2024.01.17 (更新日:2025.11.19)
セールスイネーブルメントとは?メリットや実践ポイントを徹底解説!
営業を取り巻くビジネス環境が変化する中、企業は新たなマネジメント手法や人材育成の方法を積極的に導入し始めています。その中でも近年注目を集めているのが「セールスイネーブルメント」です。セールスイネーブルメント (Sales Enablement) とは、営業組織を強化・改善するための一連の取り組みを指します。本記事では、セールスイネーブルメントが注目される背景や、導入する際のポイントについて徹底解説します。
目次
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは?
それでは、セールスイネーブルメントの詳細を見ていきましょう。
セールスイネーブルメントの定義

世界最先端の営業組織の作り方
山下貴宏 (著)
セールスイネーブルメント分野における第一人者である山下貴宏氏は、著書『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』の中で、セールスイネーブルメントとは「成果を出す営業担当者を輩出し続ける人材育成の仕組み」であると定義しています。
つまりセールスイネーブルメントとは、営業組織が成果を継続的に出し続けるための包括的な人材育成の取り組みということになります。
具体的な取り組みとしては以下のようなものがあります。
・営業活動プロセスと定義を明確にし、各プロセスで必要なスキルやデータを整備する
・営業担当者に必要な能力を体系化し、成果を上げるために効率的な成長を促す
・営業成績の高い担当者(ハイパフォーマー)の営業パターンやノウハウを組織全体で共有できる仕組みをつくる
・営業組織全体の状態を可視化し、営業能力の継続的改善を促す
従来の営業では、営業担当者個人の能力や経験に頼る傾向が強く、人材育成も個人のスキル強化が中心でした。しかしセールスイネーブルメントでは、営業部門全体を分析して組織的に強化を図ります。また、新入社員だけでなく営業チーム全体の能力を育成・標準化することも重視します。
そのためには、営業活動の実態を組織全体で把握することが不可欠です。セールスイネーブルメントの取り組みを通じて組織全体の強み・弱みを見極め、トレーニングやツールを活用して営業活動の最適化・効率化を実現します。
セールスイネーブルメントにはどのような効果があるのか?
セールスイネーブルメントでは、営業活動を効率化するための仕組みづくりと継続的な改善に重きを置きます。それによって経験の浅い営業担当者でも、一定水準の成績を出せるようになります。こうした改善を実現するには、ITツールをはじめとするテクノロジーの活用も不可欠です。情報共有や顧客対応がよりスピーディーに行えるようになり、その分社員の負担も軽減されます。
また、人材育成の効率化も期待できます。従来のやり方では新人教育に力を注ぐ反面、組織全体のスキル向上が難しい状況でした。しかしセールスイネーブルメントなら、チーム全体の質を効率よく底上げすることが可能になります。

セールスイネーブルメントが注目されている背景
営業組織を取り巻く環境は、この数年で大きく構造が変わりました。
特定の手法や個人の力量だけでは成果を維持しにくくなり、「どのように成果が生まれるのか」を組織として捉え直す必要性が高まっています。こうした変化は、以下のような複数の要因が同時に進んだことで表面化してきたものです。
- 営業の働き方
- 顧客の意思決定プロセス
- 組織における人材の流動性
セールスイネーブルメントが注目されているのは、これらの変化に対して「成果を再現するための仕組みづくり」という共通の解決方向を提示できるためです。この背景を構成する主要な要素を順に見ていきます。
属人的な営業活動の限界
従来の営業手法では営業活動が属人化してしまう傾向がありました。つまり、個人の能力と経験が営業スキルと成果に直結していたのです。そのため、成績の良い人とそうでない人の差が激しくなり、営業部門の業績が不安定になることがありました。さらには、スキルのある人材が抜けてしまうと、チームの成績が一気に低下してしまうという問題も発生していました。
また、営業スキルにばらつきがあるだけでなく、情報共有の難しさも課題でした。各営業担当者が自分のノウハウや顧客情報を抱え込んでしまい、部署内で共有されないため無駄が生じていたのです。場合によっては、業務プロセスが不透明になり、不正が生じやすい環境になってしまうこともありました。
顧客の購買プロセスが変化
顧客の購買プロセスも大きく変化しています。かつては営業担当者から直接情報を得て購入を決めるのが一般的でしたが、今ではインターネットで自ら情報収集し、類似商品を比較検討した上で購買を決定するケースが増えています。製品やサービスによっては、営業担当者を介さずにオンライン注文で完結してしまうことさえあります。こうした購買プロセスの変化に伴い、営業活動の在り方にも影響が及んでいます。
従来通り個々の営業スタイルに頼っていると、変化に適応できない、あるいは変化自体に気づいていない営業担当者は従来通りの成果を出せなくなります。このように営業を取り巻く環境が変化する中で、営業組織全体として人材育成や最適な営業プロセスを構築する必要性が高まっているのです。
人材の流動化による人材育成の変化
求人サイトの普及などにより転職先を見つけやすくなり、働き手の転職に対する意識も変化しています。その結果、一つの企業に長く留まる営業担当者が減り、入れ替わりが激しくなりました。
そのため、企業は自社の営業手法を新人に習得させる研修を、より短期間でかつ標準化された方法で行わざるを得なくなっています。この点、特定個人に依存するのではなくチーム全体の視点で研修を行うセールスイネーブルメントの考え方は、非常に効率的だと言えるでしょう。
企業がセールスイネーブルメントを進めるメリット
セールスイネーブルメントを推進する動きが大企業から中小企業まで広がっているのは、それだけ大きなメリットがあるからです。では、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
営業生産性の向上
セールスイネーブルメントでは、現場の感覚や勘で動くのではなく、チームとしての営業プロセスを明確にして、それを全ての営業担当者に実行させます。アポイント獲得率や商談率、案件進捗率といったデータを出し、分かりやすく活動を数値化します。結果、どこに弱点があるのかを分析して、プロセスの改善に役立てることができます。
こうした取り組みにより、安定して成果を出せるようになり、各営業担当者が今何をすべきかを明確に把握できるようになります。このような変化は組織全体の質と効率を高め、最終的には営業生産性の向上につながります。
属人的な営業からの脱却
今までの手法では、個々の裁量によって営業活動の大半が行われてきました。新入社員を指導する際も、特定の先輩に付いて、その人のやり方を教わるということが中心となっていました。これでは組織としての強みを生かすことができなくなってしまいます。
そのため現在では、属人的な営業活動や教育体制から脱却し、営業プロセスや人材育成の方法を標準化することが求められるようになっています。標準化によって成果を出すための手順が明確になり、再現性の高いマニュアルの整備も可能となります。結果として、特定の人や時期に左右されることなく、安定して成果を出せるようになるのです。
顧客ニーズの把握
属人化された営業活動においては、データが社内で共有されないという問題があります。しかし、セールスイネーブルメントでは、マーケット全体の傾向やそれぞれの顧客データを、営業システムの中で共有します。それにより、ターゲット層全体のニーズ、そして個別の見込み顧客のニーズをすべての社員が把握できるようになります。より多くのデータが蓄積されますので、分析がさらに正確なものとなり効率的なアプローチの方法を探るのにも役立てられます。
データ共有は営業部署内に留まりません。マーケティングや製品・サービス開発などの部署とも共有できるので、企業全体における情報共有が進み、マーケットへのアプローチを包括的に行えるようになるというメリットも生まれます。
競争優位性の確立
セールスイネーブルメントを実行することで、安定して成果を生む営業プロセスやシステムを作り出すことができるようになります。そのことが他社との競争において優位に立てるポイントです。同じような製品・サービスであっても、質の高いアプローチで顧客に接することで、競合他社との差別化を図れるようになるからです。
さらに、データを大量に蓄積・分析することで、競合他社が着目していない市場やターゲット層を発見できる可能性も高まります。

セールスイネーブルメントの導入ステップ
セールスイネーブルメントを効率的に導入するためには、踏んでおくべきステップがあります。
営業の役割を明確にする
まず、営業組織内で各メンバーの役割を明確に決めます。誰が何を担当し、どの程度の権限を持って業務を遂行するのかを定めるのです。特に重要なのは、意思決定者を誰にするかという点です。
従来の属人的な営業スタイルでは、様々な判断を各営業担当者の裁量に任せることが多く見られました。営業組織を円滑に機能させるには、誰が何を決定するのかを明確にしておく必要があります。
営業プロセスを可視化する
次に、自社の営業プロセスを整理・明確化します。情報収集に始まり、顧客へのアプローチや自社紹介に至るまで、自社にとって最適な営業プロセスを洗い出します。そして、その各ステージで営業担当者が実行すべきアクションや把握すべき情報を定義していきます。営業プロセスを可視化することで、営業活動を標準化できるだけでなく、マネジャーがチームの営業活動におけるボトルネックを把握しやすくなります。
さらに、プロセスが標準化されていると、集まるデータも同じ基準でそろいます。同じ条件下で見込み顧客がどのように反応し、どの程度の成果率となったかが比較できるためです。こうして収集されたデータを分析すれば、より客観的な洞察が得られ、PDCAサイクルを回す際にも信頼性の高い判断が下せるようになります。
営業ノウハウや営業活動を共有する仕組みを構築する
情報共有はセールスイネーブルメントの中でも重要度の高い要素です。そのため営業プロセスが明確になると、次に各プロセスの活動詳細が共有できる仕組みを整えることが必要となります。営業支援ツールとして、様々なCFA・CRMが提供されていますので、自社の営業規模や見込み顧客の層、製品・サービスの種類、営業戦略などに合わせて採用を検討すると良いでしょう。最近では数値管理だけでなく、活動が停滞していることを通知する機能を備えたツールもあります。
また、チーム内や他部署と円滑にコミュニケーションを取れるツールを利用することも重要です。チャットやメッセージアプリなどを使えば、社員が手元のスマホやPCから気軽に連絡を取り合えます。こうした仕組みがあれば、特定のお客様についての注意点を伝えたり、何かの時にすぐ協力を仰いだりすることが可能になり、チーム一丸となって営業活動を進めやすくなります。
適切なKPIを設定し営業戦略の成果を検証・改善する
KPI、つまり明確な目標をプロセスごとに設定することは、組織的な改善を行う上で不可欠です。また、どこに注力すれば成果が出やすいのか、自分やチームの弱点はどこか、といった検証もしやすくなります。そのため、単に成約数といった大きな目標だけでなく、顧客規模ごとでの商談数や営業プロセスの移行率など、自社の業績につながる指標を設けることも大事です。
適切なKPIの設定はPDCAサイクルを効果的に回すことにつながります。営業活動をKPIでモニタリングし、営業担当者のパフォーマンスと営業組織の成果をつなげて検証・改善を繰り返すことで、営業組織を体系的に強化することができます。

セールスイネーブルメントを実現するポイント
ここまで、セールスイネーブルメント導入の具体的なステップを見てきました。それぞれのステップを成功させるためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
SFA・CRMツールを活用しデータを蓄積する
ステップの中でも触れていますが、SFAやCRMなどのツール(セールステック)を有効活用することが、セールスイネーブルメントを成功させる重要なポイントとなります。従来の営業活動と大きく違う特徴として、標準化された営業手法と人材スキルの構築が挙げられます。そのためには、営業データを蓄積して最善の営業手法を見つけ、チーム全体で共有することが不可欠です。
SFAツールでは、営業行動の把握と管理、データ解析を行うことが可能です。営業担当者が誰にどんなアプローチをしたのか、どんな結果になったのかをSFAツールに入力してもらうことで、組織でリアルタイムに共有しモニタリングすることができます。蓄積されたデータはチーム全体の活動傾向だけでなく、各メンバーの課題を見つけることも可能にしてくれます。さらに上司がフィードバックすることで、営業活動のボトルネックを効率的に改善することができるのです。
SFAツールを活用するための詳細について知りたい方は以下の関連リンクをご参照ください。
営業スキル体系を明確にし育成体系を整備する
セールスイネーブルメントにおいては、営業活動のノウハウやプロセスを可視化・共有することで、個人ではなく、組織として成果を生み出すことを目指します。そのため、各営業プロセスで求められる営業スキルを明確にすることが重要です。
また、必要な営業スキルを体系的に網羅しておくことで、営業活動を改善する際に、具体的にどのような営業スキルを強化すれば良いのかを把握できるようになります。
例えば各スキルに重要度を設定し、人材育成の優先順位を決めることが可能です。また、チーム内で各スキルがどの程度習得されているかを客観的に評価し、それに基づいて研修内容を設計することもできます。こうした方法を取ることで、組織全体のスキルレベルが底上げされ、成果も上げやすくなります。
海外ではプロジェクトチームを配置し組織的に進めている
海外では、営業活動の標準化を推進するために専門のプロジェクトチームを編成する事例が増えています。成績優秀な営業担当者の営業スタイルや商談でのトーク、商談頻度などを分析し、共通点を洗い出して必要なスキルを体系的に可視化していきます。
いきなり全社でセールスイネーブルメントを実践するのではなく、まずは分析と計画立案の専門チームを置いてより効果的な方法を模索することで、成功の確率を高めることができます。
【まとめ】セールスイネーブルメントで確実な成果を出す
属人的な営業スタイルを変革するには、経営トップの強い意思が欠かせません。営業プロセスやシステムそのものを変革する可能性もあり、一筋縄ではいかないからです。しかし、人頼みのやり方では継続的かつ安定した成長を生み出しにくくなっている今、セールスイネーブルメントはこれからの営業組織にとって注目すべき手法と言えるでしょう。
