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2017/04/12
先日、落語を聴きに行きました。名人会ですので、出演者は皆ベテランの真打ばかりです。落語家5人と紙切り名人1人がそれぞれ一所懸命に演じてくれました。結構な期待をして観に行ったのですが、残念なことに落語家5人中4人まで、私は見事に居眠りしてしまいました。ランチを食べた後の眠気の影響が大きかったのでしょうか。
出演者はそれぞれ師匠と呼ばれる方々ですので、決して下手な落語ではないのです。途中の話を聴き漏らしたわけですから、その後の展開がわからなくなってしまい、最後の落ちにもピンと来ない状態に陥ってしまいました。
落語以外の紙切りの内容はどうだったのかと言うと、以前に観た時(数ヶ月前)と題材も話題もほぼ同じで、あまり面白くなかったにもかかわらず、眠くならなかったのです。動きがあり、切った紙を見たりすることもあり、刺激が多様だったからでしょうか。
落語も表情と身振り、手振りが入りますが、主に言葉だけで勝負するわけで落語の難しさや奥深さが際立ったような名人会でした。
さて、帰りがけにこんなことを思い出しながら、営業活動における「お客様の記憶に残ること」について考えました。法人営業では、お客様は企業や組織体ですので、「御社の売上増進に寄与します」、「事業の成功の可能性が高まります」とか「仕事が効率化され、コストダウンに繋がります」などのように、自社の製品・サービスの機能とそれがもたらすお客様の事業における効用・効果を伝えようとします。しかし、よほどの名人レベルの人を除くと、落語と同様に言葉だけではお客様の頭の中にしっかりイメージをしていただくことは困難で、お客様の記憶に残すことはできにくいのです。
私たちは、口頭のみで何かを伝えようとすると言葉が記憶に残らず、お客様の頭から消え去ってしまう様子を「いま空中戦になっているぞ」と警告的に表現して諌めます。
営業の世界では、時間をかけて選りすぐりの名人を育成するより、まずは一定以上の成果を出せる人材をより早く戦力化することが優先されますので、通常は商談が空中戦にならないように「セールスエイド」と呼ぶ面談サポートツールを用意します。商品カタログや販促パンフレットがこれに当たります。昨今はタブレット端末やスマートフォンなどのデジタル機器にサポートされた営業活動が主流になってきていますので、動画を活用した映像ツールが訴求力を高めてくれています。しかし、お客様との面談はナマモノですので、常に想定通り進むわけではなく、事前に用意したツールが使えない状況もまま起こります。
さあ、どうしましょうか。空中戦は避けたいですが、変化した状況に対応した動画や資料はありません。このような時、腕利き営業担当者は白紙と濃い目の鉛筆(今はフリクションペンでしょうか)を取り出します。白紙の上にお客様に伝えたいことを絵や文字で表現しつつ面談を進め、帰る時にはこの紙をお客様に渡してきます。面談をしながら白紙に書くことによって、お客様の視覚に訴えかけ、記憶に残りやすくするわけです。
このような営業活動を私たちは「ペンシルセリング」と呼んでいます。変な和製英語ですが「伝えたいことを鉛筆で書きながら視覚的に表現する販売活動」というような意味です。
かつては、白紙の天地をひっくり返してお客様が見やすいようサラサラと書ける名人もいました。動画も効果的ですが、「ペンシルセリング」のような手書きで伝えていくやり方も人間味が溢れ、伝えたかった内容がよりお客様の記憶に残るように思います。手書きによってその営業担当者の味わいも伝わります。
ただし、「ペンシルセリング」は必ずしも達筆である必要はありませんが、丁寧に書いた文字でないと、お客様の良き記憶とはならないかと思います。そういえば、先程つまらなかったと言った紙切り名人ですが、話した内容より上半身を揺らしながら手を動かして切った紙のシルエットの美しさが妙に記憶に残っている自分に今気づきました。
もはやデジタル機器に慣れ切ってしまった我々ですが、面談中に営業カバンから白紙とペンを取り出して「ペンシルセリング」をしながら、お客様の記憶に残る手書きの味わいを改めて思い起こしてみませんか。
(シェルパ・弥左衛門)