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2017/05/08

関根は悩んでいた。無論、洛西染工のことだ。どうもこのまま行くと、負けるような気がしていたのだ。持込デモの評価は、どっこいどっこいだったが、総務課の木村課長が京都OAに傾いているように感じたからだ。「このままだったら負ける、何か手を打つ必要がある」。関根が考えていたのは、洛西染工の大和田社長に直接面談に行くことだった。しかし総務の木村課長からは「社長から『コピー機のことは木村課長に任している』と言われてます」と告げられている。下手に社長面談を行うと木村課長の顔を潰し、敵を作ることになる。新規開拓先なら実行するが長年のユーザーなので、躊躇するのだ。
実は、木村課長が1週間後の来週の月曜日から木曜日まで東京に出張することは聞いていた。社長面談を試みるなら、願ってもないチャンスだった。結局、このまま負けるより思い切った手を打ちことに関根はかけてみようと思っていた。
上司の町田係長に相談したところ、「リスクはあるが思いっきってやってみろ。ただし一人でやれ。俺は同行しない。後で大きなクレームになった時に俺と支店長で謝りにいけるようししておきたいからな」との返事だった。
心が決まると社長面談の準備にかかった。まず洛西染工の事業の方向性を知りたいと思った。当時はWebサイトなんてない時代だ。しかし、少なくても着物の生産量が毎年減り続けていることは、産業統計を見るとすぐわかる。このままだといずれは事業が縮小するになることは目に見えている。
現在の社長は、大和田社長。5代目でまだ50歳代前半だ。将来を見据えているはずだ。
図書館で、業界別の仕事内容が書いてある事典を探して見ると数種類あった。読み込んでいくと、友禅染め業界の状況が書かれている。日常の和装離れとブライダルの洋式化が大きな底流となっていた。特にブライダルは、単価の高い豪華な和装だったためその減少は、利益面でも大きなインパクトがあった。
大和田社長はどの領域に活路を求めているのだろうか、関根は他の友禅染めユーザーの担当者に、世間話をしながら聞いてみた。どこも簡単な打開策はないが、手書き友禅から型染め友禅、機械染め友禅へと機械化を進めているようだった。
単価は下がるが、暖簾や法被など一般的に使われるものへと販路を伸ばそうとしているのだ。また、大型の染物、旗・幟や横断幕に進出することを考えている会社もあった。
関根は、社長の意図を探るため、以前少し話した洛西染工の職人のリーダーであるデザイン部の田中主任に会いに行ってみた。
「こんにちは、田中主任、前日コピー機の前でお話しさせていただきましたヤマトビジネスマシンの関根です。コピー機の使い方について少しお話を聞きたくて伺いました。少しだけいいですか」
「今、忙しんやけどな。少しだけやぞ。」
「すみません、お忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが、最近の手書きの柄は、どのようなものを書いているんですか」
「なんで、あんたがそんなこと聞くんや」
「実は、御社の事業に役立てないかと思い、図書館で色々と調べてきたんです。友禅染め業界も厳しいですよね。他社も色々と苦労されておられることもわかりまして、御社が目指す方向性を知りたくて、聞きにきたのです」
「そうか、熱心なことやの。そこまで勉強してきたんやったら、話してもええやろ。実はな、うちは社長が、女の子向け和装に力を入れようとしているんや。だから『伝統的な柄に子供が喜ぶ動物をかわいらしく書いてみてくれ』と言うような依頼を職人にしてくるわな。子供の数は少なくなったが、その分節句の祝いを大切にするようになってきたからな。女の子やったら、お宮参りから始まって3歳・7歳・幼稚園卒園・成人式・大学卒業式と繋がるやろ。年々豪華になってきているんや」
「そうなんですか。他社は、機械化して、着物以外への進出を考えているところが多かったので、意外でした」関根は驚きながら感心した。
「うちも機械化については、遅れんようにと導入しているが、何せその先にあるところが他社との価格競争だからな。その流れだけでは、長い目で見たらいずれ行き詰まると社長も考えているんやないかな」
「ちょっとこれ見てみいな」と田中主任が手書きで書いている柄を見せてくれた。
「伝統的な柄に、こんな風に動物を入れてな。子供とお母さんが喜びそうな柄に変えていくんや」
「そうだったのですか。だからこの前、コピー機の写り具合をおっしゃっていたんですね」
「まあ、そうや。動物の絵をコピーして下絵に使ったりしてなー。以前よりコピー機のお世話になるようになってきたんや」
「それじゃ、コピー機の写り具合が、これから進もうとしていることとの成否を握っているんじゃないですか」
「それは、大げさやな。そこまでのもんではないな。しかし、子供とお母さんが喜ぶ柄を描くことが重要で、それに関わっていることならば、社長の心は動くかもな。まあ頑張ってみいや」
「ありがとうございます。とてもいいお話をいただきました。この内容を提案書に盛り込ませていただきます。田中主任から伺ったことを社長に伝えても構いませんか」
「そりゃ、いいが、私がヤマトさんの味方をしているわけではないから、そこのところは誤解しないようにな」
「はい、わかりました。今日はありがとうございました」
関根は、とうとう突破口を掴めた気がした。すぐ帰社して、概要提案書作成に取り掛かった。提案書の内容はこうだ。
1.友禅染め業界の現状 2. 洛西染工様の今後の方向性(仮説含む) 3.ヤマトビジネスマシンが洛西染工様の事業のお役に立てること(仮説含む) 4.現在紹介しているコピー機の主な機能と洛西染工様の事業上のメリット 5.概算見積
このような提案書を作るのは、関根にとっても初めてだった。今までの提案書は、紹介しているコピー機の機能とお客様の効用を中心にまとめていた。今回はお客様の事業の成長に関わる形での提案書だ。概要提案書を書き上げると自信がふつふつと湧いてきた。あとは、社長にこれをぶつけるのだ。

著作:渡邊茂一郎

その9「社長へ」

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