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2018/02/11
中井が「管理経費の20%削減」の厳命を会長の長崎から受けて、半年が経った。気づくと京都は紅葉の季節となっていた。この6ヶ月は中井に大きな変化をもたらした。受け身で仕事を受けていた中井が、会社のトップの方向性を受け、自ら様々な取り組みにチャレンジするようになっていた。
始めはとても無理と思っていた「管理経費の20%削減」はすでに達成され、総務人事部のメンバーは活き活きと働いていた。
京都西染工の新庄と関根が取り組んだファクシミリ通信費削減の取組も成果をあげ、ヤマトビジネスマシンの新しい普通紙記録型の高速ファクシミリが導入されていた。
さて、長崎会長から厳しい叱責を受けた日からちょうど6ヶ月後が経った。約束の報告の日だ。
中井は、「管理経費の20%削減」というタイトルの資料を片手に、会長室に向かった。
会長室では、長崎会長、長崎社長、河瀬取締役が揃って待っていた。
早速、取組内容の報告が始まった。
30分程、説明と質疑応答があり、報告は終わった。
長崎会長から早速、「中井君、ご苦労様」と労いの言葉があった。
「いやー。私より人事総務課のメンバーが頑張ってくれたのです。全てメンバーの力のお陰です」と中井が答えると、社長からも「なかなか面白い報告だったよ。こちらもいろいろと気付かされた」とコメントしてくれた。
報告会が終わり、中井が会長室を退出すると、社長から「中井君、自信をつけましたね。河瀬さん、いい後継候補が出ましたね」と河瀬は言葉をかけられた。
「はい、思った以上に中井君は一皮むけましたと思います。ここまで課のメンバーを掌握するとは思いませんでした。また、外部との折衝力も格段に向上しました。来年度からは、部長代理として、私の業務も一部担ってもらおうかと思っています。いかがでしょうか」。
「遅すぎたくらいだな。まずはやらせて見ようか。」と会長が答え、社長もうなづいた。
さて、その頃オフィスに戻った中井は、自席に着き、この半年間を振り返っていた。
「今回の取り組みは本当に勉強になったなー。メンバーがあんなに動いてくれるなんて、思いもよらなかった。今までは、方針にしても、指示にしても自分が決めて、伝えていたが、メンバーも巻き込み、メンバーに決めさせることで、こんなにも一人一人が力を発揮するんだ。彼らへの感謝の気持ちがより強くなった。もちろん日頃の自分自身の言動も大切だった。メンバーの成功を考えて行動することの意味もかみしめることができた。それと外部のベンダーとの関係も勉強になった。今迄は、営業の人は、自分たちの商品を売ることだけ考えているものと思い込んでいたが、お客さんと一緒になって、お客さんの成功のために考え、行動する営業が少数だが居たことが大きな気づきだった。また、我々購買側の振る舞いの大切さにも気づかされた。ヤマトビジネスマシンの『業者さんの業務プロセス上でのコスト削減にこちらも貢献して、その削減の一部を値引きとして、戻してもらうんです』の発言には驚いた。買う側も踏ん反り返っちゃダメだってことだ。確かにベンダーもお客さんがこのような態度だったら、本気になってくる。結果として、長崎会長からの『管理経費の20%削減』のお達しは、初めは反発したけど自分を一皮剥いてくれた天からの贈り物だったなー。ヤマトビジネスマシンの関根さんともこれから長い付き合いになりそうだな」
このような思索を巡らしながら、中井の苦闘の6ヶ月は終わった。
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著作:渡邊茂一郎