2022.11.10 (更新日:2023.01.24)

マネジメントノウハウ

パーパス(Purpose)経営とは? 次世代企業のビジネスモデルと社会貢献で成功する事業戦略

パーパス経営とは、企業がパーパスを軸にした活動を行うことで、社会に貢献することを意味しています。

これまでの企業は、株主・経済活動が優先的に行われてきました。最近ではそれに加え、自社の存在意義を唱え、顧客・従業員・パートナー・地域社会をはじめとしたすべてのステークホルダーの利益を優先させ社会に貢献するという企業活動を始めています。一方で、日本の企業経営の中にはすでに昔からパーパス経営の思想が根付いているとも言われています。

今回は、企業がパーパスを広く社会に発信し、パーパスを軸にした企業活動を行うことで社会に貢献する「パーパス経営」についてじっくり解説してゆきます。

パーパス(Purpose)経営の意味

文頭で述べた通り、パーパス経営とは、企業が社会に与える存在価値を示し、パーパスを軸にした企業活動を行うことで社会に貢献することを意味しています。パーパスとは、社会に提供する価値であり、企業が定義する自社の存在意義を示しているのです。

世界的にパーパス経営が増えている背景

世界では「パーパス経営」を実践する企業が年々増え、日本でもソーシャルメディアの至るところで語られ、次世代の新しいビジネスモデルとして注目を集めています。(Purpose-Driven Companyとも言われます)

さまざまな世界情勢から、企業を取り巻く外部環境に変化が生じており、中でも顧客・人材・金融それぞれのマーケットにおいて大きな変化が起きています。
その要因として近年では、国連サミットでのSDGs(持続可能な開発目標)採択や新型コロナウィルス感染拡大、それにともなったDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速があげられるでしょう。それぞれのマーケットでの変化をみてゆきましょう。

顧客マーケットでの変化

昨今の顧客マーケットでは、自分の欲求にとらわれず社会や環境に役立つ商品を買い求めるという消費傾向が顕著です。特に、ミレニアル世代と呼ばれる1980年から1995年にかけて生まれた世代は、エシカル消費(消費者それぞれが持っている問題意識に対して、積極的に取り組む企業のサービスや商品を選択する)を重視しています。社会に向けてどのような課題に取り組むかというパーパスを打ち出すことにより、それが社会的に意義のある活動を生活に取り入れようとする個人消費行動に直結し始めています。

人材マーケットでの変化

また人材マーケットにおいても、ミレ二アル世代以降の就職活動や転職活動での選択ポイントとして、社会や環境に良い影響を与えているか、悪い影響はないかなどを事前に確認する傾向が高まっていることが挙げられます。自分の価値観を大事にし、多様性を重視する世代は、社会的に正しいインパクトを与えている企業を選択したいと考えています。

金融マーケットでの変化

金融マーケットでは、パーパスを打ち出し社会や環境へ良いインパクトを与えようとしている企業が投資先として着目されはじめています。パーパスが軸にあることで社員のモチベーションが高まり、社員それぞれの自発的な取り組みが期待できるようになります。社員が会社に誇りを持つことによって、結果的に企業のブランド力向上・離職率の低下・イノベーションの創出などにつながり、それが成長をもたらすと期待されているのです。

こうした社会情勢を含めた様々な要因から、パーパス経営に取り組む企業は世界的に増え続けています。

パーパス経営のメリット             

このように変化する社会情勢に合わせ、パーパス経営を実践する上でのメリットは下記があげられるでしょう。

イノベーションを推進できる

自分たちがどうありたいかを軸にするパーパス経営では社員から様々なアイデアが生まれ、新しいイノベーションを作り上げるきっかけとなります。ハーバード・ビジネス・レビューのレポートによると、イノベーションを伴う取り組みに成功していると回答した人の割合が、明確なパーパスをもった企業経営者の場合は53%であった一方で、パーパスを打ち出していない企業経営者の場合は19%にとどまりました。

社員のモチベーションが向上する

パーパスを軸に集まった組織においては、社員それぞれが自身の人生観や仕事観を業務と結び付けることができるため、従業員のモチベーション向上につながります。マネジャーの判断基準や担当者の行動基準が共有された状態となり、やるべきことが明確になるため、社員が主体的に行動できるようになります。パーパスを打ち出すことにより、社会に対する志は結果的に全社に行き渡り、より求心力を高め世代共通の価値観となることでしょう。

企業ブランドの価値が高まる

世界中の多くのブランド企業がパーパスを軸にした企業経営を始めています。パーパスを起点にSDGsやESGなどの観点を取り入れ、本業のビジネスとうまく融合することにより、より大きなインパクト与えるビジネス領域を見極めることができます。これまでのブランド体験にはない、新しい顧客体験の創出など新しいイノベーションも見出すことができると考えています。同時に、上記で述べたような新しい人材の確保と、社員の求心力やモチベーションなどにもつながってゆくと考えられています。

魅力的な人材を獲得できる

パーパスには共感する優秀な人材を引き付けられるというメリットもあります。特にミレニアル世代以降は、社会に貢献するという視点をより重要視して仕事選びをしていると言われています。ミレニアル世代は教育・メディアを通じて社会課題に触れる機会が増えており、社会と自身のつながりを日常的に考えるようになっています。つまり、社会に対して自社がどうありたいか(=パーパス)を発信することで魅力的な人材を惹きつけることができるようになります。

ステークホルダーに良い印象を与える

これまでの投資では、利益が得られるかどうかが企業を評価する上で一番重要な基準でしたが、SDGsやESG(環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance))などが社会的に高まったことにより、社会的課題にどのように貢献できるのかが新しい評価基準となっています。人的資産、組織資産、ブランド資産などの無形資産への関心が高い投資家は、パーパスを企業の将来価値を生み出すまだ見ぬ財産として位置付けています。

ミッション・ビジョン・バリューとの違い

人々がよく混同する言葉があります、それは「ミッション・ビジョン・バリュー」でしょう。これまで企業は「ミッション・ビジョン・バリュー」を理念として掲げてきましたが、それが今はパーパス・ドリーム・ビリーブにシフトしています。ミッション・ビジョン・バリューは外発的と言われ、パーパス・ドリーム・ビリーブは内発的と言われています。

パーパス・ドリーム・ビリーブとは

経営の軸となるものががパーパス(Purpose)・ドリーム(Dream)・ビリーブ(Belief)へと変化しているともいわれています。外発的なものから内発的な視点への変化を表しています。ミッションは外部(自分以外)から与えられた指示であり、パーパスは内発的なもの(自分の内側から湧き出るもの)と言われています。

ミッションで降りてきた指示から、自分たちの未来の姿を描いたものがビジョンであるのに対し、ドリームは自己が実現しようとする意志のあるものです。価値観や価値基準を表すバリューが自分事化されにくいのに対して、ビリーブはメンバー1人ひとりが心に刻んでいる信念や強い思いを連想させます。

ミッションとパーパスの違い

ではミッションとパーパスの違いはなんでしょうか?ミッションとパーパスとの違いを、『PURPOSE』(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集者/ダイヤモンド社)では以下のように述べています。

ミッションとは「自分たちが社会に何を働き掛けたいのか」であり、
パーパスは「自分たちは社会の中でどうありたいのか」

パーパスはWHY(なぜ企業が存在するのか?)であり、社会にとっての存在意義を説いています。
ミッションはWHAT(パーパスを実現するために、何をするのか?)であり、企業が行うことを説いています。パーパスはミッションの上位概念とも言えるでしょう。

パーパス経営の失敗事例             

一方、なかなかパーパスが浸透しないという問題をかかえる企業もでてきています。そこで、パーパスが浸透しない失敗事例をみていきましょう。

認識ギャップの発生

経営層ではパーパスが伝わっていると認識していても、社員は全くそう捉えていないというケースも現場では起きています。企業の売上規模が大きくなるほど、両者のギャップが拡大すると言われています。同じようなギャップは社員だけでなく、株主や取引先などとの間でも生まれる可能性があります。パーパスを軸にした経営計画を練るときには、経営者が強い意志を持ち、全てのステークホルダーに対する説明責任を果たす覚悟が必要です。

社内エンゲージメントの不足

パーパスが浸透しなければ、社員は何も意識せず、黙々と業務に取り組むでしょう。経営層との熱量の差によって社員のエンゲージメントが低下したり、企業の成長がストップすることもあります。経営者の強く長期的なコミットメントに加えて、経営者が交代した場合でも変わらず継承するためには組織の仕組みづくりも大切です。

常に長期的な視点にたち、どのようにパーパスを浸透させてゆくのかを明確に提示する必要があります。

パーパス経営4つの成功ポイント             

1.社会全体を意識する

世界が直面する社会問題は環境問題・人権問題、労働環境の改善などさまざまです。直接の取引先や所属している業界だけでなく、自社が築き上げた資産やインパクトを与えているマーケットに対し、今一度問い直し、視点を広げて社会に貢献できるパーパスを考えてみましょう。

2. 自社にしかできないパーパスを作る

自社にしかできない、独自のパーパスを策定しましょう。そうすることで、パーパスを実践しながら独自の付加価値やノウハウを蓄積できるのです。また、社員が実践し浸透する過程で、問題や壁に直面した際、そのパーパスを振り返り正しい方向へ導いてくれるものでなければいけません。この業務はこのように進めてよいのだろうか?もっとこうした方が良いのだろうか?という思考や行動が伴うよう、パーパスの策定と浸透作業をすすめていくのが良いでしょう。

3. 事業戦略に落とし込む

パーパスを策定することが目的ではありません。社員一人ひとりがパーパスを意識し行動することで自発的に企業活動を実践している状態を目指すことが大切です。自社の事業戦略のひとつとして詳細を落とし込み、社員が実践できるまでを事業のゴールにする必要あります。

4. マインドセットを怠らない

パーパスは、基本的に社員の考えや行動を通じて社会に貢献していくものです。社員が自社のパーパスに反応し行動した結果があらゆる企業活動に反映され、それが社会や顧客、さらにはマーケットに影響をもたらすとされています。そのためには、まずは社員にむけたパーパスの浸透活動を継続的に行っていくことが重要となります。

パーパス経営の成功事例

では、ここからはパーパス経営を成功させている代表的な企業の事例について触れていきます。

ネスレ

世界を代表する食品メーカーのネスレは「Good food, Good life」というパーパスを掲げ、3つの領域①個人と家族(栄養の分野) ②コミュニティ(農村開発) ③地球(環境)において本業を通じて2030年までの長期目標を設定しています。

食品を通じて人々の生活の質を高めることで病気をしないことはもちろん、身体的・精神的・社会的に良好であることの実現を経営の軸とし、昨今では原材料を家畜の肉から植物性の肉へ転換するという活動を積極的に行っています。

ネスレ日本:日本での取り組み(https://www.nestle.co.jp/csv/japan)

ユニリーバ

イギリスのユニリーバは伝統的なパーパス経営の1社とされています。石鹸のメーカーとしてスタートした同社はスタート時のパーパスである「Make Cleanliness Commonplace(清潔を暮らしのあたりまえに)」を、近年では時代とともに「Make Sustainable Living Commonplace(サステナビリティを暮らしのあたりまえに)」に変化させています。

気候変動やプラスチックごみ、不平等など、消費者やステークホルダーが深く関心を寄せる環境や社会の課題のサステナビリティ目標やプランを策定しています。

ユニリーバ・ジャパン:日本での取り組み (https://www.unilever.co.jp/planet-and-society/)

パーパス経営の参考書籍

パーパス経営: 30年先の視点から現在を捉える  名和 高司 (著)

国内外の100社以上の名だたる企業の変革にかかわってきた著者が、30年先の視点から現在を捉える発想で志を追求し、成長を続けるための経営の思想と、具体的なマネジメントの方法を説き明かした本。


【まとめ】パーパス経営は、企業の内側からのパワーを引き出す

「ハート・オブ・ビジネス」著者 ユベール・ジョリーは「パーパス経営は、個人の存在意義と組織の存在意義の方向を合致させ、メンバーの能力を引き出すことができる。企業がパーパスを追求することにより、利益はその結果として出てくる」と述べています。

また個人の方々は、企業のパーパスをいかに自分事化し、企業とともに歩んで行けるかがキーポイントとなりそうです。

数々の企業で2030年までにSDGsの達成を掲げていますが、パーパス経営の先進企業はさらにその先の30年後である、2050年を見据えた目標を設定しています。各社に共通する新SDGs(サステナビリティ・デジタル・グローバル)をどのようにすすめていけばよいか、ぜひこの機会に考えてみてはいかがでしょうか?