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2020/03/12

9.営業改革とは何を改革することなのか(営業改革は企業変革そのもの)

前回の第8話(経営者の決断、膿を出し切る/厳格さとは何かを知る)で、私は『厳格さ』の重要性を実感したことについて書いた。会社の将来を考え、社員の成長を考えるのであれば、何よりもお客様のことを第一に思い、自分のことよりも相手のこと、仲間のことを思い、そして今のことだけではなく未来のことを見据えて発言し、行動すべきであることを考える機会を得ることができた。その中で自分の中の足らずや自分に必要なことは何かを考えて、私がたどり着いた答が『厳格さ』であった。

私が夢野株式会社に入社した直後、全国の営業所を回り、全ての営業担当者と営業同行する中で感じた営業実態と危機感は次のようなものであった。

・誰も商談のクロージングをしない

・お客様を訪問する際の目的が曖昧(営業もお客様も共に曖昧)

・商談は価格の話が中心で定価の7掛・6掛は当たり前、あとは雑談

・製品の紹介はカタログのみ

・カタログに記載されている製品の特徴を説明することに終始

・お客様(案件)ごとの提案書を用意している営業担当者は皆無、提案書が存在しない

・お客様のウォンツはわかっているがニーズは不明、ニーズを理解しようとしない

・プレゼンテーション力が著しく低い

・お客様が夢野の製品に対する絶対的な優位性を認めているようには感じられない

・親しげに会話するにも関わらず、多くお客様が競合他社の話題や価格を引き合いに出す

・売れ易い環境があり、営業が『売った』のではなく『売れてきた』ことに気づいていない

(波乱万丈!第3話~第4話に関連内容を記載)

 

入社当時の私は、この状態を何としても変える必要があると考えていた。ニッチな業界で競合が少なく、業界内で極めて高い認知度を得ており、お客様の信頼度が高い。営業にとっては絶対的優位性を保てる材料が揃っているにも関わらずこれらの武器を活かしきれていない。更に言うならば、これだけ恵まれた環境で営業活動ができることに誰も気づいていないように感じた。

また、このような背景がもたらすもう一つの危機感が私の中にはあった。営業である以上、売上目標が設定されることは当然ながら目標達成するための施策(KPI)を設定し、進捗管理をする仕組はあるものの、その仕組みが機能していないことである。その要因としては、営業担当者の『プロセス軽視』、『結果が全て』という意識とそれを是としている管理職の存在にあると思っていた。見方を変えれば、このように課題が明確であるのだから、あとは課題を解決する打ち手を考え、取り組んでいけば変化をもたらすことができると思っていた。

勿論、会社の実情を考えると一朝一夕でできることではないこともわかっていた。更に言うならば、キーとなる管理職の賛同が得られるか、皆がついてきてくれるか、当時の状況を考えるとそれは決して容易なことではなく、相当な覚悟が必要になるとも思っていた。営業を変えねばという思い、大きな不安、複雑な心境を抱えたまま半年弱の準備期間を終え配属先に赴いたが、着任後は『営業を変える』などと悠長なことを言っていられる状況ではなかった。

二度の重大な不祥事をはじめ目の前で起こる様々な問題に対応することで精一杯で、先々のことに目を向ける余裕はなかった。営業社員の離職率が下がらない、補充するために採用した社員が半年も経たないうちに退職する悪循環に歯止めがかからない。営業社員の育成が出来ない、期待する売上を稼げない営業は『駄目営業』というレッテルが早々に貼られてしまう。売上目標を達成するために設定した施策も時とともに形骸化していくという悪しき風潮は簡単には変わらない。会社の実態は想像以上に複雑で根深いものがあった。

入社当時に抱いていた『営業を変える』という考えは、不正・不祥事への対応、目の前で起こる様々な問題に振り回される中で徐々に変わっていった。現状を考えた時、目標を達成するための施策の精度を高めることが本当に営業を変えることにつながるのだろうか、営業担当者に教育を施し、育成すれば営業が変るだろうか、私の答は『ノー』に変化していた。

あり得ない不正、不祥事が発覚した後のしらけきった社員の様子は、経営層に対するメッセージであると思っていた。社員には不正の事実、不正を犯した社員の処分しか見えない。発覚から処分に至るまでにどれだけ大変なことがあったのかなど社員は知る由もない。社員の目には不正をした者ばかりがフォーカスされているように映っていたのだろう。

そんな中で垣間見たしらけた様子は、「このような不正が起こってしまった背景にはそもそも経営層に甘さにあったのではないか、経営層の甘さが悪しき習慣をつくり、今の企業風土をつくりあげたのだ」という私への訴えであるように思えてならなかった。私がこのように感じるのだから、夢野社長が感じていないわけがなかった。だからこそ、社長は私に対して「現職の管理職は過去も含め全てを背負うものだ」と厳しいことを言ったのだと受け止めている。

私は、数年前の入社当時に営業を変えなければならないと強く感じたが、今思えば、その時アクションを起こさなくてよかったと思った。実際はアクションを起こさなかったのではなく、起こせなかったのだが、結果よしである。

本当に営業改革を考えるのであればまず経営トップが覚悟を決めることが不可欠である。覚悟がなければ改革など出来るはずがない。トップの覚悟を受け、同じ熱量で経営幹部が本気で改革に取り組むことができれば、その時点で改革は大きく前進することになるだろう。

私が入社して4年が経った年、夢野の営業本部は今まででは考えられない程の高い売上・利益目標を掲げた。その目標を掲げた年の期初、営業現場では不安の声のみならず、早々に諦めの言葉、否定的な発言が飛び交っていた。しかし、我々経営幹部はぶれなかった。目標を持つことの意味、それは「その目標が無ければ、成し得ることができなかった事に対する実現可能性を最大限に高めること」である。と、根気よく説き続けた。

私が入社した頃の夢野営業本部の幹部には2つの顔があるように映っていた。社長の前で見せる顔と社長がいない時の顔、表向きはやる気を装うが、裏では諦めムード漂うしらけた顔。当時は社長VS幹部の対立構図が明確であった。ところが大きな不正・不祥事と真正面から向き合い、それを乗り越える過程の中で経営トップと幹部とのベクトルは確実に合い始めている。それもそのはず、経営トップが打ち出すブレない方向性を信じそれを必死にキャッチアップすることができない幹部は徐々に幹部の座から降りているからである。幹部にとって過去の栄光、これまでの実績など関係ない。今の姿勢、その幹部の持つポテンシャルが経営トップの方針をしっかり展開できるかどうかで見極められているからである。そこに情けは存在しない。一見、非情にさえ思えるが、今では経営トップのみならず、同じ思いを有した経営幹部が揃いはじめている、まさに経営トップの人材育成が成功に向け着実に進んでいることの証である。

このような背景を受け、残念ながら高く掲げた目標を達成することはできなかったが、史上最高売上を大幅に上回る結果をもたらした。その年の取り組みは最高売上を更新しただけに終わらなかった。営業が目標を達成するための施策のひとつに製品ごとの販売目標を決める取り組みがあった。一見、当たり前に見えることをこれまで実施してこなかった。全てが結果管理だったのである。

どの製品をどれだけ販売するのかを明確にして取り組んだ。製品ごとの販売目標を達成するためには、どれだけの案件が必要になるのか、その案件の受注率をどう設定するかを真剣に考えた。そうするとおのずと、どれだけの数のお客様にアプローチすべきかを考えるようになり、必然的に訪問目的を明確にしたアプローチをするようになった。これは夢野にとって大きな変化であり、前進であった。

また、製品ごとの販売目標にコミットすることで営業部門と製造部門との関係性も変った。今まで製造部門は過去のトレンドとにらめっこしながら欠品を起こさないように製品を作ってきたが、営業が目標にコミットしたことで、製造部門も製品の優先順位を明確にすることができ、絶対に欠品は出せないという緊張感の高まりとともに生産効率が高まった。営業にはコミットした台数を何が何でも販売するという機運の高まりが見られるようになってきた。このように製・販が健全な緊張感の中、共にお客様に目を向けることができるようになっていた。

販売目標の達成は営業だけではなく、会社全体で取り組まなければ成し得ることができないことであることを改めて実感した。営業改革は現場からのアプローチでは実現できない。経営トップのコミットメントと情熱のもと、経営からのアプローチではじめて実現できるものである。つまり『営業改革は企業変革そのものである』ことを実感する場に身を置けたことはこのうえない幸運であった。

ただ、夢野の営業改革はまだ緒についたばかり、まだまだ先の長い取り組みになりそうである・・・。

著作:厚樹 重茂

続きは...

10.営業幹部が核というがそれは本当なのか(営業幹部に逃げるな)

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