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2017/01/19
先日、上野から新幹線での出張前に空き時間があったので、上野国立博物館にて長谷川等伯の国宝「松林図屏風」を見てきました。特別展ではなく常設展の中での期間限定展示ということと、平日の朝、開館直後であったせいか、比較的空いていて、じっくり鑑賞できました。さすが等伯の最高傑作です。400年の時を超えて、天才絵師の気迫が観る者の心に迫ってきました。
「松林図屏風」は、富士を背景にした海岸沿いの松林を題材にした水墨画ですが、霧の中から松が浮かび上がり、富士山がかすかに見える構図が幽玄の趣を醸し出しています。
離れて観ると、微かな波の音の中、亡き父と母が霧の中から出てくるような感覚に捉われました。
『フィールド・オブ・ドリームス』というハリウッド映画で、トウモロコシ畑から、主人公が憧れたかつての大リーグの名プレイヤー達が出てくるシーンがありましたが、同じ感覚です。
私はしばらく立ち尽くしながらこのイメージに浸りました。
次に「松林図屏風」に近寄りました。水墨画ですから、丁寧に筆を重ねるのではなく、まるで一筆書きのような思い切った筆跡で描かれています。
今度は、長谷川等伯の荒い息遣いが頭の中で響いてきたのです。精神を統一し、全身全霊の気迫を込めて筆を動かしている等伯から発せられる唸り声のような息と衣擦れの音です。
同じ絵ですが、遠くから観ることと近くで観ることには、大きな違いがありました。「松林図屏風」をちゃんと理解して受け止めるためには、時に離れて、時に近寄ってという2つの視点が不可欠なのでしょう。
私たちの仕事上でも同じことが言えるのではないでしょうか。仕事上で起こる問題に対して、まずは現場に行き細かく詳細を見ることでその原因を追求し、次に俯瞰的にステイクホルダーズ(仕事を取り巻く利害関係者達)全ての立場で問題の対応策と今後の予防保全策を考えていきます。
どちらの視点が欠けても的確な問題解決とはならないかと思います。
2つの視点から得られる情報と解釈を束ねることで、物事の本質が見えてくるように思います。
「松林図屏風」から、鳥の目と蟻の目で物事を見ることの意義を痛感したひと時でした。
(シェルパ・弥左衛門)