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2017/07/18

3課の他のメンバーは、台数の契約が増えると、アメの恩恵にありつこうと夢中になっていた。小規模ユーザーだけでなく、中堅ユーザーにもセットリースは拡散していったのだ。
関根は、納得できずにいた。当然、力は入らない。今までの営業活動で販売できる台数は、到底他のメンバーには及ばない。月間販売台数はチーム内最下位となり、ムチが適応されていったのだ。あっという間に椅子・机と取り上げられ、西京区という広域を担当しているにもかかわらず、ミニバイクで営業活動する羽目になった。
この間、3課のなかでは、ある変化が起こっていた。メンバー同士のノウハウ交換が急速に減りだし、ついにはなくなった。どのお客様で何が決まったのか、についても語らなくなった。月末まで誰が何台決まったかは皆目分からない。みんな隠すからだ。メンバー同士の会話も減り、営業上の情報交換はなくなり、それぞれは孤立していった。
そんな中、関根は、一人月間販売台数チーム最下位を毎月続けていた。当然モチベーションも下がる。セットリース作戦以外の通常活動も鈍っていたのだった。反面、3課全体は、販売台数が大幅に増え、開催地区のチームNo1の業績を誇っていた。
課長の田島からは、「お前は、ヤマトビジネスマシンの裏街道を歩くんだ」と言われ、ダメ営業人材というレッテルを貼られていた。
関根は、できるだけ田島課長とは顔を合わせないように、遅めに帰社するようになった。
そんなある日の朝、会社に父の関根茂から突然電話がかかってきた。「よお。元気にやっているか。実はな、京都に出張があってな。今京都府庁に来ているんだ。どうだ今晩空いていたら、一杯やらないか」。
「なんだ、早めに言ってよ。こっちだって予定もあるんだから」と関根は言いつつも「なんとか調整するよ。社会人になって外で一緒に飲むのも初めてだもんな」と受け入れた。
「せっかく親父が誘ってくれたんだから、先斗町でも行くか」と呟いて、馴染みの居酒屋に予約を入れた。
父と地下鉄四条駅で待ち合わせて、2人は先斗町に歩いて行った。居酒屋に着くと、乾杯してしばらく娘の話で盛り上がった後、父が話し出した。
「一郎には申し訳なかったと思っているよ。お前の母さんが亡くなってからも、一緒に過ごす時間が少なかったからな。寂しかったろうな。でも新しい母さんもお前には気を使ってくれたんだぞ」
「うん、それはよくわかっているよ。母さんには感謝しているよ。自分が産んだ子供とも分け隔てなく接してくれたのはわかっていたよ。ちゃんと叱ってもくれたし」。
「そうか、一郎の今の言葉を聞いたら、泣いて喜ぶぞ。一度話してやれよ」。
「そうだな。今度帰ったら、母さんにはちゃんと話すよ」。
「そうか、そうか、よろしく頼むな」父は嬉しそうに語った。
「あの頃は俺も油の乗った商社マンだったからなー。平日はもとより、土日も出張とゴルフ接待で一杯一杯だったんだよ。まあ、お前をほったらした言い訳にはならんがな」
「親父、俺も社会人で子供も持った身だから、今なら親父のその時の状況はわかるよ。あの頃は、ふてくされたけどな」
「一郎、俺らは、業界は違えども、同じ営業という職種であることは共通点だな。俺は営業という仕事に巡り会えて良かったと思っているよ。お前はどうだ?」
「うーん、まあそうかな」関根は浮かない表情で答えた。
「どうした? なんかあったのか?」父の関根茂は心配そうに関根の顔を覗き込んだ。

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著作:渡邊茂一郎

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