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2016/11/09

実際に上京区で営業し始めると、お呼びはないので、他社使用ユーザーを1社1社落としていく一本釣りのようになった。毎月にぽつんぽつんと他社ユーザーを取ってくる。これは価値のある仕事とは思えたが、何せ台数が足りない。若手スターの同期横山と差がつくのはやむをえないが、新人の太田にも負けている状態だった。太田は、ユーザーでの増設を中心に販売台数を伸ばしていた。新規ばかりの関根は知る由もなかったが、当時の京都では業容拡大する企業が多く、ユーザーを担当すると追加の注文がよく来たのだった。
さて、関根は相変わらず、1日40−50件の飛び込み営業を行いながら、コツコツと新規開拓を行っていた。他社と長く取引がある企業に対して通いつめ、1号機で学んだお客様の効用にフォーカスした営業手法で、見込み客の信頼を勝ち取っていったのだ。ヤマトビジネスマシンのシェアを地道に上げていくという観点では、価値のある仕事だった。係長の松原も尊敬する先輩の大山も関根の仕事っぷりは高く評価してくれていた。しかし、この分では、半期の目標達成はおぼつかない状況だった。
がむしゃらだった新人時代とは違い、仕事への慣れ出てきて、関根はマンネリと諦めに少しずつ蝕まれていった。
12月の中旬、1日の活動に疲れて、営業所に帰ると、いつも的確なアドバイスをしてくれる5年先輩の大山から声をかけられた。ベテラン営業たちで構成される営業所スキルアップ委員会で、関根の話が出たそうだ。大山は悔しそうに話してくれた。「関根、今日の会議で、営業所のメンバーの営業スキルを上げるための勉強会の企画案を話し合っていたんだ。ベテラン営業が今まで講師を務めて実施してきたけど、今期は、若手同士で事例発表をさせて、互いに学び合わせようということになったんだ」
関根は、「いいですね。同期の横山の事例は聞いてみたいですよ」
「お前も呑気だな。講師役は横山だけじゃないんだ。新人の太田にもやらせようということになった。残念なことに関根の名前は出なかったよ。販売台数の少ない者は、経験知も不足しているはずだという意見だった。俺としては、お前はいい事例を積み上げていると思うんだが、何も言えなかったよ」
関根は、呆然とした。「俺は、そんなに低く見られているのか。新人の太田以下なのか」と思った。
勉強会の当日、横山は素晴らしい事例発表を行った。関根にも参考になることが多かった。さすが横山だ。新人の太田も販売台数が多いせいか、堂々としていた。事例自体は、ユーザーでの増設だったので、あまり参考にならなかったが。
勉強会終了後に懇親会が持たれ、その席で、関根の仕事っぷりを、大山が紹介してくれた。太田に「関根の事例も参考になるぞ。一度聞いてみたらいい」と言ってくれたのである。太田は、先輩を立てて、「はい、一度聞かせてください」と言うものとみんなが思ったが、太田の答えは意外なものだった。
「関根さんの事例は、僕には参考にならないと思います。あまりに効率が悪そうですし。そもそも半期目標にも達しそうにない方のアドバイスなんて役に立ちそうにもありませんので」。あまりのハッキリさに一同唖然としたが、周囲も関根を大して評価していないので、その場はうやむやになった。関根も何も言えなかった。
しかし、関根は悔しかった。ハラワタが煮えくり返るというのは、こういうことなのか。懇親会で食べたものが喉にせり上がってきた。太田が憎かった。しかし、数字が上がっていない身としては、一言も反論できなかった。この晩は、この光景が何度も脳裏に浮かび一睡もできなかった。

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著作:渡邊茂一郎

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