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2019/09/13
営業マネジメントシリーズ⑤
市場マネジメント
目次
企業は、自社の製品・サービスを市場に対して価値として提供し続け、対価を得ることで、次なる価値を生み出す活動を繰り返していきます。そのためには、自社の製品・サービスを市場に認知してもらい、顧客ニーズと適合させていくことが必要となります。マーケティングは、この適合をつかさどる重要な機能にあたります。
BtoB企業においては、全社のマーケティング戦略を受けて、フロントラインである営業現場でも担当市場ごとの特性を踏まえたマーケティングが必要です。
営業現場におけるマーケティング活動を表現すると以下のようになります。
「フロントラインの市場マネジメントとは、担当市場の特性を(感覚的ではなく)客観的に捉え、その市場ごとのニーズ(課題)とビジネス性を的確に踏まえたうえで、顧客にとっての価値と自社のビジネスを中長期的に最適化する活動」
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戦略シナリオを元に行動計画を立案していく際、重要になるのが注力すべき市場の見極めです。
自社の目指す方向性にもとづいて、最終的な目標を達成するためには、担当市場の中でリソースを投入すべき顧客を絞り込み、効果・効率的に営業活動を進めていくことが求められます。なぜなら、リソースは有限だからです。
たとえば市場をエリアで分けて、エリア内の担当顧客を満遍なく訪問する。このような一律的な営業活動を繰り返していては、どのように行動計画を策定し、見直し、軌道修正を行おうとも目標達成はむずかしくなります。
特にBtoBの場合、ポテンシャルの高い企業との長期的なWIN-WIN関係が企業収益の基盤を構築していくため、長い目で見てリソースを投入するに値する顧客層を明確にしてかなければなりません。
そこで今回は、自社が有する価値を提供するべき市場の見極め方と、リソースを投入すべき重点市場の見極め方を紹介します。
市場マネジメントの流れ
市場マネジメントは次のようなステップで進めていきます。
限られたリソースを有効に使うためには、選択と集中しかありません。どこを選択し、集中していくのかを明確にするためにもこのステップを経ていくことが求められます。
ステップとしては、まず様々なことを判断する前提となる情報をリサーチします。すべてにおいて有益な情報がなければ有効な判断ができません。
そして、市場を分割し、重点先を決めていきます。さらに、その重点市場から注力すべき企業(重点の顧客)を選定し、自分たちの活動を集中的に配分していくという流れです。
ここで導き出された基準や指針が営業戦略全体に大きな要素として反映されていきます。
このステップ一つひとつを具体的に見ていきましょう。
1.リサーチ
市場に関する情報収集については、静態情報と動態情報の側面と定量データと定性データの側面から捉えることができます。
静態情報とは、関係者との接点がなくても得られる公開情報のことです。動態情報とは、関係者との接点からしか得られない情報のことです。これらの側面からそれぞれ定量データ・定性データを集めておくことが大切です。
静態情報には、インターネットや新聞・業界誌、政府の統計情報などがあります。
動態情報には、顧客先を観察することで得る情報、お客様との対話を通じて得られる情報(お客様の考える将来の方向性や動向、競合情報など)や特約店・代理店などから入手する情報などがあります。
静態情報は入手は容易ですが、動態情報はそうはいきません。静態情報が誰もが手に入れられる情報という点に対して、動態情報は静態情報をベースに持ちながら、人を介して得る情報という点では、その有効性は高いといえます。
営業部門は、常に市場マネジメントの視点で最新の情報を把握する努力を怠ってはいけません。
2.セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場細分化という意味で、類似したニーズや性質を持つ人を、その特性で区分(セグメント)することです。
セグメントの切り口には、「規模別」「業種・業態別」「形態別」「地域特性別」「ニーズ特性別」などいろいろありますが、ポイントは合理的に細分化していくこと、なおかつ、いくつかの切り口で検討してみることです。
一方、有効な実行施策は、重点市場ターゲットの絞り込みがなされていることが前提となります。
前述した1.リサーチによって伸びしろを分析し、メリハリをつけて「ヒト・モノ・カネ」を配分していくことが目標達成の王道です。さらに重点市場が明確になっていることで、個々のメンバーの営業活動も効果的になっていきます。
市場を一定の基準に従って細分化するセグメンテーションは、活動に優先順位をつけ、効果的かつ効率的に目標を達成していくために必要となるものです。なかでも「重点となる市場セグメントはどこか」を見極めていく作業は、市場のポテンシャルをつかみ、次の重点市場ターゲットを決めていくためのベースとなります。
3.重点市場ターゲティング
市場セグメントでは、「製品・市場マトリクス」のフレームワークを使って、自社の製品・サービスと市場との現状を把握していきます。これによって、自社製品・サービスがどの市場でどう動いているか、売上げや利益はどうなっているかなどを一望することができます。
製品・市場マトリクスを使えば、選択と集中の方向性が見てきます。主に、下記4つのパターンのどれかに該当することでしょう。
①集中・・・重点市場に重点製品を絞ってとにかく集中させる戦略で、リソースを集中投下できるが、的が外れた場合のリスクも大きい。
②製品特化・・・優位性のある製品を多くの市場に展開する戦略で、技術革新のリスクがあるため期間を決めておく必要がある。
③市場特化・・・成長性の高い顧客をアカウント型で対応する戦略で、特定の顧客と自社の命運を共にするリスクが生じる。
④製品×市場対応・・・製品ごとに適合度高い市場を担当する戦略で、リスクは分散されるが、営業現場において対応の難易度が高くなるため顧客とのかかわりが浅くなるリスクが生じる。
まずは、自社の全社マーケティング戦略が右図のうちどれに該当するのかを明確に認識しておきましょう。
全社のマーケティング戦略が明確になった後は、それを踏まえて自チームが担当する市場の分析を行います。
担当市場の重点先を明確にするために、個々の市場のポテンシャルを見える化します。
製品と市場の組み合わせごとに市場規模、自社の実績数値やシェア、市場の成長性をマトリックス上に入れていきましょう。それによって、注力すべき重点市場が明確化されます。
この時点で重点セグメントがいくつか浮かび上がってきていることでしょう。それらについて、リソース投入のオポチュニティとリスクを勘案し、最終的に重点セグメントを決定します。
4.重点市場ポジショニング
重点市場をターゲティングした後は、ポジショニングを検討します。
ポジショニングの作成にあたって、まず初めに縦軸と横軸に下記の項目を設定します。
・縦軸は(業界として)お客様に提供する価値
の範囲を設定
・横軸は(業界として)お客様に提供する価値
のタイプや種類を設定
次に、現在の自社と競合の位置づけ、今後どのようなポジションを目指すのかを明確にします。
さらに、重点市場ターゲットから財務成果として得たい数値目標と、その市場の顧客からどのような存在として認知されたいのか絵姿を描きます。
ともすれば、営業現場では数値だけが宙に浮いた状態となっており、どのようにすればその数値が実現できるのかが明確になっていないケースが良く見受けられるので要注意です。
そして、顧客から認知されたい存在を実現するために自社で提供できる価値を明確にします。
さらに、その提供価値を競争優位性を持って実現するためには、どのような活動が必要なのかを明確にします。
最後に、その活動を狙い通り実現していくためにどのようなことを能力開発していく必要があるかを明確にします。
5.重点顧客ターゲティング
重点市場が決定したら、その中でターゲットとすべき重点顧客をさらに絞り込んでいきます。重点顧客ターゲティングとは、自社製品・サービスを最優先で提供する先です。いわばリソースを最大に使って重点的に活動を展開していく顧客といえます。
企業にとって重点顧客というのは、自社の売上が高いお客様という見方が一般的です。いわゆるABC分析にもとづいて、売上上位のお客様がグラフの左に位置し、優秀なセールスがはりつくという形をとっています。
2:8のパレートの法則にのっとり、成長期にはこの分析方法でもよかったかもしれません。右肩上がりの時代には売上上位の顧客をきちんとカバーしていれば、お客様も成長しているため自社もそれに比例して伸びていけたからです。
ところが、ABC分析には限界があります。それは、自分たちの取引高でしか見ていないことです。仮に、グラフの右側に位置する顧客が他社の製品・サービスも含めて購入していたとしても、これだけ見ているのではわかりません。
つまり、自社の製品・サービスを購入する可能性という将来の伸びしろに目を向けないと持続的な成長は見込めないということです。
フロントラインが重点顧客をターゲティングする際は、この“伸びしろを魅力度”として注目し重点先を見極めていきます。
重点顧客の決定では、ともすれば過去の実績や関係性から判断してしまいがちですが、それだけでは、その顧客の伸びしろやポテンシャルを見落とす可能性があります。フロントラインが重点顧客をターゲティングする際は、この“伸びしろを魅力度”として注目し重点先を見極めていきます。
そのために、重点顧客ターゲットの選定では、「魅力度」×「取引度」のマトリクスを使うとよいでしょう。
「魅力度」とは、お客様の購買力や成長性、「取引度」は自社製品の獲得シェアなどです。この「魅力度」「取引度」の二軸で顧客の散布図を作成することにより、ターゲッティングの可視化を行います。
「魅力度」×「取引度」のマトリクスを策定することによって、重点とすべき活動先、活動を省力化する先など、ターゲットを次の4つにゾーニングすることができます。
・A 魅力度:高 × 取引度:高 → 重点深耕先
・B 魅力度:高 × 取引度:低 → 重点攻略先
・C 魅力度:低 × 取引度:高 → 省力化先
・D 魅力度:低 × 取引度:低 → 見守り先
この中で、活動リソースを優先度から配分する際は、まず重点深耕先(Aゾーン)、次に重点攻略先(Bゾーン)からとなります。
営業生産性を高めるためには、特に重点攻略先(Bゾーン)の顧客をAゾーンに移行させていくことが非常に重要な活動ポイントとなります。
6.市場カバーのための適正配置
営業チームとして預かる担当市場を全体として見たときに、メンバーの成熟度を踏まえた成員配置は営業生産性に大きく影響を及ぼします。
ところが、この成員配置についての基準が明確になっておらず、売上の大きさで単純に営業担当を決めている企業も少なくないでしょう。
取引度の高いところをハイパフォーマーに担当させて、取引度の低い新規市場(開拓する必要のある市場)は新人が担当するという形になっていないでしょうか。
今後は、ハイパフォーマーに取引度が低いところを含めた魅力度の高いお客様を担当させ、厳しい市場も開拓していく必要があると考えてみてはいかがでしょうか。そうすることで、企業として継続的に顧客を創出できる可能性が高まります。
また、新人や若手にも魅力度は低いものの取引が充実している企業を担当させることで、経験を積ませ、早期に一人前になるよう機会を与えることにもつながります。
7.ゾーン別活動指針
成員配置が決まった後は、メンバー個々の活動をどのように配分するのかをマネジメントすることが重要です。
一般的には、Cゾーンに活動が集中してしまいます。なぜでしょう?
その理由は、営業担当者は本能的に「行きやすい先」に行くからです。魅力度が低く、自社の取引が高いということは競合の存在がほとんどなく、お客様側も自社を頼りにしている状況だからです。
優秀な営業は、いかにCゾーンに投下しているリソースをBゾーンへ振り分けるかを強く意識して活動配分を設定しています。
なぜなら、Bゾーン顧客に手厚く活動することを通じて、結果としてAゾーン顧客にまで育てていくことが、営業生産性を大きく向上させることを知っているからです。
営業マネジャーは、メンバーを活動の“量”と“質”でマネジメントしなければなりません。
「頑張って活動量をなんとか増やそう!」という号令はある意味では重要です。ところが、一人ひとりが活動できる総量には限界があります。
単純計算で1日あたりに訪問できる件数に月の稼働日を掛けると、月間訪問件数が見えてきます。物理的な活動総量と決めると、頑張っても1ヶ月あたりの訪問件数を増やすことは容易でないことが明白になります。
だとすれば、この限られた訪問件数をどの顧客にどれくらい配分するかにより、営業生産性が変わってくるということになります。
営業マネジャーは、メンバーの活動配分が最適なものかどうかを、日頃からマネジメントしていく必要があります。
営業マネジャーが、メンバーの活動配分が最適なものにしていくためにも、まずはゾーン別の活動指針を明確にしていくことが必要です。
ゾーン別の活動指針というのは、右図のA~Dゾーンごとに、基準となる活動の方向性を明文化したものです。
ゾーン別の活動指針を根拠として、チーム内に展開・浸透することで、メンバーが自らの活動をセルフマネジメントするように促します。
もちろん、何らかの理由があって思うようにはいかない場合も発生しますが、指針があることが重要なります。
この指針があるからこそ、それとは異なる活動をメンバーが行う際は、メンバー側に明確な理由が存在しなければならないということです。
この活動指針を徹底して運用していくことで、メンバー全員の営業生産性向上につながります。
まとめ
BtoBの営業組織を取り巻く社内外の環境はますます厳しさを増してきており、従来の営業スタイルが通用しなくなってきています。
商習慣と暗黙知という壁に守られ、変革を拒み続けてきた営業部門が、未来に向けてより良い方向へ変化していき、結果として、お客様の成功に寄与していけるなら、その企業はさらに発展していくことでしょう。
これからの新たな営業スタイルに舵を切り、チームのメンバーを一つのベクトルに導いていく体系的なマネジメントができる営業マネジャーの育成が多くの企業で喫緊の課題となっています。
混迷の時代にあって、組織あるいは企業の成長を持続するためにも、BtoB営業マネジメントを体系的に進めるための施策の導入を検討してはいかがでしょうか。
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マネジメントや営業力を高めるには営業情報サイト「Sherpa~営業を元気にするメディア~」をご覧ください。
執筆者:米倉 達哉/シェルパワークス株式会社 代表取締役社長/1993年 大手旅行会社入社。企業・官公庁等の法人営業/2000年 ㈱パーソル総合研究所(旧:富士ゼロックス総合教育研究所)入社。法人営業、営業マネジャー。2008年より同社ヘルスケア事業の責任者/2016年 日本の中堅・中小企業の営業を変革するためにシェルパワークス㈱を設立し、代表取締役に就任