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2017/04/17

京都OAの山本は浮かない表情を浮かべていた。
「課長、持込デモは取れたんですけど、なかなか成約に繋がりません。取れたのはまだ1社、京都西染工さんだけなんです」
「お前にしては、弱気だな。まだ終わったわけではないだろう」
「そうなんですが、今度の担当の関根って、聞いていたようなダメセールスではないみたいです。持込デモ先でも、こちらが早期契約を狙ったところは、ことごとく引き延ばしにあって、予定通り進んでいません。洛西染工なんて一気にいけるかと思ったら、ヤマトも持込デモすることになって、がっぷり四つの勝負になってきました。成約できた京都西染工さんだって元々うちの会長との繋がりがあったわけですからね」
「でも木村、京都西染工は、会長から働きかけてもらってもなかなか落ちなくて、困っていたユーザーだろ。それが落ちたんだから良しとしなきゃな。うちの会長も喜んでいたぞ」
「まあそうなんですけど、関根って意外とやるかもしれません。以前は上京区担当だったそうですが、上京の担当に聞いたら、あそこではうちも結構やられたようです」
「そうか、じゃ最下位セールスってわけじゃないな。持込デモに持ち込んだところは、ふんどしを締めてしっかり勝負してくれ」
「はい、気を引き締めて動きます」
翌日から、山本は持込デモ先に精力的に訪問をかけた。利用者にアンケートを配り、自社の優位性が活きる利用のされ方を模索していった。
特に洛西染工は一度は契約まで今一歩までいったこともあり、連日通った。
その中で、山本は、染物工場特有の使用場面に遭遇した。
染色の柄は、絵付け職人が、注文主からの依頼に基づき、過去から蓄積した多様な絵柄を参考に手書きしていく。ただし、絵付けする前に、今ある絵柄をコピーして切り貼りしながら加筆して、色を塗り、全体のイメージ図を作り、まず依頼主に見せる。依頼主からOKが出て、本格的な手書きを始めるわけだ。
その過程で使われるコピーの量は、全体からすれば、わずかであるが、注文主とのやりとりに使われるため、どうしても絵付け職人は画質にうるさくなる。尚、現在では、絵付けの工程はほとんどデジタル化されておりPC上で画像が作成される。もちろん注文主とのやりとりも画像データをe-mailでやりとりする流れになっている。
さて、山本が持ち込みデモしているコピー機の前に来た時に、ちょうど絵付け職人が、その切り貼りした絵柄のコピーをとっているところだった。
「あっ、京都OAさん、ちょうどいいところに来てくれた。このコピー機の写り具合なんだけど、白地のところが、少しグレーがかっているけど、真っ白にならへんかな。今のままだと、白地をわざわざ白く塗らなくちゃあかんのや。後、線も若干ボケているからもっとシャープにして欲しいんや」と職人から依頼された。
山本は、「後でカスタマーエンジニアに調整させます」と軽く答えたが、完全な白にするのは、難しいことはわかっていた。
京都OAが販売しているムサシOAのコピー機は、画像を形成するプロセスで、現像液を使用する構造になっているため、どうしても白地の部分にうっすらとトナー(画像を形成する黒の微粉体)が乗ってしまうのだ。また線も微妙にボケる。反面、構造が簡単で、1枚目の排出時間も早く、通常の事務的な複写作業については、なんの問題もない。製造コストも安くでき、あっという間にシェアを伸ばしたのだった。
反面、ヤマトビジネスマシンのコピーは、画像形成プロセスが乾式のため、構造は複雑でコスト高だったが、白地は真っ白で、線もコントラストがよく効いたシャープな画像となっていた。
山本は、カスタマーエンジニアに電話して「なんとか職人が納得できるレベルまでデモの期間だけでも調整してくれませんか」と依頼したが、エンジニアからの返答は芳しいものではなかった。
「まあ、たまの利用だから、全体でのメリットを強調しておくか」と自分自身を納得させ引き上げた。

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著作:渡邊茂一郎

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