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2018/04/26
あっという間に、その日はやってきた。
関根と佐久間は、京都メディカルラボの応接室で、寺田取締役総務部長と山西総務課長を待っていた。
「お待たせしました」、寺田部長と山西課長が応接室に入り、「関根さんには、いろいろと頑張ってもらったようですね」と寺田部長から労いの言葉があった。
「いいえ、頑張ったなんて、とんでもないです。そもそもご迷惑をおかけしていたのは弊社の方ですから」と関根は恐縮しながら答えた。
「では、せっかくの提案を伺いましょうか」と寺田部長から促され、2人に提案書を渡して、関根が説明を始めた。佐久間は関根の説明を補足していく。
寺田部長と山西課長は、顔色が全く変わらない。いいのか、ダメなのか、さっぱりわからず、関根は不安な気持ちになっていた。
説明が終わり、関根から「いかがでしょうか?何か気になる点はありませんか」と問いかけると、早速、山西課長が突っ込んできた。
「そうですね。うちとしては、京都OAさんより下げていただいた金額を期待していたのですが、ちょっとガッカリです」
寺田部長からは。「まあ、山西はコスト削減が当面のミッションですので、厳しく言ってますが、よく調べてくれたと私は思います。他社の提案とは、一味違う内容でした。改めて他社と比較して、一両日中にはご返事します」と答えてくれた。
佐久間と関根は「よろしくお願いいたします」と頭を下げ、提案の説明は終わった。
帰りの車中で、佐久間が口を開いた。「どうなるかちょっとわからんな。関根、どうする? 山西課長としては、京都OAの提案で、まずは目の前のコスト削減をしたいと思っていそうだな」
「そうですね。寺田部長はかなり評価してくれているんですが・・・。ただし、寺田部長としては、山西課長の意向を無視しては、決めないようにも思えますね」
「確かにそう見えるな。関根、今から山西課長に会って来ないか。関根1人で山西課長の本心を聞いてみたらどうだ」
「確かにそうですね。山西課長さえ落とせば、なんとか取れるように思います。今から山西課長に会ってきます」
関根も山西課長に会ってどうするかは、イメージできていなかった。しかし、このままでは、どう転ぶか見えなかった。あれだけ各部門も回り、自分の提案に自信も持っていた。京都メディカルラボの業務効率向上に継続的に貢献できることに自信があったのだ。思い切って自分の思いを山西課長にぶつけてみようと思い至った。
関根はとんぼ返りして、再び京都メディカルラボに戻った。
「どうしたんですか、また来るなんて。関根さん。そう何度も来られても困りますよ」
山西課長は、しかめ面で関根を迎えた。
「いやー、山西課長、申し訳ありません。一つだけどうしてもお伝えしなくちゃと思いまして。すぐ失礼しますから」
「なんですか、その一つだけとは?」
「はい、先ほどの提案の中で、山西課長のミッションがコスト削減だと、寺田部長が仰っていましたが、それで価格に厳しくされていらっしゃるんですね」
「まあ、そうですが・・・」
「ということは、今月だけではなく、継続的にコスト削減に邁進されるということでしょうか」
「そりゃそうです」
「それでしたら、私どもの問題発見力を買ってくださいませんでしょうか」
「えー、どういうことですか?」
「今回のご提案を通じて、私は御社のいろいろな部門に伺いました。そこでじっくりとお話しを聞くことで、様々な効率化のネタが見えてきました。今回の提案内容はその一つです。私としても、現場にまだまだ効率化のネタがあることを痛感しました。これからお取引していただければ、さらに効率化のご提案ができると思います。今回の提案内容は他社に比べて、少し高い価格かもしれませんが、これから継続的にコストダウンのご提案ができるものと自信もつきました。もちろん、直接コストだけではなく、複写印刷に伴う間接コストも含めてのトータルコストダウンです。いかがでしょうか」
「うーん、そう言えばそうだけど・・・」
「今回コストダウンができても、またしばらくしたら、会社からはコストダウンが求められますよね。少し先を見通した上で、今回の提案内容をご検討頂きたいのです」
関根は、額から汗をかきながら、話した。
「確かに、そういうことは言えますね。わかりました。今のお話も含めて、寺田と話し合いをします。どうなるかは、わかりませんが、少なくとも関根さんの熱心さはよく分かりました」と山西課長は、苦笑いしながら、頷いてくれた。
「お時間いただきありがとうございました」と山西課長にお辞儀をして、関根は京都メディカルラボから退出した
関根の長い1日が終わった。
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著作:渡邊茂一郎