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2019/11/16

6.知れば知るほど不思議な実態(これで事故は起こらないのか?)

「厚樹さんの力で夢野を変えてください。私も一緒にがんばります!」

入社したばかりの私に対して、このような言葉をかけてくれた森所長。私は森所長の言葉を一生忘れることはないと思っている。

私は森所長の言葉に舞い上がっていたのかもしれない。なぜ、森所長は私に「夢野を変えてください」と訴えてきたのだろうか?森所長に聞けばいいものの、実際に聞くこともせず、夢野株式会社に対して自分自身が感じた印象だけで何が問題なのかを悶々と考えていた。自分の解釈で思いを巡らせるだけでは具体的な問題が見えるはずもなかった。

私が夢野に入社して4~5ヶ月の間で感じた下記の営業実態(波乱万丈③、④にも記載)に関しては、全国の営業担当者と同行する中で実際に自分の目で見て感じたことであったため、改善策のイメージはある程度ついていた。

・誰も商談のクロージングをしない

・そもそも、お客様を訪問する目的が曖昧(営業担当者もお客様も曖昧にしたまま)

・商談は価格の話が中心で定価の6~7掛は当たり前であとは雑談

・製品紹介はカタログのみで製品の特徴を説明することに終始

・お客様(案件)ごとの提案書を用意している営業担当者は皆無、提案書は存在しない

・お客様のウォンツはわかっているがニーズは不明、ニーズを理解しようとしない

・プレゼンテーション力が著しく低い

・親しげに会話しているにも関わらず、多くのお客様が競合他社の話題や価格を引き合いに駆け引きをしてくる

しかし、表層的な部分だけを捉えて、打ち手を講じたとしても効果があがらないこともわかっていた。このような状態になっている背景に何かが存在しているはずである。

「そうだ、森所長が何を変えてほしいと思っているのかを直接、聞いてみよう」

森所長が『夢野を変えてください」という話を私に言ってくれてから半年近く経っていたと記憶している。実際に森所長から話を聞いてみると彼は、感情を露わに色々な話しをしてくれた。しかし、話の内容が事実なのか、森所長の推測なのか、私には判断がつかないことも少なくなかった。とはいえ、夢野の問題点を私なりに整理するヒントを得たことは確かであった。森所長が話してくれた内容を私なりに整理してみた。

『古き良き時代における悪しき慣習を引きずったまま、誰もそれを変えようとしない』

私なりに整理したことを端的に表現するならばこのようになる。

古参の社員がプラスの影響力を発信しているならば夢野にとってこれほど心強いことはないが、それがまったく逆だというのである。営業所長が絶対的な権限を有しており『お客様との取引関係』、『部下の評価』、『経費の使い方』、『取引業者との関係』等々これら全てが曖昧かつ所長の独断で行われてきた。

更に性質が悪いのは、このような実態に誰も口を出さないことである。単に無関心なのか、口に出すことが出来ない何かがあるのか、それは定かではなかったが、特に古参の社員が所長をしている営業所に対しては、周りが腫れ物に触るような関り方をしていることは明らかであった。そんな中でも森所長は健全な感覚を有していたのだろう、自身が所長になってから、この実態に違和感を持ち続けていると話してくれた。

前々から気になっていたことではあるが、改めてお客様との取引実態について調べていくと、取引の成立を証明するものが一切ないのである。百万円を超えるような製品の販売に関しても口約束で取引が成り立っていた。見方を変えると凄い信用取引である。

「これで事故は起こらなかったのか?」

経理に確認すると今まで特に大きな問題が起こったことはないという。今まではそれでよかったかもしれないが、お客様が変化していることを考えると製品の売買を証明する契約書が必要であることは言うまでもなかった。売買契約書を作成し、今後の取引については契約書の締結を促すように働きかけていこう、そう考えたが、私の考えは甘かった。

やはり一筋縄では進まない、営業幹部から猛反対を食らったのである。

「契約書が必要な客は自分のところで契約書を用意する」、「今まで契約書などなかったのに今更そんなことを言ったら、うちのことを信用してないのかと言われるのが関の山だ」等々『余計なことを言うな、我々に余計なことをさせるなオーラ』全開で否定された。

そんなやり取りをしているさなかに事故が起きた。ある営業所で約1億円の大きな案件を受注していたが、所長に契約書の締結を促すと「必要ない」と言い切られた。

「このお客様とは10年以上の取引があり、これまでの取引においても月末〆、翌月末には必ず支払いをしてくれる優良顧客であるから心配ない」というのである。

その説明に納得がいかなかった私は、「当社のことはさておき、これだけ高額の取引をしていただくのだから、むしろお客様を守る観点で契約書が必要になるのではないか」と話すと、「我々がお客様に何か損害を与えると言うのですか」と逆ギレされてしまった。

数日後、そのお客様がある企業に吸収され、その企業の傘下に入ることが報道された。

実際、1億円の取引にも影響があった。吸収した側の企業担当者から「当社の取引条件は納品・検収完了月の月末起算180日手形での支払いになります」との一方的な通知があった。

所長はその担当者に対して「この取引に関しては翌月末に全額支払っていただくことになっていたのですが・・・」と訴えたが、先方から契約書の提示を求められた時点で万事休す。

先方の条件をのまざるを得ない結果になることは至極当然のことであった。更に悪いことにその所長は「入金が半年遅れるだけのことですよね、取引が無くなるわけではないからいいじゃないですか」と開き直っていた。1億円のキャッシュを見込んで、その月の資金繰りを考えていた会社が直前になって1億円の入金が半年先になると言われたらどうだろうか、それは大変なことである。この事実から私はあらためて夢野の実情を垣間見たような気がした。

しかし、悪いことばかりではない、怪我の功名ではあるが、この事件のおかげで契約書の必要性に誰も反対することができなくなった。

その後、末端社員まで契約書の締結を浸透させるのに5年程かかったものの、今では売買契約書の締結は当然の行為として行わるようになっている。

私が夢野株式会社に入社して最初の評価面談の時にも、会社の実態を垣間見る事実に直面した。私が入社する数年前に新たな評価制度が導入されていた。いわゆる目標管理による成果にもとづく評価制度である。営業職である以上、財務目標の達成が営業担当者の評価を大きく左右することに異論はなかったが、評価される社員の想像以上のモチベーションの低さに驚いた。本人の自己評価、所長による一次評価を踏まえて私が二次評価をした結果を踏まえて所長、担当者との評価面談を行うのだが、ある社員と面談を始めると不貞腐れた表情で「どうせ売上でしょ、昨年度は売上目標が未達成ですから何も言うことはありません」と自ら面談を切り上げようとしたのである。

「いやいや、確かに売上は重要だが、それが全てではない。むしろ、お客様のためにどのようなことに取り組み、それがどのような結果だったのかを振り返り、その活動を自分自身の成長に繋げていくことの方が重要なんだ」と話すと、「何、きれいごと言ってるんですか、口ではそう言いながら、結局は売上で評価されることはわかっています。実際にそう言われてきましたから・・・」という言葉が返ってきた。なるほど、こんな状態であれば社員のモチベーションが上がらないことも理解できた。

実際に夢野を変えてくださいと言ってきた森所長でさえ、社員の評価と育成の繋がりについては理解していなかった。社員の評価と成長を同期化させることの重要性を管理職全員があらためて理解し、腹に落としてマネジメントしなければ社員のモチベーションは下がる一方、ましてや社員の成長などは見込めるはずもないことを痛感した最初の評価面談であった。

人事評価についても「きれいごとを言うな」と批判されたことは1度や2度ではなかったが、幸い人事部門の理解を得ることができ、あれから約10年、今では部門間、管理職個々の評価誤差も縮小し、評価と育成の繋がりに関しても管理職が当然のように語っているレベルになった。

それくらいは当たり前のことかもしれないが、夢野ではやっと当たり前のことが当たり前にできるようなりつつあった。実際、現在に至るまで他にも驚くような事が多々あった。それはどのような出来事だったのか、それらとどう向き合い、どのように乗り越えてきたのか、詳しくは次回の波乱万丈⑦ 『怪しい動き、ついに発覚』で詳しく伝えさせていただきます。

著作:厚樹 重茂

続きは...

7.怪しい動き、ついに発覚

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