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2019/06/07

営業マネジメントシリーズ②
戦略マネジメント

目次

「戦略とは、なにか?」いろいろな定義が存在していますが、まずは、「ビジョン=めざす姿」を具現化するための道筋と言えるでしょう。

ビジネスのフィールドでは顧客・競争相手・自社が存在しますので、これらの要素を盛り込んでビジネス的に戦略を表現すると、「ビジョン達成に向けて、自社の強みや持ち味を活かしながら、競争相手よりも付加価値の高い製品・サービスを顧客に提供し続けるための実行計画」となります。

そして、この計画を理解しやすいように、わかりやすく網羅的に表現したものを戦略シナリオと呼んでいます。営業現場では、営業戦略を戦術とよく混同してしまうことがあるため、その違いについてみていきましょう。

戦略(strategy)とは、ビジョンを実現するための全体的な方針のことです。

一方、戦術(tactics)とは、戦略にもとづいて最も効果的に獲得することを狙いとして行われる手法のことです。営業マネジャーは、戦略として大きな道筋を示し、メンバーを導いているつもりでも、日々の業務と数字に追われているうちに、いつの間にかすぐに案件を前に進めていくだけのマネジメントになりがちです。

営業チームを導く大きな道筋である戦略と、個別案件に対する戦術とは明確に分けて捉えましょう。

 

フロントラインの営業戦略は、上位である本社の営業機能全体としての戦略を受ける形で展開されます。もちろん、本社の営業戦略は全社の戦略である中期経営計画からブレークダウンされた年度の戦略を受けて展開されることが基本的な考え方となります。つまり、フロントラインの営業戦略は、単独で存在するものではなく、上位からカスケード(滝のように上位から下位へ展開)された内容になっていなければなりません。

ところが、フロントラインの営業マネジャーは、上位から降りてきた戦略をそのまま何の加工もせずメンバーに下ろすことがよくあります。これは、営業マネジャーとしての存在意義を疑われるものです。

営業本部としては、各エリアの細部の事情を踏まえた戦略展開ができないため、全エリア一律で展開せざるを得ませんが、各エリアを任されているのは営業マネジャーです。現場の営業マネジャーは、上位戦略を受けたうえで、自分たちが任された領域の動向を俯瞰的に捉え、適切な方向にメンバーを導く必要があります。

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戦略マネジメントの構成範囲はこのようになっています。

 

【1】上位戦略理解

フロントラインの営業戦略は、前述の通り全社戦略から本部戦略、支店戦略へと連鎖した形でカスケードしていかなければなりません。単に、上位目標を下位に展開するのではなく、常に上位の役割・目標と下位の役割・目標との連鎖を検証し、そのプロセスで上司と部下が役割・目標の内容を共有し合意します。これにより、常に一人ひとりの仕事が上位役割のどこに貢献し、どのように期待されているかをそもそもの役割に立ち返って実感することができます。

これは、営業マネジャーにとって最も大切な責任領域であり、漫然と数字を追いかけるのではなく、上位戦略の意義をマネジャー自身がしっかりと腹落ちした中で自チームのビジョンにもとづく戦略を策定しなければなりません。もし、営業マネジャーが上位戦略を自分の言葉でメンバーに説明できない場合は、納得するまで上司と確認する必要があります。

 

【2】レビュー

新しく戦略を立案するためには、まず自チームの前期の状況をしっかりとレビューする必要があります。

レビューとは「結果の管理」ではなく、「結果で管理」という考え方を具体的にしたものです。「結果で管理」するとは、プロセスから問題を特定していくという考え方です。良い結果には良いプロセスがあり、悪い結果には悪いプロセスがあるとの考え方に立って、結果からその手段が良かったどうかを判断し、良いプロセスを定着させようと考えることが重要です。

あるべき姿と現状にギャップが存在することを問題といいますが、営業マネジャーはその問題から重要度の高い項目を明確にし、原因を究明していく必要があります。そのうえで、解決策を見出すことができれば、それを今期の戦略に反映させていきます。

 

【3】SWOT分析

SWOT分析とは、Strength、Weakness、Opportunity、Threadの頭文字をとったもので、取り巻く環境からビジネスの機会と脅威を整理したうえで、それに立ち向かう自チームの強み、弱みを分析し、それらをマトリクスで掛け合わせて戦略目的を抽出することです。

すでにビジョンマネジメントで洗い出した外部環境分析から、自チームのビジネス展開にとって機会となる項目と脅威となる項目を整理します。機会と脅威を整理する際は、業界全体を通じてという観点で検討します。

同じく内部環境分析から、自社の強みとなる項目と弱みとなる項目を整理します。

各分析で整理された機会と脅威、強みと弱みを掛け合わせ、戦略目的を抽出していきます。

  • 「機会×強み」は、強みを活かして機会に乗じるためにリソースを集中投下して進める戦略項目を抽出します。
  • 「機会×弱み」は、弱みを補強して機会に活かす戦略項目を抽出します。
  • 「脅威×強み」は、強みを活かして脅威を乗り切る戦略項目を抽出します。
  • 「脅威×弱み」は、最悪の事態を避ける影響を小さくする戦略項目を抽出します。

 

【4】競争優位分析

現場で競合に打ち勝ち、自社との取引を増やしていくためには、チーム力を向上し続けなければなりません。そのために、市場が求めている価値に対して、自社と競合がそれぞれどのくらいの提供水準にあるのかをわかりやすく把握することで、競争優位性を把握します。さらに、今後伸ばしていくべき項目も決定する材料とします。

そこで、バリューカーブというフレームワークを用います。バリューカーブとは、競争優位性の構築を主眼にして、戦略を検討していくフレームワークです。ここでは、顧客の期待に応え、競合を上回る価値を提供するための施策を検討します。

ここでは、市場が求めている“価値”をどう洗い出すかは非常に重要なポイントになります。この捉え方を誤ると戦略の質が低下します。

バリューカーブの作成手順は、先ず顧客が“価値”があると感じる項目を洗い出し、5−10項目に集約します。次に、代表的な競合を想定し、現在の自社とその競合が提供している価値のレベルを入れます。そして、自社が今後伸ばしていく項目を選びレベルを設定します。※実現性を考慮して伸ばすポイントはプラス・マイナスで2ポイント程度にします。

 

【5】抽出した戦略施策を「戦略マップ」に落し込む

ここまでのプロセスから設定された戦略目標を、戦略シナリオ上に設定し、モレている戦略目標を追記した上で、各戦略目標をつなげて、“戦略シナリオ”を完成させます。その際は、バランス・スコア・カード(BSC)というフレームワークが有効です。

BSCは、①財務の視点②顧客の視点③業務プロセスの視点④学習と成長の視点の四つで構成されており、営業マネジャーとして自チームの戦略シナリオを見える化する際は全体が網羅されているため、お勧めのフレームワークです。

営業目標を達成する(財務の視点)には、当然お客様の満足(顧客の視点)が必要であり、どのような活動(業務プロセスの視点)で顧客満足度を高めるかを検討します。そして、それらを具現化するためにメンバーのスキルアップ(学習と成長の視点)が必要となります。

この戦略シナリオを策定する際には、前述のSWOT分析や競争優位分析から導いた戦略項目を反映させます。

戦略シナリオは、このように表現されるのが一般的です。

 

上位と下位の戦略項目の関係は、常に上位が目的の場合は下位は手段となり、因果関係によって結ばれます。

その際、下位から検討すると自己都合の戦略シナリオになる可能性があるので注意してください。まず初めに財務目標を達成するシナリオをお客様の視点で検討していくということが重要になります。

特に、“市場成果”と“価値提供”をセグメントごとにしっかりイメージできるかどうかで具体的な活動が変わってきます。

 

【6】実施計画

立案した戦略を実現するために、具体的な行動計画に落とし込みます。重点の戦略項目について、その進捗状況を明確に把握できるようにするために定量的な目標を設定します。これが、いわゆるKPI(Key Performance Indicators)といわれるもので、戦略項目を達成するための先行指標となります。

営業マネジャーは、確実に目標を達成できるようにメンバーを導いていかなければなりません。そのために、月度ごとの戦略の進捗をモニタリングしていき、都度その時点における問題点を明確にし、対策を講じていくことが重要となります。

この内容を各メンバーに展開していきます。その際、メンバーの目標値については、営業マネジャーとメンバーで必ずすり合わせを行い、独り善がりの目標値にならないようにすることが重要です。

 

【7】モニタリング

戦略を立案し、実施計画が完成すれば、後は実行し、モニタリングしながら確実に目標を達成するという流れになります。モニタリングとは、状態を把握するために観測や測定を行うこと、あるいは、評価することです。モニタリングは、必要なタイミングで行いますが、一般的には月次で行います。月次で各KPIの達成状況をモニタリングしながら、必要な是正措置を指示することになります。

その際の留意点は、営業活動は質と量の掛け合わせなので、KPI等の定量項目だけを見ていると本質的な改善につながらない可能性が高いため、定量項目であたりをつけたうえで、定性的な評価ポイントで問題解決につなげるようにしましょう。

評価ポイントは、インプットのできばえ→アウトプットの変化→アウトカムへの貢献の流れで確認していきます。

モニタリングを通して気づいたことは、半期ごとのレビューに反映し、戦略の見直しにつなげます。つまり、モニタリングは日々のPDCAで、レビューは一般的に半期ごとのPDCAでサイクルを回すというような関係性になります。

 

ふたたびレビューへ

期末になると、来期に向けてこれまでの活動プロセスとその結果をレビューします。それを来期の戦略に反映させることで大きなPDCAサイクルが回っていくことになります。

レビューには、二通りのスタイルがあります。一つ目は、すでに備えている考え方や行動の枠組みにしたがって問題解決につなげるための方法で、これをシングルループ学習といいます。二つ目は、既存の枠組みを捨てて新しい考え方や行動の枠組みを取り込むための方法で、これをダブルループ学習といいます。

シングルループ学習は、「行動→結果→行動→結果」を繰り返す通常のPDCAサイクルのことを言いますが、ダブルループ学習では、前提となる目的や戦略そのものを問い直すことで単なる改善ではなく、改革の必然性を検討することも重要になります。

営業マネジャーは、自分の仕事とメンバーの仕事を常にこの二つの見方で評価することが必要です。

 

まとめ

戦略シナリオを策定せず、いきなり施策に取り組もうとするのは失敗の元です。前期レビューの後、「できなかったこと」「達成できなかったこと」を次期の取り組むべき施策に据えて活動をスタートさせるケースが少なくありませんが、このやり方は、言うなれば何の戦略ももたずに戦術だけで突き進もうとするようなものです。

「訪問頻度を上げる」「ロープレでキーマンとの対話力を上げる」といった施策は戦術です。「キーマンとのリレーション強化」といった戦略目標があってこそ、戦術の目的も明らかとなり、その活動を何のためにするのかへのメンバーの理解も深まります。

前述したように、戦術は戦略なくして効果を発揮することはできません。まずは目標達成のための方向性・方針=戦略を固め、戦略シナリオで関連性を見える化させたうえでメンバーと共有し、〝戦略的に〟営業活動を進めていきましょう。

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マネジメントや営業力を高めるには営業情報サイト「Sherpa~営業を元気にするメディア~」をご覧ください。


執筆者:米倉 達哉/シェルパワークス株式会社 代表取締役社長/1993年 大手旅行会社入社。企業・官公庁等の法人営業/2000年 ㈱パーソル総合研究所(旧:富士ゼロックス総合教育研究所)入社。法人営業、営業マネジャー。2008年より同社ヘルスケア事業の責任者/2016年 日本の中堅・中小企業の営業を変革するためにシェルパワークス㈱を設立し、代表取締役に就任


 

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