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2020/05/31
11.経営者の覚悟。それが全てである(将来を見据えた抜擢人事)
営業改革のゴールをどこに設定するか、私は『社風を変える』ことをゴールに設定すべきであると言ってきた。では、夢野株式会社において社風を変えるとはどのようなことなのか、あらためて下記に整理しておきたいと思う。
なお、ここでいうゴールは最終到達地点としてのゴールではなく、夢野株式会社の営業部隊が新たなスタートを切るためにまず、辿り着かなければならないマイルストーンである。
- コンプライアンスを遵守する個々の意識改革と組織の体質改善
*新ルールの構築:古き慣習の見直しとルールらしきものの見直し
*新システムの構築:アナログ的な仕組み、旧システムの見直し - 営業個々の成長意欲向上、成長実感を下支えする育成システムの構築
- 仕組みシステムを運用に導き、成果に繋げるまでやり切らせるリーダーの選抜、任用
これまでも書いてきた通り、10年前までの夢野にはコンプライアンスという概念は存在していなかったと思う。少なくとも私の目にはそう映った。勿論、社員一人ひとりを見ると、ほとんどの者が社会常識を持ち合わせており、誠実に業務に取り組んでいた。しかし、実際には社員が不正を繰り返してきた事実があった。しかもそれが幹部社員であり、一人や二人ではないという恐ろしい事実である。また、その事実を知りつつ、見て見ぬふりをしてきた多くの社員が存在していたのもまた、事実である。
営業の視点で言うならば、自分の営業力で売ったのではなく、先人たちが築いてこられたお客様との関係性と製品力に助けられ、売れていただけであった。しかし、その事実に誰も向き合おうとしないのである。そればかりか『お客様と信頼関係が構築できている』と当然のように口にする営業担当者が本当に多かった。自分では信頼関係ができていると口にはするが、客観的に見るとお客様の掌の上でうまく操られているだけである。営業と同行すれば一目瞭然であった。それが証拠に『信頼関係ができている』と言っているお客様に対してでさえ、価格中心の商談しかできていなかったのである。更に言うならば、夢野の圧倒的な市場占有率が徐々に低下し続けている理由のひとつは営業力の低さにあると言える。
上記①についてはここ数年、相当なパワーをかけて取り組んできた。その成果は徐々に表れている。今の状態は不正が蔓延していた頃と大きく違う。当時と比較すると別会社と言えるほど大きく変化している。しかし、これで十分かと問われれば答えはノーである。なぜならば、営業幹部の間に温度差があるからだ。たとえば、ルールひとつをとってみてもその捉え方にバラつきが生じてしまい、後になって各自の解釈を確認しつつ、ルールを再確認するようなことが常に行われている。
営業幹部とは複数の営業所を束ねるエリア統括部長であるが、そのエリア統括部長同士でさえ、このようなズレが生じるのだから部下への落とし込み方や部下の理解にズレが生じてしまうのは至極当然である。これが実態なのだから『社員個々の意識改革と組織の体質改善を促す』という本来の目的に対してさえ、その受け止め方に温度差が生じてしまうことは容易におわかりいただけるだろう。
②においても同様なことが言える。自社の営業力を冷静に見つめなおすことから目を背け、『開発、製造部門がいい製品を創れば売れる、売ってやる』と豪語しているエリア統括部長が実在している。勿論、代々受け継がれてきたお客様との良好な関係が一気に崩れることは無いと思うが、夢野の営業力は現状に甘んじていられるような状態ではない。この事実を直視し、営業メンバーに対する育成のあり方について真剣に向き合うべきであるが、このことについてもエリア統括部長ごとの温度差が縮まることは無さそうである。
この事実に夢野社長が気づかないわけがない。社長も営業改革をゴールに導くためには①と②の施策に取り組むことが不可欠であることはわかっている。しかし、その施策を誰かが先頭に立って牽引し、営業本部を束ねなければ①と②の施策がうまくいかないことは目に見えている。①の施策についてはまだしも②の施策については、まだ着手すらできていないといっても過言ではない。早期に②の施策に着手し、①と②の両施策を機能させ、営業本部の基礎を再構築しなければならない。そのために必要なのが③つまり、営業部隊を背負って立つリーダーの存在なのである。しかし、誰をリーダーに据えるか、その答を出すことは容易ではない。リーダーとは営業本部長を指すが、現営業本部長である夢野社長の後を担う人事なのだから簡単には決められないのも当然だろう。
エリア統括部長の中には、夢野社長よりも長く会社を支えてきた人材が数名存在している。これらの人材をないがしろにすることはできない。私自身は途中からエリア統括部長として招かれ、改革のきっかけとなる不正を暴いた本人である。また、営業の在り方に警鐘をならしたのも私自身であることから、他のエリア統括部長からは煙たがられている。この私を営業本部長に任命したとあれば何が起こるか、私より遥かに社歴も長く、会社を支えてきたベテランの統括部長が黙ってついてくるとは思えない。
しかし、このベテラン統括部長たちが大きな変化を起こそうとする組織のリーダーになれるだろうか。長年に渡って成果を積み重ね、築き上げてきた今の立場、地位にしがみつこうとしている人には改革は起こせない。私でも推測できることを夢野社長が思わないはずがない。
昨年、夢野社長は2名の若手をエリア統括部長に抜擢した。その時、私は悟った。社長はこの2名の中から営業部隊のリーダー、つまり営業本部長を大抜擢しようと考えていると。
2021年4月、夢野株式会社には新たな営業本部長が生まれるだろう。それはベテランの統括部長からではなく、若手の統括部長から選ばれる公算が強い。この人事が実際に発令されたら、一時的には間違いなく揺らぎが起こるはずである。しかし、この大抜擢こそが夢野株式会社の営業改革をゴールに導くうえで最も重要なことだと確信している。候補となる二人の若い統括部長にはそれぞれ成長課題はあるものの、共に自身の既得権益や地位にこだわる人材ではなく、①②の施策に対しても周りを巻き込みながら、全力で成果に結びつける動きが取れる人材だと思っている。
私は、この構想に夢野社長の営業改革に対する強い意志を感じた。夢野株式会社の現状で実際にこの任用が実現するならば、これを経営者の覚悟と言わずして何と言うのだろうか。
著作:厚樹 重茂
続きは…
12.忘れてはならない営業現場の実態(今こそ心が通い合う境づくりが必要)