2022.11.01 (更新日:2022.11.09)

ビジョン

リッツ・カールトン流 トップ営業マンが語る『ビジョン=自分事化する』ということ│福島靖氏

アメリカン・エキスプレス社では入社2年目で紹介者数トップへ、リッツ・カールトンでは顧客目線の究極の営業手法を開拓。その後カルフォルニアでのパイロット訓練等を経て、現在は航空ベンチャーのCXOを務める福島さん。
現在Twitterフォロワー数は1万6千人を超え、一度お会いするとその美しいオーラと深い心遣いでたくさんの人々を魅了しファンにしてしまう不思議な方です。
そんな話題の福島さんに、リッツ・カールトンで学んだお客様の記憶に残る技術や、未来の営業マンたちへのメッセージを頂きました。

ザ・リッツ・カールトンとの出会い

2022/2/21 Twitterより抜粋

ザ・リッツ・カールトン大阪は2007年3月31日にオープンし、僕がジョインしたのが、2007年5月16日でした。5月16日というのは実は、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅に出発した日と同じなんです。旅の始まりなんですよね。後から知ったんですが(笑)
「ああ、一緒だったんだな」って。そして、飼っているフレンチブルドックの誕生日もたまたま一緒なんです。さらには、現在のプライベートジェットの会社に入社したのも5月16日なんですよ。5月16日にご縁があるかな、と(笑)

実は僕、24歳までフリーターをしていたんですよ。昔はフリーターでもお金がある程度稼げたので、同年代の学生さんより稼げるんですよね。当時は心地よかったですね。それが23歳くらいの時だったと思いますが、同年代の人たちがスーツを着て周りを歩き始めました。それが羨ましかったんですよ。「社会の中に入っていく」という感じで。そうすると僕は取り残されている感が出てきまして、それからずーっと劣等感を感じていました。それで「僕もスーツ着る仕事したい!」と思って、24歳で居酒屋でのアルバイトを辞めて、外食産業のコンサル会社に内定をしました。

それまで名刺交換すらしたことがなかった人間です。まずビジネス本を買いに行こうと思い、横浜そごうの7階にある紀伊国屋書店に行きました。店内に入ると辺り一面、同じ本が平積みされていたんです。

それがリッツ・カールトンの本でした。いろんな種類のリッツ本があったんですね。『リッツ・カールトン20の秘密』とか『リッツ・カールトン サービスを超える瞬間』とか、とにかく辺り一面、全部見渡す限りリッツ・カールトンなんです。僕も名前だけは知っていましたよ。でも単なる高級ホテルだろうと。

けれど、試しにその本をとってみたら、面白かったんですよね。概念が変わりました。やっていることがホテルじゃなかったんですよ。お客様を喜ばせることしかやっていないんです。従業員を喜ばせる話しかしていないんですよ。ホテルの話が一つも出てこないんですね。その時に、このリッツ・カールトンという会社に入ったら、すごい人に出会えるんじゃないかと思ったわけです。そのまま2時間くらいかけて、そこにある本を全部読み切ったんですよ。迷惑な客ですよね(笑)。5冊くらいだったと思いますが、全部読みました。

ザ・リッツ・カールトンにて(福島氏)

全部読み終えた瞬間に、内定している会社に電話して「僕、運命の会社に出会っちゃったので御社では働けません」とお断りして(笑)
でも、どうやって入社するのかわからなかったのでインターネットで検索していたら、リッツ・カールトンが、オープンハウスという会社説明会と面接がセットになっているイベントを開催する情報があったんです。そこで、その場所に行きました。最初は詳細をよく把握していなくて、説明会だろうと思って、朝8時くらいに行きました。そうすると、そこから面接が始まり、結局、6回か7回くらいやりました。

それから約2週間後に合格の連絡をいただき、そこからストーリーが始まるという。それが僕の24歳の5月16日です。

「自分のあり方」に向き合う瞬間

入社したときに当時23歳で年下のマネージャーがいました。ホテル業界の超エリートです。スイスのローザンヌホテル学校という、ホテル学校の最高峰と呼ばれる学校出身です。日本でいう東大みたいなものです。そこを卒業してホテルに入ると、いきなりマネージャーからスタートなんです。高級官僚がいきなり経営層から始まるような感じですね。

彼からある日「君はどうありたいんだ」と聞かれたんです。24歳で初めて「あり方」という言葉に出会いました。僕も「やり方」というのは考えています。「何をしたいのか、何をやりたいのか」と聞かれた経験は何度もありました。けれど「どうありたいんだ?」と問われたのは、24歳で初めてでした。

上司:どうありたいんだ?
私:どうありたい?それは、お客様を喜ばせたいです
上司:なんで?
私:だって、喜ばせられたら嬉しいじゃないですか
上司:なんで、嬉しいの?

そういう会話をずっと続けていました。

それで、そこから2か月くらい、自分で「どうありたいのか」を考えたんです。
「あり方」とは、仮に僕がホテルマンでないとしても、リッツ・カールトンで働いてなかったとしても、個人としてどうありたいのかということなんです。
会社人でもなく、社会人として、一人の人間としての「あり方」を問われていたんでよね。

僕は最初、何の質問かわからなくて、それこそ2か月くらいずっと考えていたんです。素直でしたから(笑)
そして最終的にでてきた答えが、どうしたら嬉しいかなと考えた時に、「目の前の一人の人間の記憶に残った瞬間がめちゃくちゃ気持ちが良い」ことに気づきました。お客様から「福島くん、この前すごくよかったよ」と言われたときが一番気持ち良かった。お客様の記憶に残ること。これこそが僕のあり方なんだなって。
自分自身の中にも多少は感覚としてはありましたが、言葉になって出てきた瞬間に初対面した感じでした。 つまり言葉にしないとわからない、ということなんです。
不思議ですよね。元々、自分の中にあるものなのに。

フィードフォワード型組織『ザ・リッツ・カールトン』

『原因と結果の法則』というベストセラー書籍がありますが、原因があって結果があります。では結果がダメだったら、原因もだめなのかというと、必ずしもそうではないと思います。例えば、ものすごく大きな失敗をして落ち込んでいるときに、上司からこんな会話をされたことを覚えています。

支配人:どうしたんだ?
私:実は〇〇をやってしまいました。
支配人:そうなのか。確かにやり方は良くなかったね。でも、なんでそうしたの?
私:それは、お客様を喜ばせたかったからです。
支配人:そうか。それこそリッツ・カールトンだ!

失敗した結果については叱ってもらい、そのうえで「こうしたらよかったよね。だけどその気持ちは絶対忘れるなよ!」と。動機を称賛して褒めてくれたんです。ですから再び同じ状況に出会った時にも、僕は勇気を持ってまた行動しよう!と思えたんです。
普通なら、いくら動機(原因)は素晴らしくても、結果がダメだったら「なにやってるんだ!」と叱られますよね。でもそうしたら、次同じ状況に出会った時、「よし、またやろう!」って思えなくなるんですよね。やる気が出なくなる。 だって、お客様に喜んでもらいたい、と思った動機も否定された気持ちになってしまうから。
リッツ・カールトンでは、ちゃんと結果と動機(原因)とを分けて、動機を褒めてくれたのが嬉しかったですね。

リッツ・カールトンは、まさしく、フィードフォワード型組織だったということです。(そうした言葉が登場する前から)本質的なところで自然と実践していたのがリッツ・カールトンだったのかなと思います。

*フィード・フォワード型組織の構築についてご興味がある方はこちらをどうぞ

リッツカールトンにて(聞き手:かもゆき)

私たちにとって従業員が最も大切なお客様だ

2022/3/21 Twitterよ抜粋

リッツ・カールトンの従業員入口があり、入るとリッツ・カールトンを代表する名ゼリフが書かれています。

「その扉をくぐる人は私たちにとって最も大切なお客様だ」

そのフレーズを見た瞬間、当時の僕は驚きのあまりフリーズしてしまいました。
リッツ・カールトンでは、お客様が従業員なんです。本当に人が育たないと良いサービスができない。だからこそ、賞賛する文化を継続していくための仕組み作り、それがすごくありましたね。
サンキューカードやファーストクラスカードと呼ばれるものを30年前くらいから取り入れていました。誰かに対して「すごいなぁ、良い働きしてくれたなぁ、助けてくれたなぁ」と感じた際に、部署間関係なく、そのカードを恥ずかしげもなく渡せるんですよ。しかも、それがちゃんと人事評価になるんですよね。
業績や働きぶりだけではなく、そうしたカードをもらうことが最も大事とされていました。サンキューカードのさらに上にはファーストクラスカードというのがありました。

(ファーストクラスカードは)従業員食堂壁一面に全部貼り出されているんですよ。皆が出勤するときに貼り出された事例をみながら、
「レストランでの成功事例だけどキッチンでも言えることだよな」
「これはレストランでの成功だけど、キッチンでもしてみよう」
「経理でもやってみようかな」
と、良い事例の実践をするんです。さらに様々な部署で実践するようになると、最初に実践して貼り出された本人が、『〇〇さんすごいね』と周囲に言われるわけです。
それで「もっとやってやろう!」という気持ちになっていくという。また、「ファイブスターコンテンスト」と呼ばれる社内表彰制度もありました。チームで何かを成し遂げたり、すごく素敵な働きをした人に表彰する制度なんです。上手に仕組み作りされていたと思います。

お客様をレコグナイズ(認識)し、組織力を高める

2022/2/27 Twitterより抜粋

僕が大事にしている言葉のひとつに、「レコグナイズ」という言葉があります。相手をちゃんと認識していますという意味だと思うんですが、ゲストレコグニションという専門の部署がりました。お客様を「レコグナイズ」するだけの部署という、なんだか訳の分からない部署なのですが(笑)

リッツ・カールトンには全スタッフがひとつだけ(達成しなければならない)ノルマを持っています。
それは、「お客様の情報を集める」ということです。
例えば、お客様が水を左に置き、アイスコーヒーを右に置いたとします。この位置や動作の順番などをメモするんです。普通のホテルでしたら、グラスでお水を提供する際に、(従業員からみて)手前のほうに置きます。ところがリッツ・カールトンでは、最初からドンピシャでお客様の普段の位置に出せるということなんです。アイスコーヒーの濃さはどのくらいなのか、氷は何個必要なのか、そうした情報を全世界のメンバーと徹底して共有していました。

それはメンバーに対しても同じです。ある時、総支配人と対面すると『君とは同じ座右の銘だったね。これから一緒にお客様を喜ばせていこう』と言ってくれました。実は二人の座右の銘が共通で、「CARPE DIEM(カーペ ディエム)」、ラテン語で「青春を謳歌せよ、今を生きろ」という意味のものだったんです。入社面接時、総支配人との会話の中で軽く会話に出た程度の事を、彼はしっかり覚えてくれていたんです。
嬉しいですよね、新米ホテルマンからしたら総支配人なんて雲の上の存在ですから。

(リッツカールトンでは)全員がレコグナイズし合っている雰囲気があります。ここにいても良いんだな、という安心感を抱くチームでした。

リッツ・カールトンで学んだ3つのこと

リッツ・カールトンで学んだ3つのこと

僕がリッツ・カールトンで学んだことが3つあります。

一つは『お客様の記憶に残る技術』を習得できたこと。これがのちに僕の生涯に生かせる人間力へとつながっていきます。
次に『感動のメカニズム』を理解したこと。自分自身がどういうときに感動するのかを明確に知ることができました。
そして最後に『自分のあり方』を手に入れたことです。

中でもやはり『自分のあり方』を手に入れたことは大きな財産でした。リッツ・カールトンにはクレドカ ードがあります。クレドカードとは、リッツ・カールトンが大切にしている信条(ラテン語でクレド)やVision、Valueなどを明記したカードで、世界中の言語に翻訳され、全従業員が必ず所持しています。

確か1983年に、ホルスト・シュルツ氏(創業者)と『7つの習慣』の著書フランクリン・コビー氏がチームとなって作ったものです。リッツ・カールトンという会社はミッション・ドリブンな会社ですから、クレドのメッセージをどんどん発信し、それに共感する人が面接を受けにくるようになりました。ただ、例えば採用された僕がリッツ・カールトンのクレドカードと思想が完全に一致しているかと いうと、実はそうではないんです。だってそれは僕の言葉じゃないですから。

僕はリッツカールトンの思想に憧れて入社しました。だから、クレドカードに書かれている言葉にはどれも共感します。でも、この言葉は僕が作った言葉ではないんです。つまり、似ているけど違うんです。会社の思想や言葉に共感するのは大事。だけど、もっと大事な事は自分自身の思想、つまり自分のあり方を言葉にする事なんです。当時の僕の上司は、その事を理解してくれていたんでしょうね。
『お前はどうありあいのか?』と、事あるごとに聞かれました。僕自身のあり方を見つけようとしてくれたわけです。

だから僕にとっては会社の理念ももちろん大事です。その理念を自分に落とし込んでいきます。会社のやりたいことと個人のやりたいことが違ったときに、互いをつなげようとします。だけど一番大事なのは、やはり自分自身のあり方なんですよね。
会社は関係なく、自分自身がどうありたいのか。これこそが一番大事なんだと気づくことができました。

僕にとっての自分のあり方というのは、コンパスとか羅針盤のようなものです。(羅針盤を持っているから)僕は最終的に向かっている先に何があるかはわからないけれども、向かう方角はわかっているんです。ですから僕はその方角に向かっていくと。その中で共感して集まってくれた方たちから様々な仕事のご縁を いただき対応するという人生を送ってきました。それはリッツ・カールトンの経験があったからこそ、うまくいったのだと思います。


これって、よく最近言われているVUCA(予測不可能)な時代の生き方にも通じると思うんです。
目的地もよく分からない時代、せめて自分がどの方角に向かっていくのかが分かると不安も減りますよね。自分自身のあり方を見付ける、という事は、自分の向かう方角が分かるようになる。という事でもあるんです。

ザ・リッツ・カールトンからの卒業

(ある日)上司から言われました。『福島君、これからどうしたいんだ?』と。僕はサービスすることが楽しかったので『出世したいとは考えていません』と答えました。すると上司からは『だけどそれだとちょっと困るんだ』と言われました。部下が明確な目標を持ち、それを管理することが上司の役割でもあるので、目標は必要だと。そのうえで『だから選択肢を二つ与えるから考えてみよう』と言われました。
一つは、リッツ・カールトン東京の中で偉くなる。つまり上のポジションに挑戦しろということですね。もしくはシンガポールをはじめとする世界各地のリッツ・カールトンに行き経験を積むこと。

それを聞いた瞬間に『どちらも面白くない』と答えたんです。だって両方とも最終的なゴールは総支配人を目指すことでしたから。僕の人生がホテルで終わるのかなと思った瞬間に、それは面白くないなと率直に感じたのを覚えています。

それよりも、ここで習得したスキルやホスピタリティ、おもてなしの力を使って、それらがまだ浸透していない業界を変えてやろうと思ったんですよ。そして、その矛先がパイロットだったということです。世界で最初のホスピタリティ・パイロットです。それで30歳の時に脱サラしてパイロットの養成訓練学校に入っていきました。

『自分のあり方』を具現化する手段

(リッツ・カールトンを躊躇なく卒業できたのは)上位概念を持てたってことが大きいかなと思っています。
講演に招待していただく機会が増え、年間1万人くらいの方とお会いしていると思います。そこでお会いした方々に「ご自身のあり方って聞かれたことありますか?」と聞きます。ところが、そうした経験は一人もいないですね。

(自分のあり方を具現化する)唯一の手段は、自分自身が成長することだと考えています。これ以外にないと。自分自身が絶えず成長することは僕のミッションでもあります。自分自身が成長しなければ、相手に対して今以上の何かを提供することができません。ですから一つ言えることは、自分が成長することです。自分自身に目を向けていくことが絶対に必要だと思います。

実は僕、根拠のない自信がめちゃくちゃあるんです(笑)
上手くいく根拠は全くないんですよ。けれども僕の中には、先ほども伝えたポジティブなフィードバックやフィードフォワードが何千、何万と積み重なっているんですよ。だから自信を持てるんです。僕は感謝された数がすごく多いのだと思います。おそらく同世代のサラリーマンに比べて圧倒的に多い。感謝されると「あっ、それで良かったんだな」と、自分の型を肯定できますよね。その感謝の数をどんどん積み重ねていくと、それがどんどん膨らみ、気づいたら大きなご縁になっていきます。

昔、学生さんがインドに行って人生観変えます、というのが流行った時期がありました。僕は半分は当たっていて、半分は間違っていると思っています。インドに行ったから、あり方が見つかるということはないと思っています。もともと自分の中にあるものですから。ですが、あり方が見つかっていない人は、自分の思いが宿る言葉が見つかっていないだけであったり、言葉が宿る経験をしていなかったり、(そうした気付きを与えてくれる)人に出会っていないだけなんじゃないかと感じることがあります。

ですからインドに行くと言葉に出会うかもしれない、経験に出会うかもしれない。その点では僕はすごく賛成します。皆さん、自分の中にあり方をもともと持っているはずなんです。
それを見つけて言葉にしていくことが大事なんだと思います。言葉にしないと自分自身がわからないので。

ビジョンを浸透させる=『自分事化する』ということ

会社と個人の考え方が違う場合、リッツ・カールトンではどうやってギャップを埋めていたのかと聞かれることがあります。リッツ・カールトンでは「ラインナップ」というのを実施していました。一言でいうとミーティングです。一日2回、30分のミーティングです。このトータル1時間のミーティングに全社員が参加しなくてはいけません。
もし何か作業が発生した場合、総支配人たちが出てきてくれて、お客様にコーヒーを代わりに運んでくれます。だからおまえ行って来いと (笑)

このミーティングでは、例えば、ある日の時間ではサービスバリューの「私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します」という一文を取り上げて、これについてディスカッションするぞと。

新人の頃はその時間が嫌なんです。いきなり振られて、「あなたはこれについてどう思いますか?」と。暗記して読み上げるのではなく、それについてどう思うのか必ず意見を求められるんです。「それに対して君はこの1週間どんなことをしましたか?」「どうすればよかったと思いますか?」と必ず聞かれるんです。

実はこのやりとりこそが「自分事化」する大事なプロセスなんです。企業理念やクレドはリッツ・カールトンという会社の言葉ですよね。つまりこの時点では他人事になります。それが「お前はどう思う?」と聞かれ、出てきた言葉こそが「自分の言葉」なんです。こうやって上手に「自分事化」されていくわけです。

(こうしたことを)繰り返すと自分の考えを持つ習慣がついてきます。何かをしなきゃいけない場面で「上司に聞かないと判断できません」なんて言っていたら時間ないですよ。
だから自分で判断して動ける人間がリッツ・カールトンには揃っていました。そのために自分で考える習慣を作る必要があり、それが「ラインナップ」という仕組みでした。

あり方を深堀りしたり、自身の考えや思いを言い続けて習慣化すると、「あれ?違うかもしれない」ということが起こりえます。
例えば会社の理念と自分の考えていることが違うと気づくこともあります。結果「では辞めます」ということも当然あります。
これはビジョンや理念を軸に採用できていないということです。

最近は「採用広報」という言葉が普通になってきました。会社がどんな想いで活動しているのかを発信し、そこに共感してくれた人が採用面接を希望するケースが増えてきました。
リッツ・カールトンではそれが徹底されていたのだと思います。

「社会人」という表現は少し乱暴で、ひとくくりにはできないと思っています。会社に入って働く人は「会社人」ではないかと。会社の中でバリュー(価値)を出せる人が「会社人」で、社会に対してバリューを出せる人が「社会人」なんだと思っています。

今の若い世代は、会社が自分のことをどちらの視点で見てくれているのか、という点も評価していると感じます。会社ですから、もちろん部下や社員を組織の一員として会社人として評価するわけですが、それだけではなくて、もっと大きな視点で、社会人、あるいは社会の中でも一人の人間として認識してくれていることが、すごく重要だなと感じます。

リッツ・カールトンでは会社の意向と社員の思いが一致していたと思います。例えば僕の経験でも、会社は「1兆円達成!」なんていう目標が出てきます。その目標を全体の場でも発信します。「何年までに何兆円達成しよう」とか。何兆円と言われても興味がわかないです。これが正直な感想です。その目標が大事なのは経営層や本部長レベルなんです。それがそのままの表現で現場に降りてくるわけです(笑)
(そうしたケースでは)目標の表現が一度も編集されることがありません。上司は本来、社内の編集者でなければならないと思っています。

いかに社員が自分事化できるか。僕が現場の一員だとして、「何兆円達成すると、お客様が〇〇な世界を経験でき、〇〇のメリットがあり、お客様のお客様は〇〇ができるようになる」そういうことを言ってくれないと燃えないんです。
この自分事化がリッツ・カールトンは上手でした。社内に編集者がいましたから。

だから僕は世界中の人の記憶に残りたいと思っているんです

北海道のとある有名な老舗製菓店の採用評価方法なのですが、すごく面白いんです。例えばやる気のない社員がいて、会社人としては評価しようがない人がいる。でも出世するらしいんですよ。
周りからすると「なんで?」となりますよね(笑)
なぜかっていうと、その社員が面白いのは、地域の祭りに全部参加していると。参加して、そこにおばあちゃんがいたらみんなを巻き込んで笑顔にしているんだと。

だから「会社人」としては褒めようがない人でも、もっと視野を広げて「社会人」としてみると評価できるポイントがあるんです。そこをしっかりと賞賛してあげるということです。
結果、この社員は「会社人」としても成長していくのだそうです。

もう一つ印象的な話が、世界銀行の副総裁をされていた西水美恵子さんという方のインタビューです。すごく素敵なインタビューされていました。
西水さんは、実際に紛争地帯に自分が住むという経験をするそうです。実際にスラム街に住んで問題を発見していくと。体を張った副総裁で、SPもつけずにスラム街で生活していらっしゃるそうです。
そうやって色んな国を豊かにしていく方なんです。

記者の質問で『西村さん、良い国づくりをするにはどうすれば良いですか?」と聞かれ、『良い国づくりは、良い人づくりです。良い人ができたら、必ず良い国になるんです』と。

つまり、その人自身が成長することが、会社の成長につながっていくのです。

だから僕は世界中の人の記憶に残りたいと思っています。でも現実的には80億人の記憶に残ることは物理的に難しいですよね。けれども、もしかすると、この取材を頂いて記事になることで、僕が顔も知らない誰かの生活がハッピーになるかもしれませんね?「笑顔になるかもしれない、記憶に残るかもしれない」と考えると、その人には直接影響を与えられないかもしれないけども影響を与えられたかもしれない。これはもうすべてつながっているのかなと思っています。

そんなふうに人伝いにつながり、やがては世界が変わるんじゃないかって思っています。大は小を兼ねるといいますが、小はいずれ大になるだろうと信じています。
居酒屋で「しまほっけ」を食べる時、付け合わせの大根おろしに醤油を垂らしますよね。すると、最初は大根おろしの頂きをポツンと染めただけの醤油が、2滴、3滴と垂らして行くと段々と裾野まで茶色に染まって行く。そんなイメージです(笑)

ビジョン策定・浸透支援サービスについてご興味のある方はぜひこちらをどうぞ

Sherpa~営業を元気にするメディア~編集部あとがき

「時間が許せば5時間は話し込んでいましたよ!」インタビューを終えての福島さんの言葉。
実際はわずかな時間でしたが、5時間分の次から次へとあふれ出るお話しに共通していたことは「その瞬間を愉しんでいる」ということ。困難なことが起こっても、難解パズルに挑戦するかのような好奇心を持って前に進んでいらっしゃる、そんな印象を強く受けました。
インタビュー終了後、福島さんに私の密かな叶えたいことも含めて「自分のあり方」についてアドバイスをいただきました。

「ありたい自分に向かって、小さなイノベーションを起こしていったらいいですよ。最初はうまくいかないかもしれないけれど、あきらめないで。続けることが大事。小さなイノベーションのミルフィーユを創っていくイメージでね。」

福島さんから頂いたこの言葉は、私のお守りになりました。小さなイノベーションのミルフィーユ。層を重ねてまいります。

福島さんの勇気の出る言葉は、Twitter (@YasushiBoeing)で!

(取材/撮影:Sherpa~営業を元気にするメディア~編集部 伊藤・田門

聞き手:かもゆき (@Sherpa_KamoYuki)