2024.04.09 (更新日:2024.04.18)

営業戦略

カスケードダウンとは?ビジネス組織で戦略や目標の浸透を促す手法を徹底解説!

企業の安定した成長を目指す経営者にとって、常に社内全体で同じ目標を共有し一体感を持たせることは非常に重要です。この課題へ取り組むにあたり、事業の規模や内容に関わりなく有効な理論として、近年広く注目を浴びているのが「カスケードダウン」です。

カスケードダウン(Cascade Down)とは

カスケードダウンとは、企業や組織における責任者が設定した目標を戦略的な観点から細分化し、下位のグループおよび個人へと割り当てていくプロセスもしくはその形態を指しています。上層と下層の間では常に情報が共有されて密接に紐づいているので、考え方やアプローチに関して相違が発生しにくいというのも特徴です。

いずれの階層においても「目的」「戦略」「戦術」という3つのカテゴリ分けが行われます。これら3つは明確に定義されているので、問題が発生したときに何を改善すべきか、どこの段階から見直すべきか判断がしやすいという強みがあります。また、各個人がどのように行動すべきかに関しても曖昧なところがありません。

カスケードダウンの考え方は普遍的であり、組織が成長して人員が増えた場合でも継続して運用することが可能です。また、組織内のコミュニケーションを円滑にして全体としての一致を高めるという利点もあります。こうした理由から、カスケードダウンに関する一般からの興味は高まっており、最近ではビジネス書籍などでもよく取り上げられるようになってきました。

カスケードダウンが必要となる背景

カスケードダウンを導入する背景には「企業としてのリスクコントロール」が挙げられます。上層部がどれほど良い目標を立てたとしても、それをどのように達成するかという点が社員へ伝わっていなければ、企業としての生産性は向上せず、目標達成も困難でしょう。業績が伸びなければ社員の給与もアップせず、それがモチベーションを下げてしまうという負のスパイラルが出来上がってしまいます。加えて、各社員が目標達成へのビジョンを理解していないため、経営者を含む上層部の負担だけが増し加わって疲弊してしまうという事態も起こりえるのです。カスケードダウンによって社内全体のコミュニケーションが改善することで、こうしたリスクを大幅に軽減することができます。

カスケードダウンによって、人事や採用に関連したリスクコントロールも可能となります。近年、自分に適した働き場所を求めて転職をする人は少なくありません。とはいえ、いざ就業してみたら自分のスキルと会社が求めるものが乖離していたというケースも散見されます。企業としても時間と予算をかけて採用した人材がすぐに離職してしまうというのは痛手です。そこで、採用を担当する人事部門がカスケードダウンを通して企業の持つビジョンを理解していると、その目標達成に貢献できる最適の人材を見つけようとしますから、求職者との意識の乖離が起こるリスクは低くなります。また、採用された人も「自分に何が求められているのか」を把握した状態で業務をスタートできるというのは魅力でしょう。

ビジネスでカスケードダウンが注目される理由

カスケードダウンの考え方が多くの企業から注目される理由として、「ビジネスのグローバル化」が挙げられるでしょう。国内だけで同業他社とシェアを競う時代は去り、現在ではさらなる成長とチャンスを求めて多くの国内企業が海外へ、そして外国企業が日本へと事業展開をしています。また、官民一体となってダイバーシティが推し進められる中で、外国から優秀な人材を募る企業も少なくありません。こうした変化に伴って、社員たちの意識や考え方、仕事へ取り組むスタイルも多様化してきています。

このように目まぐるしく変化する環境の中で、経営者が目標を掲げ、あとは社員個々の自主性に任せる「ワンマンスタイル」という方法はもはや通用しません。むしろ、経営陣が明確な事業目標とそれを達成する戦略的アイデアを有し、それを社員すべてとスピーディーに共有することが求められています。こうしたニーズに応える企業内の情報伝達プロセスとして、カスケードダウンが注目されているわけです。

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カスケードダウン成功のためのポイント

カスケードダウンを成功させるためには、「目的」「戦略」「戦術」という3つのステップが持つ意図を正確に把握し、そのうえで企業の組織体系へ落とし込む必要があります。これらの定義を曖昧に理解した状態で適用しようとすると、カスケードダウンそのものを実現することができなかったり、このプロセスが持つベネフィットを最大限に引き出すことができなくなったりするため、十分に注意を払うことが必要です。

1.目的

目的は、組織や企業が成し遂げたいと考える理念や指標、もしくは土台となる目標のことです。例えば、「国内で最大のシェアを獲得する」「売上高を50億円にする」といった目的を設定する企業は少なくありません。老人介護施設に関連した事業を行う組織であれば「すべての入居者に快適な生活を提供する」という目的を掲げるのも良いでしょう。大切なのは、短期・中期的な目標ではなく、組織として長期的に成し遂げたいと考えている目標を目的として設定することです。

目的は組織の中で行われるすべての活動の指針となります。ですから、目的は経営方針や創業理念などに沿った内容でなければなりません。この策定に関して責任を担うのは組織の責任者、企業であれば経営陣です。そして、目的を策定したなら、その理由をすべてのステークホルダーへ説明しなければなりません。企業であれば、社員に加えて、株主や主要取引先、融資を受けている金融機関などへ説明する必要があるでしょう。

社員に対して目的に関する説明が不足すると、上層部のメンバーは高い意識をもって業務に携わる一方、他の階層では各社員が達成感を感じることもなくただ漫然と業務を行うという状況に陥ってしまいます。ですから、すべての階層で目的をしっかりと浸透させることが肝要です。

2.戦略

戦略は、目的を達成するために実施すべき具体的な行動を指します。例えば、「売上高を50億円にする」という目的として策定したのであれば、それを達成するための戦略は「売上を今年度比で20%アップする」という内容になるでしょう。また、「すべての入居者に快適な生活を提供する」という目的を設定したのであれば、それに到達するための戦略としては「顧客満足度を15%向上させる」という内容が適切と言えます。

戦略は目的とは異なり、できるだけ具体的で明快な内容を策定する必要があります。誰にでも分かりやすい方法としては数値で示すことでしょう。戦略で示される指標が曖昧になっていると、社員は何を成し遂げれば目標を達成するのか判断できなくなり、結果として長期的な視点を持って仕事をすることが難しくなってしまうのです。

上層で設定される戦略は、1つ下の階層における目的になります。つまり、経営陣の策定する戦略は各部の目的となり、各部が定める戦略は各課の目的として紐づいているのです。ですから、どこかで戦略の内容が不明瞭になると、それに連なるすべての階層が不利益を被ってしまうという点を銘記しておきましょう。

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3.戦術

戦術は、戦略で設定した内容を達成するための具体的なアクションを指します。例えば、「売上を今年度比で20%アップする」という戦略を策定したのなら、それに対応する戦術としては「新たにDMによる営業を実施する」「すべてのお客様にワンランク上の契約プランを勧める」といった内容が当てはまるでしょう。老人介護施設にて「顧客満足度を15%向上させる」という戦略に対しては、「全室に空気清浄機を設置する」「献立のバリエーションを増やす」といった内容を戦術とすることができます。

戦術と目的および戦略は密接に連動しています。ただし、目的や戦略は総じて組織としての目標という意味合いが強いのに対し、戦術は個人に向けた直接的な目標となるものです。ですから、戦術として策定する内容は社員1人1人にとって「自分は今何をしたら良いのか」が一目で分かるものでなければなりません。

戦略的なカスケードダウンの実践方法

戦略的なカスケードダウンは、会社の事業運営に大きな影響を及ぼす重要なファクターです。ですから、経営陣は、すべての階層に属する社員がカスケードダウンを実践するうえで鍵となる4つのポイントを理解できるよう努力を払います。そうすることにより、社員1人1人は会社が推し進める戦略の中で、自分が果たしている役割をいつも意識しながら仕事へ取り組むことができるでしょう。

目的設定

目的はカスケードダウンを成立させるための土台となります。ですから、目的の策定は市場の動向を踏まえたうえで、長期的な視点に基づいて行わなければなりません。

目的の達成が明らかに不可能と分かるものや、偶発的な変化に依存するような内容は避けるべきです。こうした目的を設定すると、社員たちは「無理難題を押し付けられている」という強いストレスを感じてしまうことでしょう。その結果、仕事への意欲や熱意、経営陣への信頼などを失ってしまう可能性があります。ですから、現実味のある目的を設定する必要があるのです。

一方で、容易に到達できそうな内容を設定するのも望ましくありません。あまりにも簡単な内容を設定してしまうと、たとえ目的を達成しても社員たちはほとんど達成感や満足感を感じることができないでしょう。結果として、社員たちのモチベーションを奪ってしまう可能性があります。ですから、現状維持では到達が難しいものの、それぞれの努力次第で達成可能と考えられる目的を選びましょう。

戦略設定

戦略は目的達成に向けた施策のことで、これを設定する段階において大切なポイントは、具体的な数値目標を設定することです。目標値を設定することで、進捗状況を数値によって可視化できるというメリットがあります。目的達成に向けて戦略の効果性が薄いと判断される場合には、すぐに見直して新たな戦略に切り替えることができるでしょう。

対照的に、数値化できない戦略は評価することが難しく、いざ運用を始めても効果が曖昧なままで時間だけが過ぎてしまうというリスクがあります。ですから、上層部は各階層が戦略を定める際によくサポートをして、内容がデータ化できるかどうかチェックする必要があるでしょう。

情報共有

上層部は各部署で策定した戦略と戦術に関する詳細をしっかりと把握する必要があります。とはいえ、より重要なのはそれらの達成状況に関して情報を共有することです。カスケードダウンでは、階層ごとに戦略や戦術の内容が大きく異なります。そのため、企業の規模が大きくなると、上層部は通り一遍の報告を聞くことで満足してしまい、実際の達成状況を把握していないということが起こり得るのです。こうしてチェックが全体に行き届かなくなると、カスケードダウンの実質的な機能は失われてしまうという点を理解しておきましょう。

情報共有には、社員の意見に耳を傾けるということも含まれます。各部署において戦略や戦術として策定された内容は具体的で分かりやすいか、担当している仕事の内容と合致しているかといった点に関して、忌憚のない意見を求めましょう。事業規模が非常に大きい企業であれば、アンケートを活用して各社員から意見を募るのも効果的です。

PDCA

PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という4単語の頭文字から取られたビジネス表現です。この4ステップを繰り返すことをPDCAサイクルと呼びます。

目的達成に向けて漸進的な改善を行い、戦略的なカスケードダウンの効率を上げるには、PDCAサイクルの導入が不可欠です。一定期間ごとに各部署の戦略と戦術を評価し、そのフィードバックに基づいて実行する内容をブラッシュアップしていきます。このプロセスにより、目的を達成するうえであまり効果が見込めない、あるいはコストパフォーマンスが良くない戦術を見極めることができます。結果として、よりポテンシャルがある、あるいは成果を期待できる戦術へとリソースを振り分けることが可能となるのです。

カスケードダウンとブレイクダウンの違い

カスケードダウンと類似した表現としてビジネスで用いられるのが「ブレイクダウン」です。企業内において異なる階層でスムーズなコミュニケーションを実現するという点ではよく似た考え方と言えます。ただし、定義のディテールを見ていくと、両者の間には明確な違いが存在することがわかるでしょう。

ブレイクダウンとは

ブレイクダウン(Break Down)は字義的に「落として砕くこと」を指します。ビジネスシーンにおいてこの表現は、経営陣や上層部が設定したアイデアを「砕く」、つまり細分化してから「落とす」、つまり情報を他の階層まで確実に落とし込むという意味合いで主に用いられています。「企業トップの目標を社員全体に伝える」というトップダウン(Top Down)とは異なり、ブレイクダウンでは経営陣が目標を設定する段階で、各部署が担当する実務まで細かく設定していくため、社員は「目標が漠然としていて自分がすべき業務が何かわからなくなってしまう」ということがまずありません。

2つの違いについて

カスケードダウンとブレイクダウンはいずれも企業内において経営トップの考え方を社員全体へ周知するという基本的な考え方で共通しています。ただし、目標を達成するためのアプローチに関して大きな違いがあるのです。

カスケードダウンでは、「目的・戦略・戦術」という3段階のプロセスが1セットになっており、それが社内において上層から下層へ向けて別個に展開されていきます。上層の戦術が次の階層では目的になるというのが基本的な考え方であり、階層が下がれば下がるほどこのツリーは大きく広がっていくのです。

一方、ブレイクダウンでは経営陣が目標を決めるだけでなく、それを達成するために各部署がどのような働きをすればよいのかという作業内容に関して、詳細な点までかみ砕いて設定していきます。つまり、意思伝達のツリーは1層と2層のみで構成されているというわけです。

カスケードダウンの具体例(製造業の場合)

ある製造業の企業が、年間の生産効率を20%向上させるという目標を立てたとします。この目標を達成するための戦略として、新たな生産ラインの導入と従業員のスキルアップを計画します。これらの戦略を具体的な戦術に落とし込むと、新たな生産ラインの導入には「新しい機械の購入」「従業員への新しい機械の操作研修」が必要になります。また、従業員のスキルアップには「専門的な研修の提供」「メンター制度の導入」が必要になります。

カスケードダウンの成功事例をみる

小売業を営むある企業では、年間の売り上げ目標に到達しない時期が数年続き、社員のモチベーションも下がってきていました。そこで経営陣はこれまでのトップダウンからカスケードダウンへと切り替えを行い、各部署において目的・戦略・戦術に関する意識統一を徹底します。加えて、ボトムアップにも注力し、社員の意見や要望を念頭に置いた目的の設定を行い、社内におけるコミュニケーションの改善を図ります。

カスケードダウンによる大きな変化が見られたのは営業部門でした。基本的に「売上達成か未達か」のみだった部署内のコミュニケーションは改善され、「売上の目標額(目的)」「開拓する客層(戦略)」「ターゲティングした客層へアピールする方法(戦術)」という3ステップが明確に定義されました。綿密な分析と周到な準備の結果、営業部は競合が少ない60代以上をターゲットとして新たな客層を開拓することに成功します。他の部署でもカスケードダウン導入に伴う改善が図られた結果、会社の売上は飛躍的に改善したのです。

カスケードダウンの成功と4S

カスケードダウンは多くの企業で成功を収めています。例えば、大手IT企業では、経営層が設定した目標を部門、チーム、個々の社員へと具体的に落とし込むことで、全社員が同じ目標に向かって努力することができ、結果として大きな成果を上げることができました。

また、カスケードダウンの戦術を練る際には、4Sという考え方が有効です。4Sとは、Selective(選択的)、Sustainable(持続可能)、Sufficient(十分)、Synchronized(同期)の頭文字を取ったものです。

Selective:

戦略は選択的でなければなりません。すべてをやろうとすると、経営資源が分散してしまい、結果的に何も達成できない可能性があります。

Sustainable(持続可能):

短期的な成功を追求すると、長期的な成功を損なう可能性があります。

Sufficient:

戦略は十分でなければなりません。目標を達成するためには、そのための戦略が十分に存在する必要があります。

Synchronized:

戦略は全体と同期していなければなりません。個々の戦略が会社全体の目標と同期していなければ、全体としての効率が損なわれます。

これらの要素を考慮に入れることで、カスケードダウンはより効果的になります。これらの要素を念頭に置き、カスケードダウンを適用することで、組織全体としての目標達成に向けた一体感を高めることができます。

効果的なカスケードダウンを実現するための企業研修

カスケードダウンの効果性を高めるポイントは「正確な導入方法を理解すること」でしょう。経営陣だけが理解した状態でカスケードダウンを実行してしまうと、上層からの単なる意見の押し付けになってしまい、トップダウンとあまり変わらなくなってしまいます。こうした失敗を避けるうえで大きな助けとなるのが企業研修です。

企業研修では、カスケードダウンの考え方やメリットに加えて、キャリアアップへどのように貢献するかという点を社員が学べるようにします。デモセッションを通して実際に体験することにより、カスケードダウンの目的や有効性を具体的に理解することができるでしょう。

外部から専門の講師を招聘することにより、比較的短期間の研修で多くの社員が正しく理解することができたというケースは少なくありません。プロの講師は豊富な経験に基づき、研修を行う企業に最も適したスタイルで研修のカリキュラムを構成してくれます。ですから、カスケードダウンの導入を検討している経営者はイニチアチブを取り、できるだけ多くの社員が研修へ参加できるようサポートしましょう。開催に伴う費用を会社が負担し、社員は無料で出席できるようにするというのも、より多くの参加を促す効果的な方法の1つです。

【まとめ】組織の目標や戦術を、流れる滝のように浸透させよう

カスケードダウンを実践することにより、目標や戦術に関する理解は上層からすべての階層へと、流れる滝のような速さで浸透していきます。こうして組織の1人1人が常に正確な情報を把握していることで、皆が一致して目標達成へと努力することができ、結果として安定した成長がもたらされることでしょう。

戦略立案を体系的に習得したい方は下記の関連資料をぜひ参照ください↓