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2018/04/12

翌朝、関根は嫌な気分で目が覚めた。夢の中で昨日の面談が続いたのだ。ついに解約になって、京都の桜が散り始める最中に、全てのマシンを引き上げる夢だった。いつもより早く目が醒めると、「夢で良かった」とホッとすると共に脱力感を感じた。しかし、すぐに「まだ勝負は始まったばかりだ。逆転は可能なはずだ」と自らを鼓舞した。
出社すると、佐久間課長と作戦会議が始まった。課長も今回の京都メディカルラボ解約防止を最優先事項として対応してくれている。
佐久間課長は、昨晩のうちに支店長とも相談して、大幅な価格対応もやむを得ないとの承認を得ていた。しかし、価格対応は、お客様に新たな気づきを与える提案内容があってこそだ。すぐ価格対応提案を出す事は、京都OAと同じ土俵にのり、結局寄り切られることになる。
2人は「ここは、現場の状況を詳しく調べることから突破口を開くしかない」という結論に至った。
佐久間課長が、メンテナンスサービス課の責任者である吉田課長に声をかけた。今の状況を説明しながら、「吉田さん、関根をメンテナンスサービスマンと一緒に京都メディカルラボ様の定期点検に回らせてもらえないだろうか」と依頼した。
「もちろん、全面的にバックアップします。担当のサービスには他の業務に優先して、関根さんと一緒に、京都メディカルラボ様の定期点検を行うよう指示します」と快諾して、その場から電話で指示を飛ばしてくれた。
ここから関根の京都メディカルラボの現場回りが始まった。他の業務は可能な限りチームメンバーに対応してもらい、京都メディカルラボに張り付いた。
回ってみると、なるほど現場は情報の宝庫だ。関根は、各現場でのコピー機の利用の仕方を原稿内容・原稿枚数・コピー枚数・配布先と聞いて把握していった。また、コピーを取りにくる人の部署・移動経路とコピー動作は観察して記録した。
この作業を5日間続けて、すべての自社コピー機15台の状況が見えてきた。ここでわかったことは、部署によって2つの使い方があることだった。一つは、サイズが同じ紙の原稿が中心で、大量のコピーをとるパターンだ。もう一つは、多様な原稿、立体物・本・サイズがバラバラの紙原稿が混在して多様なコピー作業が求められる部署だ。それにもかかわらず、今はどのパターンでも同一の機種が使われている。
サイズが同じ紙の原稿が中心で、大量のコピーをとる部署は、原稿自動送り装置付きのコピー機によって大幅に生産性を上げることができる。しかし、多様なコピー作業の部署は、逆に原稿自動送り装置は重く、使いづらくなる。これらの機能の違うコピー機を各部署に効果的に配置することで、トータルの生産性をあげることができる。また、コピー機の設置場所を変えることで、コピー機までの移動時間も短縮できる。コピー機の横に作業台を置くと格段に作業効率が上がる現場もあった。作業台の位置一つにも工夫の余地があるのだ。
また、現場回りには思わぬ副次効果もあった。各現場の責任者から関根が認知されたのだ。現場回りの中で、現場の皆さんに熱心に上手なコピー機の使い方をアドバイスしたからだ。
今までヤマトから何もしてこなかったことも問題なのだが、その分現場の皆さんは、喜んでくれた。
さて、現場の状況を反映して、関根は提案書作成作業に入った。しかし、作り出して見ると、なんか物足りなさを感じた。現場の状況に対応した提案内容ではあるが、同じ機能は、京都OAでも対応できる。関根が提案した後で、「うちでもできます」と追随されたら、ヤマトの優位性はなくなってしまう。今の商談状況では、山西総務課長から間違いなく京都OAに「ヤマトさんからこんな提案がきたよ」と情報が流れるだろう。関根は「うーん」と唸った。
ちょうどそこに、メンテナンスサービス課の吉田課長が通りかかり、「関根さん、現場の情報収集はうまくいきました?」と声をかけてくれた。
関根は、現場回りしてわかったことを、吉田課長に詳しく説明した。
「現場で分かったことをまとめて提案書を作ってみたんです。ちょっと見ていただけますか」
「よく書けているじゃないですか」
「京都メディカルラボの寺田総務部長は、ここまで調べた事は評価してくれそうです。ただし、同じことは京都OAでもできるので、結局、京都OAにするという流れになってしまいそうな気がするんですよね」
「どうしたらいいかなー」、関根はため息をついた。「なんかいいアイディアないですか?」
その時だった。「その多様なコピー作業の部署で、フットスイッチが使えないかな」吉田から思わぬ言葉が出てきた。
「えっ、フットスイッチってなんですか?」
「足で踏むスタートボタンのことです。関根さん、そこでは、両手を使っていろいろな作業をしていませんでしたか?」
「そうです。みなさん、コピーの上と作業台で常に両手を動かしていました」
「それだったら、フットスイッチがあると作業効率が上がるよ。正式な付属品ではないけど、カストマイズ対応で、フットスイッチが支社で開発されていたと思うよ。京都OAが担いでいる株式会社ムサシは、カストマイズ対応しない方針だから、このような付属品はないはずだし」
「それだったら、現場の皆さんが喜びます。誰もそんなことができるとは思ってもみないですし。大きな優位性にもなりそうです。いいアイディアありがとうございます。提案書に盛り込んでみますので、資料ありませんか」
「ちょっと待ってください」と言って、吉田は自席に戻り、フットスイッチの仕様書を持ってきてくれた。それはホテルのルームスタンドに付いているフットスイッチと似たような形状だった。
関根は、早速、フットスイッチを組み込んだ提案書作成作業に没頭した。なんとか目処がついて、顔を上げるとオフィスの時計は夜10時を回っていた。
関根は、ホッとして家路に着いた。
「今晩はあの嫌な夢は見ないで済むかな」と呟きながら、娘と妻の顔を思い浮かべた。

著作:渡邊茂一郎

その4 「BANTESAT」へ続く

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