ブログ
Blog
2019/07/03
営業マネジメントシリーズ③
組織マネジメント
目次
成果を出し続けるチームの条件は、互いに切磋琢磨しながらもメンバーが同じ方向を目指し、目標の達成に向けて一丸となって進んでいけることです。
考え方や感情、能力や価値観などが一人ひとり異なるメンバーをどうまとめ、率いていくか。そこにはマネジャーとしての手腕が求められます。もし「うちはどうも組織力が弱い」「チームとしてまとまりがない」と感じているとしたら、組織マネジメントをもう一度見直してみましょう。数値目標の達成のみを掲げて「やり遂げろ!」とメンバーのお尻をたたくだけでは、なかなか思うような成果があげられません。
組織力を発揮できるチームにしていくためには、チームとして目指す目標と「なぜそれをやるのか」という意味が全員に共有されていること、コミットメントやコミュニケーションがしっかり図れていることの2つが重要なポイントになります。今回は、どうすれば組織力の強いチームにしていけるのか、具体的に紹介します。
eBook:【組織マネジメント】については、こちら
組織マネジメントに求められるもの
異なるメンバーを一つにまとめ、チームという組織で営業成果を上げていくために「目指す方向性を明らかにして道筋をつくる」「自ら積極的に取り組む意欲をチーム内に醸成する」「メンバーが互いに信頼し合い、連携できる土壌をつくる」ことが営業マネジャーの役割となります。
- 目指す方向性を明らかにして道筋をつくる
チームとして達成すべき目標を明確にし、メンバー全員が同じ方向を向いて活動していけるようにすることです。ここでのキーワードは「自分事化」です。目標の設定段階からメンバーを巻き込み、「自分たちの目標」という意識を持たせることで、メンバーの中に目標達成の重要性の理解と達成意欲が生まれます。
- 自ら積極的に取り組む意欲をチーム内に醸成する
キーワードは「コミットメント」です。コミットメントとは、責任感を持って、やり遂げることを言います。その土台となる動機づけには科学的体系があります。このコミットメントがメンバー個々に醸成されるような関わり方が大切です。
- メンバーが互いに信頼し連携できる土壌をつくる
ここでのキーワードは「コミュニケーション」です。営業マネジャーとメンバー、そしてメンバー同士が日頃からどれくらい相互理解を築き、コミュニケーションがとれているか、という点が組織力を高めていく重要な要素となります。
以上の役割を具現化していくために、重要な行動要素として次の5つのフレームをご紹介します。
- 方針浸透
- 組織の成功循環モデル
- チームビルディング
- 営業会議ファシリテーション
- ナレッジシェア
1.方針浸透
別冊の営業マネジメントシリーズ②戦略マネジメントで触れた「戦略シナリオ」の実現に向け、上位方針を受けたチーム方針として浸透することは、戦略が絵に描いた餅に終わるか否かのカギを握る組織マネジメントの出発点です。
まずは、マネジャー自らの言葉で方針の背景・目的・目標あるいは、重点施策の選択理由などをロジカルかつ明快に説明し、目標達成に対する自身のコミットメントを表明します。
一方、メンバーが目標に対してコミットしているチームは、常に営業マネジャーがあれこれと指示しなくても、自ずと成果に向けて意欲的に活動を進めていってくれます。そのためには、メンバーが仕事と目標に対してコミットメントを持てるような働きかけが重要になります。
なお、メンバーに働きかけていく際は、一方的になっていないか気をつけたいことです。やってほしいことを伝える場合、右下のアサーション(他者尊重にもとづく主張)スキルを意識して活用してみてください。それによって、営業マネジャーとしてメンバーにやってほしいことがしっかり伝わるだけでなく、メンバー自身の意欲を引き出し、自発的な実行力が向上します。
また、以上のようなマネジメント行動を発揮するため、マネジャーとメンバーあるいは、メンバー同士の信頼関係という土壌が大切になります。その点については次に説明します。
2.組織の成功循環モデル
「成功循環モデル」とは、組織マネジメントの基盤となる考え方です。マサチューセッツ工科大学ダニエル・キム教授が提唱した組織に成功をもたらすモデルとして、グッドサイクルとバッドサイクルの二種類を対比しています。
まず、バッドサイクルは結果追求を優先するも成果につながらず「結果の質」は悪化します。すると対立や押し付け、命令が横行し「関係の質」が低下します。関係が悪化するとメンバーは考えることを諦め、受け身になってしまい、「思考の質」が下がります。するとやらされ感で行動するため「行動の質」が低下し、結果として成果にも結びつかない悪循環に陥ります。
一方、グッドサイクルは「関係の質」を高めることから着手します。お互いを尊重し、一緒に考えることを繰り返します。ここから始めると、メンバー自ら気づき、面白味を感じてアイデアが生まれるなど「思考の質」が向上します。
さらに仕事が面白くなると自ら考え、自発的に挑戦するといった「行動の質」が高まります。それに伴い成果が上がり、成長実感を持つことで「結果の質」が向上します。それらを通じて信頼関係がより高まる好循環が回っていきます。
組織の成功循環モデルの出発点である「関係の質」を高めるためには、チーム内での日常の挨拶からはじめ、相互理解と共感や共有を重ねながら、価値観を尊重するまで段階を踏んで進めていきましょう。
- Level 1. 挨拶を交わし合う
人にとって、自分の存在を認めてほしいという欲求は、生きていくうえで欠かせないものです。その欲求が満たされると安心して仕事にも取り組めます。日常の挨拶は、メンバー間の存在を認め合う最も簡易なコミュニケーションになります。
- Level 2. 属性を知り合う
次に重要なのは、メンバー同士の属性を知り合うことになります。属性を認識しあうことで、お互いの関心事も意識するようになってきます。
- Level 3. 目的を共有する
さらに、組織の目的を常に共有し合うことで、チームとしての一体感の醸成につながります。
- Level 4. 悩みを共感する
役割やポジションを超えて互いの活動上の悩みを共感することで、共に支え合い、励まし合うという互酬関係が増していきます。
- Level 5. 価値観を認め合う
最後に、お互いが何を大切に仕事に取り組んでいるのか、その価値観を理解することが重要です。それによって、人はそれぞれ違いが存在し、それを認め合うことで、一人ひとりを尊重する関係性が育まれます。
3.チームビルディング
心理学者タックマンが開発したチームビルディングのモデルは、4つの発達段階を経ると言われています。営業マネジャーが新チームを任された時、チームはこのような段階で進化すると考えられます。そのような時にマネジャーとして意識する行動を紹介します。
形成期においては、メンバーとマネジャーが互いの人となりを理解する場が必要です。会議のような公式の場と懇親会のような非公式の場を活用しつつ、チームとしての課題を共有します。
その後の混乱期では、感情的対立の兆候を察知したら、合宿のような場で本音や考えをぶつけ合う機会をつくります。葛藤を避けず、雨降って地固まると信じて粘り強く対話しましょう。
混乱期を乗り越えると統一期を迎えます。そこではチーム共通の目標と役割をメンバー全員で決めていくプロセスを設定することで、チームとしての信頼関係の土壌が醸成されていきます。
機能期に進化したチームは、醸成された一体感をマネジャーがメンテナンスしながら、チームの持続的成長を目指していきます。たとえば、営業マネジャーとメンバーとの一対一の関与に止まらず、メンバー同士でのノウハウ共有や相互支援が生まれる場づくりも心がけてください。
このように一連の発達段階を加速するマネジメント活動こそがチームビルディングです。
4.営業会議ファシリテーション
営業会議のファシリテーションとは、話し合いを活性化させ、実行につながる意思決定を促進することです。運営責任者であるマネジャーはファシリテーターとしての役割が求められます。
具体的には、①会議の目的とゴールを常に共有・意識させる、②全員を参画させ、自分事化させる、営業③会議の活性化における障害を小さくする、➃意思決定内容を明確にして、実行を促す、といったことになります。
また、ファシリテーターの主な行動としては、会議前に目的とゴールを決めます。ゴール設定をすることによって、議論が脇道にそれたり、拡散したりした際に立ち返る拠り所となり、限られた時間で合意形成できます。その後は議題を明示した開催案内を予め関係者へ周知します。
次に会議中は、目的/ゴール/議題を確認した上で進行します、その際、メンバーの参画を促し、より建設的な議論とするためにルールを明示し、徹底することが重要です。たとえば、以下のようなルールをメンバー全員で合意してて、会議中は目に映る場所に貼り出しておくのも有効です。
- 常にゴールの達成を意識する
- 発言者は簡潔に話し、論点を変えない
- 聴き手は発言者の発言を遮らず、最後までしっかり聴く
- 他者の意見を否定したくなったら、まず質問してみる
- 他者との相違点でなく、共通点を見つけることを意識する
さらに、板書を上手に活用して議事を見える化し、意思決定(5W1H)を促進します。
最後は次回の日程とテーマを合意してしめくくり、会議後は議事録を作成し、決定事項/各自の役割分担などを共有して実行を促進します。その後は実践状況を確認し、マネジャーとして必要に応じた実行支援を行うことが大切です。
5.ナレッジシェア
ナレッジとは、単なる情報やデータではなく、体系立った知識や解決に役立つ知見、実践的なノウハウや経験則などを指します。
言語化・可視化した形式知と体験、コツ、人の記憶など埋もれやすい暗黙知に大別されます。
形式知は常に利用価値が高まるように鮮度管理(定期的メンテナンス)を徹底して、最新情報に更新、共有・活用するためのルールや仕組みを策定します。一方、暗黙知は簡単に表面化しにくいため、チームメンバーが気づきを得る工夫が必要です。具体的には、ロールプレイや動画視聴による内省やシミュレーション演習による疑似体験などにより体感する場を設定します。
さらに、分類されたナレッジをチーム内で常にアクセス可能で、共有・活用しやすい環境づくりも大切です。たとえば、方針浸透で触れたように戦略実現の目的や目標を自分事化させた上で、共有する意義を語りかけること、あるいは、成功循環モデルで述べた関係の質を醸成しつつ、最新情報の更新やナレッジの共有活用が持続するようメンバーの主体性を引き出すことです。
また、個別案件や営業会議の場面では今まで蓄積・共有されてきたナレッジをタイムリーに活用した効果的な助言やファシリテーションを行い、利用価値を高めることも有効です
まとめ
組織を束ねていく要は、言うまでもなく営業マネジャーです。メンバーの仕事観、キャリアやワークライフバランスのあり方、家庭事情などは千差万別です。個々に異なる価値観を有するメンバーをチームとしてマネジメントする上での体系的なフレームとして、方針浸透・組織の成功循環モデル・チームビルディング・営業会議ファシリテーション・ナレッジシェアの5つを紹介してきましたが、重要な前提条件として「メンバー全員の成功を最優先すること」と「メンバーを巻き込むこと」があります。
チームの目標や活動そのものを「自分事」として捉えているメンバーを一人でも多く増やすことこそ、組織力を強くしていく秘訣です。そのためには、数値目標の達成のみを掲げてメンバーの「尻に火をつける」ことだけに終始せず、メンバーが「このチームに貢献することで、成長を実感したい」と思えるように「心に火をつける」ことを心がけてください。「メンバーの成功こそがマネジャー自身の成功」というぶれない軸を信じて。
eBook:【組織マネジメント】については、こちら
執筆者:飯塚 圭介/シェルパワークス株式会社 取締役/1985年 大手食品メーカーのチェーン本部営業として活動/1989年 ㈱パーソル総合研究所(旧:富士ゼロックス総合教育研究所)入社。法人営業を経て、営業部長・パートナー営業部長を歴任/2008年 エグゼクティグコンサルタントとして活動/2016年8月 シェルパワークス株式会社 取締役就任