長からは「そうなんです。スピードが速いのがいいみたいでして、1枚目が出てくるまでが速いのが、特に評判なんです」と答えてくれた。
「それはいいですね。1枚目の排出が速いと、スピーディな感じがしますし。しかしコピーの入れ替えを考えるのでしたら、じっくりやられたほうがいいですよ。いくらリースの残金を持つと言ってもこれから何年も使うものですから」
「新しい機械が入ると、利用者は無責任に代えろと言って来ますのでね。ちょっと煽られてしまいました」
「木村課長のご苦労、お察ししたします。ところで、大和田社長はなんとおっしゃっているのですか」
「社長からは私に任せると言ってくれているが、やっぱり関根さんの言う通りじっくり検討しないと後で後悔する羽目になるからね」
木村はホッとしながら「では、弊社からも新製品の持込デモも予定させていただけますか」と依頼した。
「そうですね。ちゃんと比較しなければならないですからね」
「ありがとうございます。しかし、まずは洛西染工様の事業への貢献という観点から、改めてコピー機の役割を検討いただいて、どのような機能が本当に必要なのかを見極めてから、使ってみていただいたらと思います。その上で、京都OAさんの機械がふさわしかったら、そちらをお選びになればいいことですから」
「確かにその通りです。じっくり検討します」と木村課長はホッとした表情で頷きながら答えた。
「では早速ですが、現場の皆さんのコピー機の利用と業務との関係を洗い出してみます。弊社の保守部門のカスタマーエンジニアにも確認して進めさせていただきます。あちこち御社内を伺いますが、構いませんか」
「どこに行くのか事前に教えてくれれば、私から話しておきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。では明日また伺います」
とりあえず、すぐ解約という危機は抑えることができた。
これが波乱の1ヶ月の始まりだった。

著作:渡邊茂一郎

その3「解約」へ続く

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