セールスイネーブルメント

2024.01.17 (更新日:2024.01.30)

営業戦略

セールスイネーブルメントとは?メリットや実践ポイントを徹底解説!

営業活動を取り巻く環境が変化する中、新たなマネジメントや人材育成の手法を取り入れる企業が増えています。その一つが「セールスイネーブルメント」です。「セールスイネーブルメント」(Sales Enablement)とは営業組織を強化・改善するための一連の取り組みのことを指します。この記事では「セールスイネーブルメント」が注目される背景や導入する際のポイントについて取り上げます。

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは?

それではセールスイネーブルメントについてより詳細をみてゆきましょう。

セールスイネーブルメントの定義

セールス・イネーブルメント 
世界最先端の営業組織の作り方 
山下貴宏 (著)

セールスイネーブルメント分野における第一人者である山下貴宏氏は、著書『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』の中で、セールスイネーブルメントとは「成果を出す営業担当者を輩出し続ける人材育成の仕組み」であると定義しています。

つまりセールスイネーブルメントとは、営業組織が成果を継続的に出し続けるための包括的な人材育成の取り組みということになります。

具体的な取り組みとしては以下のようなものがあります。


営業活動プロセスと定義を明確にし、各プロセスで必要なスキルやデータを整備する
営業担当者に必要な能力を体系化し、成果を上げるために効率的な成長を促す
営業成績の高い担当者(ハイパフォーマー)の営業パターンやノウハウを組織全体で共有できる仕組みをつくる
営業組織全体の状態を可視化し、営業能力の継続的改善を促す


従来の営業活動では、営業担当者個人の能力や経験が重視されることが多く、人材育成も個人を強化するという傾向にありました。しかし、セールスイネーブルメントでは、営業部署全体を分析して組織としての強化を行うことや、新入社員だけでなく営業チーム全体を育成し標準化させるという意味合いを持ちます。

そのためには、営業活動内容を組織全体で把握する取り組みが必要となってきます。セールスイネーブルメントで営業組織全体の強みや弱みを発見し、またトレーニングやツールを用い営業活動の最適化と効率化を図ります。

セールスイネーブルメントにはどのような効果があるのか?

セールスイネーブルメントでは、営業活動を効率化させる仕組みを調整、改善することを重視します。それによって経験の少ない営業担当者であっても、一定以上の成績を出せるようになります。こうした改善にはITツールを中心としたテクノロジーの活用も必要となります。情報の共有や顧客への対応がよりスピーディーに行えるようになり、そのための社員にかかる負担が軽減されます。

また、人材育成の効率が上がることも期待できます。従来の手法では、個人を対象としていたことや、新入社員に大きな力を注いでいたため、全体のスキル向上が難しい状況でした。しかし、セールスイネーブルメントではチーム全体の質を効率よく向上させることができます。

セールスイネーブルメントが注目されている背景

セールスイネーブルメントは、日本企業でも積極的に採用されるようになっています。そこには、今までの営業戦略に限界が見えてきたことや、マーケットや営業活動を取り巻く環境の変化が関係しています。

属人的な営業活動の限界

従来の営業手法では営業活動が属人化してしまう傾向がありました。つまり、個人の能力と経験が営業スキルと成果に直結していたのです。そのため、成績の良い人とそうでない人の差が激しくなり、営業部門の業績が不安定になることがありました。さらには、スキルのある人材が抜けてしまうと、一気にチームとしての成績が下がってしまうことも問題でした。

こうした営業スキルのばらつきと共に、情報の共有が難しいという状況も難点でした。個人が営業のノウハウや顧客の情報を独占し、部署内に共有されないため無駄が生じていました。場合によっては、不透明で不正が生じやすい環境となってしまうこともあったのです。

顧客の購買プロセスが変化

お客様は営業担当者と対面で情報を入手しながら購買を決めるというよりも、インターネットで情報を自ら調べて類似品と比較して決定するといったプロセスを踏むようになっています。製品・サービスによっては、そもそも営業を受けずに自分たちでネット注文して終わりということすらあります。こうした購買プロセスの変化を受けて、営業活動にも変化が生じてきました。

従来のように個人の営業スタイルに委ねている場合、購買プロセスの変化に適応できない、あるいは変化を認識していない営業担当者は従来通りの成果を上げられなくなります。こうした環境変化を受け、営業組織として人材育成や最適なプロセスを構築する必要性が高まっているのです。

人材の流動化による人材育成の変化

転職がしやすくなっている現代では、人材の流動化が顕著です。様々な転生サイトを活用することで転職先を探しやすくなっており、転職への意識自体も変化しています。そのため、同じ企業に長く留まる営業担当者が減り、入れ替わりが多くなっています。

企業は自社の営業手法に精通させるための研修を、より短期間かつ標準的な方法で実施しなければならなくなってきました。その点で、個人に重きを置くのではなく、チーム全体という視点で研修を行うセールスイネーブルメントの考えは効率的です。

企業がセールスイネーブルメントを進めるメリット

大手企業から中小企業まで、セールスイネーブルメントを推進する動きが強くなっているのは、そこに大きなメリットがあるからです。具体的に、どんな効果が期待できるのでしょうか。

営業生産性の向上

セールスイネーブルメントでは、現場の感覚や勘で動くのではなく、チームとしての営業プロセスを明確にして、それを全ての営業担当者に実行させます。アポイント獲得率や商談率、案件進捗率といったデータを出し、分かりやすく活動を数値化します。結果、どこに弱点があるのかを分析して、プロセスの改善を検討していくことができます。

こうした活動をすることにより、成果を安定的に出せるようになり、どの営業担当者も今すべきことをはっきりと理解できるようになります。こうした変化は全体の質と効率の向上につながり、生産性を押し上げることにつながります。

属人的な営業からの脱却

今までの手法では、個々の裁量によって営業活動の大半が行われてきました。新入社員を指導する際も、特定の先輩に付いて、その人のやり方を教わるということが中心となっていました。これでは組織としての強みを生かすことができなくなってしまいます。

そこで、個に頼る営業活動や教育から脱却して、プロセスや人材育成法を標準化することが求められるようになっているのです。標準化できると、成果を出すための流れを明確にすることができ、再現性の高いマニュアルを作れます。結果として、人や時期に大きく左右されることなく堅実な成果を出せるようになるのです。

顧客ニーズの把握

属人化された営業活動においては、データが社内で共有されないという問題があります。しかし、セールスイネーブルメントでは、マーケット全体の傾向やそれぞれの顧客データを、営業システムの中で共有します。それにより、ターゲット層全体のニーズ、そして個別の見込み顧客のニーズをすべての社員が把握できるようになります。より多くのデータが蓄積されますので、分析がさらに正確なものとなり効率的なアプローチの方法を探るのにも役立てられます。

データ共有は営業部署内に留まりません。マーケティングや製品・サービス開発などの部署とも共有できますので、企業全体における情報共有が進み、マーケットへのアプローチを包括的に行えるようになるというメリットも生まれます。

競争優位性の確立

セールスイネーブルメントを実行することで、安定して成果を生む営業プロセスやシステムを作り出すことができるようになります。そのことが他社との競争において優位に立てるポイントです。同じような製品・サービスであっても、質の高いアプローチで顧客に接することで、競合他社との差別化を図れるようになるからです。

また、たくさんのデータを蓄積し分析することで、他社が手を付けていないマーケットやターゲット層を発見できる可能性も高まります。

セールスイネーブルメントの導入ステップ

セールスイネーブルメントを効率的に導入するためには、踏んでおくべきステップがあります。

営業の役割を明確にする

それぞれの担当者を誰にするのか、どんな業務をどの程度の権限を持って実行するのかを決めます。特に大事なのは、意思決定者を誰にするかということです。属人化された従来の営業スタイルでは個人の判断にゆだねることが多くありました。営業組織を機能させるためには。誰が何を決定するのかを明確にすることが必要です。

営業プロセスを可視化する

次に自社の営業活動プロセスを整理します。情報収集から始まり、顧客へのアプローチや自社紹介など、自社の最適な営業プロセスを抽出し、さらにそれぞれのステージで営業担当者が実行すべきアクションや把握すべき情報を定義していきます。営業プロセスを可視化することで営業活動を標準化できるだけでなく、マネジャーがチームの営業活動におけるボトルネックを把握しやすくなります。

また、標準化されたプロセスがあると、集まってくるデータも標準化されます。同じ条件の下で見込み顧客がどのような反応をしたのか、どのくらいの成果率となっているかが分かるからです。こうして集めたデータからの分析は客観的なものとなり、PDCAを回す上でも信頼の置ける判断を下せることになります。

営業ノウハウや営業活動を共有する仕組みを構築する

情報共有はセールスイネーブルメントの中でも重要度の高い要素です。そのため営業プロセスが明確になると、次に各プロセスの活動詳細が共有できる仕組みを整えることが必要となります。営業支援ツールとして、様々なCFA・CRMが提供されていますので、自社の営業規模や見込み顧客の層、製品・サービスの種類、営業戦略などに合わせて採用を検討すると良いでしょう。最近では数値管理だけでなく、活動が停滞していることを通知する機能を備えたツールもあります。

また、チーム内や他部署とのコミュニケーションを取れるツールを利用することも大事です。チャットやメッセージアプリなどを用いて、社員が持っているスマホやパソコンで気軽に連絡を取り合えるようにします。こうした仕組みがあれば、特定のお客様についての注意点を伝えたり、何かの時に協力を仰いだりといったことがしやすくなり、チームとして営業活動を行う助けとなります。

適切なKPIを設定し営業戦略の成果を検証・改善する

KPI、つまり明確な目標をプロセスごとに設定することは、組織的な改善を行うために不可欠です。また、どこに注力すれば成果が出やすいのか、自分やチームの弱点がどこにあるのかを検証しやすくなります。そのため、単に成約数といった大きな目標だけでなく、顧客規模ごとでの面談件数や営業プロセスの移行率など、自社の業績につながる指標を設けることも大事です。

適切なKPIの設定はPDCAサイクルを効果的に回すことにつながります。営業活動をKPIによってモニタリングし、営業担当者のパフォーマンスと営業組織の成果をつなげて検証・改善を繰り返すことで、営業組織を体系的に強化することができます。

セールスイネーブルメントを実現するポイント

ここまでセールスイネーブルメントを導入するステップをご紹介してきましたが、それぞれのステップを成功させるためにはおさえておくべきポイントがあります。

SFA・CRMツールを活用しデータを蓄積する

ステップの中でも触れていますが、SFAやCRMなどのツール(セールステック)を有効活用することが、セールスイネーブルメントを成功させる重要なポイントとなります。従来の営業活動と大きく違う特徴として、標準化された営業手法と人材スキルの構築が挙げられます。そのためには、営業データを蓄積して最善の営業手法を見つけ、チーム全体で共有することが不可欠です。

SFAツールでは、営業行動の把握と管理、データ解析を行うことが可能です。営業担当者が誰にどんなアプローチをしたのか、どんな結果になったのかをSFAツールに入力してもらうことで、組織でリアルタイムに共有しモニタリングすることができます。蓄積されたデータはチーム全体の活動傾向だけでなく、各メンバーの課題を見つけることも可能にしてくれます。さらに上司がフィードバックすることで、営業活動のボトルネックを効率的に改善することができるのです。

SFAツールを活用するための詳細について知りたい方は下記を参照ください。

営業スキル体系を明確にし育成体系を整備する

セールスイネーブルメントにおいては、営業活動のノウハウや営業活動プロセスを可視化し共有することで、営業担当者個人ではなく、組織として成果を生み出すことを狙いとしています。そのため、営業プロセスごとに必要となる営業スキルを明確にすることが重要な視点となります。

また、営業スキルを体系的に網羅しておくことで、営業活動を改善する際に、具体的にどのような営業スキルを強化すれば良いのかを把握できるようになります。

それぞれのスキルに重要度を付けて人材育成で優先すべき要素を決めることや、チームの中でスキル習熟度がどのくらいかを客観的に判断して、それを基に研修内容を決めるといったこともできます。こうした育成法を取ることで、全体のスキルが向上し成果を出しやすくなります。

海外ではプロジェクトチームを配置し組織的に進めている

海外では営業活動の標準化を図るために、専門のプロジェクトチームを作る事例が増えています。成績の良い営業担当者の営業スタイルや商談トーク、商談頻度などを分析し、共通する点を見つけ、体系的に必要なスキルを可視化していきます。

いきなりセールスイネーブルメントを全社的に実践するのではなく、事前に分析と計画をするためのチームを作り、より効果的な方法を探ることで成功の確率を高めることができます。

【まとめ】セールスイネーブルメントで確実な成果を出す

個の力に頼り属人化していた従来の営業スタイルから変革するには、トップの強い意志が欠かせません。営業プロセスやシステムそのものを変える可能性もあるからです。簡単なことではありませんが、属人的な力に頼っていては継続して安定した成長を生み出すことが難しい時代になっており、これからの営業組織にとっては注目すべき手法と言えます。