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2018/01/28
1週間はすぐ経ち、アポイントの日となった。この間も中井は数人の購買先の営業マンと面談していたが、どれも買ってくれる話でないとわかるとすぐ腰がひけ、早々と帰っていった。中井は、ヤマトビジネスマシンの関根との面談も期待せず迎えたのだった。
関根はいつものように明るくやってきた。「なんかこの営業マン、楽しそうだな」と中井は感じた。もう一人連れている。「そういえば2人で来るとか言ってたな」とつぶやきながら、中井は2人を会議室に通した。
「中井課長、今日はお時間いただきありがとうございます。前回いただいたご相談内容を社内で検討したところ、今日は弊社の関西支社で集中購買を担当している責任者と参りました」関根は早速切り出した。
早速名刺交換だ。「申し遅れました、私、ヤマトビジネスマシンで、西日本地区の集中購買を担当している小川と申します」、「私は京都西染工で人事・総務を担送しています中井です」と挨拶をかわし、着席する。
中井は少し驚きながら「弊社とは今取引がないにもかかわらず、わざわざ、弊社のために来ていただいたのですか」と問いかけた。
即座に関根が答える。「はい、もちろん構いません。今は取引がないと言っても、少し前までは長年に渡ってヤマトをご愛用いただいたのですから、今も大切なお客様だと思っています」
「先週、関根から電話がありまして、大切なユーザー様だからどうしても一緒に来てくれと依頼されました」と小川が話し出した。
「前回お伺いしました内容は関根から大よそ聞いていますが、その後の大きな変化はありましたでしょうか」
「特にないです。購買先の営業の方にもあれから数名お会いしましたが、いい情報はいただけませんでした。営業ですから当たり前ですが、皆さん、購買の話ではないと分かるとすぐ腰が引けますね」
「たしかに無理もないことですね。関根も営業職ですので、同様のこともあるかと思います。すべてのお客様に同じように接しているわけではないかと思います。京都西染工様の未来にかけているのかもしれませんね。さて、そろそろ本題に入りましょうか。購買部門としての経費削減ですが、弊社ヤマトビジネスマシンでの集中購買での事例をご紹介します」
この後、小川から資料が渡され、集中購買のしくみと具体的な削減額が提示された。
中井は、黙って聞き入っていた。一通り終わったところで、「よくわかりました。結局はたくさんあった購買先を絞って、大量購買に持っていって単価を下げさせるということですね」とコメントした。
「おっしゃるとおりです。ただし、単に業者さんを集めて入札して、安くさせるということではありません。」と小川は答えた。
「モノやサービスを買うことは、価値を提供してもらってその対価を支払っていることですので、安くしてもらうことで価値を大きく下げられたら元も子もありません。長い目で見ると、単なる値引きは、業者さんの収益を圧迫して、結局は今まで見えづらかった付加サービスが削られることになります。ですので、業者さんの業務プロセス上でのコスト削減にこちらも貢献して、その削減の一部を値引きとして、戻してもらおうと考えています。例えば、配送がいい例ですね。今まで各拠点からばらばらに注文され、都度配送していたものを購買側が注文を一括して行い、配送も時間を決めて定期配送とすることで、コストが削減できます。その削減分から協力の貢献分として値引きしてもらいます。ただし、扱う量が大きくないと削減効果もでにくいので、量を集めます。それで集中購買と呼ぶので、誤解を呼びやすいところがあるようですね。ざっとこんなことになります」
「なるほど。確かに買う側も協力して、業者さん側のコストダウンに協力していくのですね。これでしたら長続きしますね」
「中井課長が最も信頼できる業者に対して、このような考え方で相談してみたら、いい結果が得られのではないでしょうか」
「そうですね。一度試してみます。今日はとても貴重な事例を紹介いただきありがとうございました。関根さん、いい方を連れてきていただいて助かりました」と中井は満足げにお礼を言った。
「中井課長、お役に立てましてなによりです。わたしもとてもうれしいです。弊社からはまだまだご紹介させていただきたいことがありますので、来週も改めてお時間いただけますでしょうか」
「いいですよ。今度はどのような事例ですか」
「ファクシミリ業務でのコスト削減の事例をご紹介させていただきます」
「いよいよ売り込みですかな」中井は笑いながら答えた。「でも弊社のコスト削減や新規事業拡大にむけてのお話しでしたら歓迎です」
すっかり前向きになった中井は満足げに答えた。
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著作:渡邊茂一郎