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2017/04/23

ヤマトビジネスマシンの関根は、張り切っていた。解約寸前だった洛西染工への持ち込みデモが今日から始まるのだ。
京都OAのデモ機も置いたまま、2台並べて使ってもらう。まさに一騎打ちのガチンコ勝負だ。京都OAは既に利用者からは好評を得ている。ヤマトのデモ機の評価が悪ければ、一巻の終わりだ。
関根は、他の案件に優先して、洛西染工の解約防止に力を注ぐつもりだった。できるだけデモ機に張り付いて、利用者の声を拾い提案に盛り込みたかった。また、不満点があれば、即カスタマーエンジニアに対応してもらい、デモ機を常に最適な状態としておきたいのだ。
もしも京都西染工に続いて洛西染工が解約となれば、京都OAの営業も嵩にかかってくる。他の染物工場にも一気呵成に攻め込んでくるだろうことは予想できた。だから、ここはどうしても阻止したかった。
デモ機に張り付いて、利用者の声を聞いていると、ヤマトビジネスマシンと京都OAのデモ機はほとんど互角の戦いと言って良い状況だった。現像方式の違いが湿式と乾式という違いはあるものの、双方のマシンは、それぞれの特徴があり、利用者は自分の好みに応じて使っているようだった。ヤマトビジネスマシンは長いことユーザーだったせいで、利用者は操作パネルに馴染みがあり、その分使いやすそうだ。反面京都OAは、1枚目の排出スピードが早く、1枚の原稿からのコピー枚数が少ない利用者には好評だった。このまま、性能面での評価が互角だと、コスト面で、特別販促策を提示した京都OAが有利になると関根は危惧していた。
持ち込みデモを開始して3日目だった。関根はあることに気づいた。絵付け職人は独特のはっぴをいつも纏っている。そのはっぴ姿の利用者はたまにしかデモ機を使いに来ないけど、必ずヤマトビジネスマシンのデモ機を使ってくれるような気がした。
関根は絵付け職人がデモ機を利用する機会を待った。長い時間デモ機の横で待つのは辛かったが、数時間後にやっとその時は来た。「いつもヤマトをご利用いただきありがとうございます。どうですか、新製品の使い勝手は?」と問いかけると、「うん、わてら職人は、依頼主に見せるイメージ図作りにコピーを使って切り貼りして色を塗るから、ヤマトのレベルの画質でないと困るんや」と返答が帰って来た。
「えっ、それはそういうことですか?」と問い返すと、切り貼りした絵柄を見せてくれ、「この白地部分が、京都OAやと黒ずむんや。修理の人に来てもらって調整しても、治らんようや。だからわざわざ白地部分は白で塗り直さなアカン。線もボケるしな。だから職人たちはみんな、ヤマトを使っているというわけや」と答えてくれた。
「じゃあ、職人の皆さんの業務に支障をきたすということですか」
「まあ、そこまで大袈裟なことではないかな。京都OAになっても、依頼主に見せるイメージ図作りに一手間増えるレベルや。線のボヤけは、実際の染めとイメージが違うと少し困るかな」
「ありがとうございました」関根はお礼を述べ、一気に膨らんだ希望が小さくなる気がした。しかし、染色工程でのヤマトの優位性を発見できたことは大きかった。提案書では、これをより大きく膨らましてくことが重要だと思った。
さて、デモ機の横で張っていると自然と京都OAの営業マンと鉢合わせすることになった。
「ヤマトビジネスマシンの関根さんですか」京都OAの山本から声をかけて来た。
「そうです。関根ですが・・・」と答えると。「私は京都OAの山本です。同じ地区を担当しています。関根さんは、横山さんの後任ですよね」
「よくご存知ですね」
「ええ、横山さんとは、たまに喫茶店でお茶してまして、たわいのない話をよくしていました。関根さんのことは、お客様から聞きました。とても熱心だとか・・・」
「いいえ、そんなにお熱心にやれていたら、今回のようなことにはなっていないでしょう」
「まあ、関根さんのせいじゃないと思いますよ」
「山本さん、お手柔らかにお願いします」
「こちらこそ」
ぎこちない会話の後、2人はそれぞれデモ機から離れ、洛西染工を後にした。
関根は山本の「まあ、関根さんのせいじゃないと思いますよ」という言葉が妙に引っかかった。「なぜ、山本さんはあんなこと言ったのかな。なんか知っているような気がする」と思ったが、すぐ目下の急務の解約防止に頭が切り替わった。

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著作:渡邊茂一郎

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