2024.07.12 (更新日:2024.07.25)
組織開発とは?実行のステップや、効果的なフレームワーク8選、成功事例も解説
社員数の増加や事業の拡大など、社内環境の変化により組織も変わっていきます。組織開発は企業にとって、今後の事業に大きく影響する重要なポイントです。この記事では「組織開発とはどういうものなのか」「どのように進めればいいのか」などについて詳しく解説します。組織開発を行う上での注意点や、組織開発に成功している企業事例についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
組織開発とは
組織開発は、組織の中で働いている人たち自身により組織をより良くしていくことや、そのための支援を行うことを意味します。
組織開発は1950年代にアメリカで誕生し、今も研究されている分野であり、日本の企業でも大きく注目されています。研究が進むにつれ、組織開発の手法も増加し、現在では社内環境や抱えている課題などにより様々なアプローチを試みることが可能です。英語で「Organization Development」と表記され、略して「OD」とも呼ばれています。
では、なぜ組織開発を行うのでしょうか。組織開発をする目的や必要性について解説します。
組織開発の目的
社内環境は事業の拡大などにより変化していきます。社内環境の変化により、社員数や業務量の増加、システムの変更など様々な事態が発生します。
こういった社内環境の変化は、組織にも大きな影響を与えることは言うまでもありません。この変化に対し、いかに対応していくかが企業にとって重要な課題です。
この課題を解決する方法の1つが組織開発なのです。「社内環境の変化に順応しながら、効果的かつ円滑に機能する組織を作り上げる」ことが、組織開発を行う大きな目的です。
組織開発の必要性
組織の変化は多くのプラスがある一方、情報や価値の共有がうまくいかず事業の発展が滞ることも少なくありません。最悪の場合、社員の離職に繋がる危険もあります。この事態を避けるために有効なのが組織開発です。
組織開発は、社員同士の関係性や繋がりに働きかけることで組織を活性化できます。組織が活性化することで事業の発展を促すだけでなく、社員の意欲を向上させることにも繋がり離職を予防する効果も期待できます。社員の意欲が向上すれば、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すことが可能となり、生産性を高めることも可能です。
企業の発展と生産性の向上を図れるためにも、組織開発の必要性は非常に高いのです。
組織開発が注目を受けている理由
企業を発展させる上で、欠かすことができない組織開発の目的と必要性について解説してきました。では、なぜ今組織開発が注目されているのでしょうか。
「グローバル化」、「女性社員の躍進」、「若手の育成と早期戦力化」などなど、時代とともに日本の企業が抱える課題は変化しています。また電話やメールに代わり、チャットやWeb会議、在宅ワークなどを活用する企業も増加し、さらには外国人採用も積極的に実施されており、組織内にも多様性が求められています。
このような多岐にわたる大きな変化を受け、組織として価値観の異なる個人同士の関係性を強化していくことは、企業にとって最重要課題の1つです。その課題を解決する手段として、社員同士の関係性や繋がりに働きかけ組織を活性化させることができる「組織開発」が注目を集めています。
組織開発と人材開発の違い
組織開発の他に「人材開発」という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。組織開発と人材開発は、同じ開発という言葉が使われていますが、その中身は異なります。
大きな違いは、開発の対象です。組織開発は組織内の関係性にアプローチし、組織を活性化していきます。つまり「組織内にいる全員」が対象です。それに対して人材開発は「個人」が対象になります。社員個人に対して知識やスキルを与え、個人の能力がアップされることで課題の解決を目的としています。そのため人材開発の多くは若手社員や新入社員に行われることが少なくありません。
「組織全体の関係性を向上する組織開発」と「個人の能力をアップさせることで課題解決を目指す人材開発」は両者とも企業の発展のために行う取り組みですが、根本的なアプローチや対象、目的が違うことをしっかりと理解しておきましょう。
組織開発のフロー
組織開発はただ行えばいいというわけではありません。成功させるためには、しっかりと計画を立て実施していくことが大切です。ここでは、組織開発を行うための流れについて解説します。
ステップ1:組織の目的を明確にする
組織開発は、組織内の関係性にアプローチすることで組織の活性化を図るという狙いがあります。しかし、組織開発そのものはあくまでも手段であり、組織開発を行う目的ではありません。そのため「組織開発をした結果、この組織にどうなってほしいのか」という目的、つまりゴールを設定することが重要です。ゴールがないままスタートしては、どの方向に進むのか分からなくなってしまいかねません。しっかりと組織開発を行う目的を明確にし、方向性がぶれないように注意してください。
ステップ2:現状を把握し、課題を設定する
目的が明確になったら、次は組織内の関係性やグループ内の状況、コミュニケーションなどの現状を把握します。ここで難しいのが、これらはすべて目には見えないということです。そのため「なんとなく職場や社員に活気がない」などぱっと見た印象で組織開発を進めてしまう危険があります。
そのような事態を避けるために具体的な事実をもとに現状把握をすることが重要です。例えば、社員へのアンケートや面談による聞き取りは、非常に有効な手段です。効率よく、そして具体的に情報を収集することができるだけでなく、これらの方法で集めた情報は、文字やデータとして可視化されるため問題点をより確実に捉えることができます。
明確になった問題点が個人によるものであっても、他の社員や上司など組織内の関係性に注目して課題設定を行うのが組織開発のポイントです。そのため、複数の原因が複雑に絡み合っているケースもありますので、様々な視点から集めた複数の情報を基に、課題の仮説を設定していきましょう。
関連記事:仮説検証の考え方や手順について!ポイント・注意点まで詳しく解説
ステップ3:プランを組み、スモールスタートにて実施する
課題の仮説を設定したら、「パイロット・スタディ(試験的な実施及び調査)」を行うためのプランを組み立てていきます。ポイントは、「スモールスタート」、つまり短期的なプランを練り、小規模で実施することです。例えば、会議を少し工夫・改善したり、ワークショップを実践したりすることなどが挙げられます。スモールスタートのメリットは「実施したプランの効果をチェックしやすい」、「成果を早く上げられフィードバックしやすい」という点です。長期的な計画を立てたとしても、まずはスモールスタートで実施することをおすすめします。なお、検証のしやすさを考慮し、定量(数値化できるもの)と定性(数値化できないもの)に注意しながらプランを立ててください。
ステップ4:効果検証とフィードバックを行い、効果を高めていく
パイロット・スタディを実施し成果を得られたら何が良かったのか、逆に成果があまり得られなければ何が原因なのか検証しましょう。大切なのは、できる限り「良かった点」をチェックすることです。フィードバックを受ける側にダメな点をたくさん言うよりも、良かった点を伝えたほうが企画立案する側のモチベーションも高くなり、さらなる改善策を打ち出す意欲にも直結します。スモールスタートのメリットである素早い検証とフィードバックを生かし、効果を高めていってください。
ステップ5:検証結果や事例を全体に展開し、動きやすい環境を作る
得られた検証結果や、効果があった事例は、その成果も含め会社全体に広げていきます。この際、マニュアルなどを整備しておくと、より実施しやすくなるでしょう。会社全体に展開した後も、検証とフィードバックは継続的に行うことが大切です。施策を改善できるだけでなく、社員全体の意欲向上にも繋がるからです。迅速かつ効果的に行うために、フィードバックや成果などをすぐに関係者で共有できる仕組みも作っておくことをおすすめします。
この流れを参考に、しっかりとプランニングを行い、組織開発を成功させましょう。
組織開発で用いられるフレームワーク8選
現在では研究も進み、組織開発を行うための様々な手法(フレームワーク)があります。それぞれのフレームワークに特徴や強みがあり、各企業が抱える課題やゴールに応じて選択することが可能です。ここでは、組織開発によく用いられる代表的なフレームワークを8つご紹介します。
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッション・ビジョン・バリューとは「企業理念」を形作る3つの要素であり、組織を成長させるための基礎となります。頭文字を取り「MVV」とも呼ばれ、組織の使命(ミッション)、組織が理想とする姿(ビジョン)、組織の価値観(バリュー)を定義するフレームワークです。このMVVを明確にすることで、社員の組織に対する帰属意識を高めたり、意思決定をしやすくしたりする効果があります。MVVを浸透させることで、組織や企業の目指すべき姿が明確になるため、組織開発も進めやすくなるという点も特徴です。
7S
「マッキンゼーの7つのS(略して7S)」と呼ばれ、コンサルティング業界で有名なマッキンゼー・アンド・カンパニーが作ったフレームワークです。企業には3つのハードな経営資源、「戦略(Strategy)」、「機構(Structure)」、「システム(System)」と、4つのソフトな経営資源、「スタッフ(Staff)」、「経営スタイル(Style)」、「経営スキル(Skills)」、「上位目標(Super ordinate Goals / Shared Value)」があるとされており、それら7つの相互関係を表したものが、この7Sになります。このフレームワークを用いることで、7つの経営資源の観点から組織の現状と目指している姿とのギャップを診断できるため、最適な事業戦略を考えることが可能です。そのため、経営指針を定め、組織開発をどのように行うか決定する際にも活用できます。
OKR
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、高い目標を達成するための目標管理方法の1つです。Objectivesは「目標」、Key Resultsは「主要な結果」という意味で、企業・チーム・個人に分かれて目標と目指す結果を設定します。ここまでは従来の目標管理方法と同じですが、OKRの特徴は、個人と企業の目標をリンクさせるという点です。OKRを使うことで「会社と社員個人の方向性の一致」、「課題の明確化」などの効果があり、同じ目標に向かって全員で計画を進めることが可能です。GoogleやFacebook、最近ではメルカリといった大手企業が組織開発の手法として導入しており、注目を集めています。
タックマンモデル
心理学者のブルース・W・タックマンが1965年に提唱したフレームワークです。組織の成長段階を「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」「散会期」の5つに分けて示したモデルになります。
メンバーはチームの目標を達成するために、5つに分けられた成長段階ごとに話し合いを行っていきます。「混乱期」では、チームの大きな変化による混乱や衝突、また問題点などが挙がり、逆に「統一期」ではそれらの問題点を解決していきます。組織の成長段階を経験することで、チーム内でのお互いの価値観や個人の能力を理解し、団結力があるチームになることが目的です。能力だけでなく、チーム全体の状況を理解することで「自分が何をするべきか」など立場も明確になるため、社員の力を引き出すことも可能です。チームビルディングを効果的に行うために用いられるフレームワークで「組織内の活発なコミュニケーションの促進」、「意欲の向上」、「新しいアイディアや解決策が出てくる」などのメリットがあり、組織開発としても非常に有効な手法です。
アプリシエイティブ・インクワイアリ―
Appreciativeは「価値を見出す」、Inquiryは「質問する」という意味の単語です。英単語の頭文字を取り「AI」とも呼ばれており、アメリカで開発されました。最大の特徴は、ポジティブな問いかけをすることで、個人や組織の持っている強みや良い所に気づかせるという点です。見つけ出した強みや良い所(価値)を最大限に生かし目標を達成する方法を考え、問題解決を図る手法です。組織開発を行う際には、社員が自分の価値を知り可能性を広げていくことが重要になります。AIは、社員の新しい強みや能力を引き出すだけでなく、ポジティブな質問により社員の意欲を向上させることができる非常に優れたフレームワークです。
ワールドカフェ
ワールドカフェは対話手法の1つです。カフェのようなリラックスした雰囲気の中で行われ、少人数に分かれたテーブルごとに自由に会話を行います。他のテーブルとメンバーを入れ替えながら気軽に対話を続けることで、参加者全員の意見を集めることが可能です。社内の会議は雰囲気などが重くなりやすく、意見が言いづらいことも多く若手ならなおさらその傾向が顕著です。そのため、「もっと気軽に意見やアイディアを出してほしい」、「和やかな空気の中で話をしたい」と考えている企業に、特におすすめのフレームワークになります。1,000人以上という大規模で行うことができ、進行も難しくなく、全員から意見を集めることができるため多くの企業で実施されています。
フューチャーサーチ
ホールシステム・アプローチと呼ばれる大規模な対話を通じた組織開発の手法です。この手法の大きな特徴は「システム全体」に対して行うということです。テーマや課題に関係する人たち(社員のみならず、顧客や取引先、時には地元住民など)を一堂に集め、お互いの立場を越えて対話し、よりよい未来(Future)を探して(Search)いきます。参加者は「過去」「現在」「未来」という流れを意識しながらお互いに意見を出し合い、将来の目標実現に向けたアクションプランを企画します。その際に重要なのが「参加者全員が合意できる共通の価値」を見出すことです。フューチャーサーチは、外からの意見も取り入れながら組織開発が可能なフレームワークとなっています。
コーチング
近年、ビジネス界でよく耳にするようになったのが、この「コーチング」です。この言葉を聞くと、部活などの指導を思い浮かべる人もいますが、全くの別ものです。部活指導などは先輩や監督などが指示を出すため「ティーチング」に該当します。一方、コーチングとは「社員の中にすでに解決策がある」というスタンスで、ヒアリングや観察、提案を行い、その解決策を引き出す手法です。ティーチングが一方通行の指示になるのに対し、コーチングは双方によるコミュニケーションが活発になることが多いのも特徴です。社員の内面の変化を促し、自主性や新しい価値観を育てていくことが目的のフレームワークです。
組織開発によく用いられる代表的なワークを紹介しました。それぞれに特徴があり、効果も様々です。そのため、会社の課題や組織開発のゴールなどに合わせ複数のフレームワークを組み合わせるのがおすすめです。自社の課題やゴールをしっかりと確認し、最適なものを選んでください。
関連記事:コーチングとは?コーチングとティーチングの違いやメリット・デメリット、コーチングに必要な4つのスキルを徹底紹介!
組織開発を行う上での注意点
ここまで組織開発を行う手順やフレームワークについて解説しました。組織開発は、組織の活性化が図れる非常に有効な手段ですが、組織開発を進めていくためには注意点があるので知っておきましょう。ここでは、組織開発を成功させるための注意点を3つご紹介します。
組織のリーダーとの合意を形成する
組織開発とは、外からの働きかけやトップダウンで行うのではなく、組織内の社員たち自身が主体性を持って進めていく必要があります。そのため、組織のリーダーと合意を形成することが重要です。
まずは部門や集団のトップやマネージャーなどのリーダーに、組織開発とは何なのか、また何を目的としているのかを十分に説明し、十分な理解と合意が得られてからスタートしましょう。合意が得られないまま始めてしまうと、混乱や弊害が生じる可能性が高まるので絶対に避けてください。
フレームワークの型にはまりすぎない
先ほど、企業でよく用いられているフレームワークについてご紹介しました。フレームワークを用いるメリットは、すでに型が形成されており、実施しやすいという点です。
しかし一方、その型にとらわれ過ぎてしまうこともあるので注意が必要です。フレームワークはあくまで手段であり、メインは「人」であることを忘れてはいけません。組織開発を行いながら、社員の反応や組織の動向を注意深く確認・検証し、柔軟に対応することが大切です。
継続して行っていく
新たな社員の雇用、事業内容の変化、チーム編成など、組織は常に変化をしていくものです。そして、その変化の中で新たな課題が発生するでしょう。組織開発は、常に新たな課題を解決していくために継続して行っていくことが大切です。継続し行っていくことで、組織はさらに発展し、より団結し強固なものへと変わっていきます。
組織開発はスモールスタートで行い、短期間の実施がおすすめですが、そこで終わりにするのではなく、そこで得た検証結果や効果を次に生かし、それを積み上げていくことで、組織を発展させる永続的なアプローチにすることが重要です。組織の発展を止めないために、長期的な視点を持ち取り組んでいきましょう。
組織開発に成功している企業の事例をピックアップ
現在、多くの企業が組織開発に取り組んだり、検討したりしており、大手企業でも組織開発を行い成功している事例は多くあります。ここでは、組織開発に成功した有名大手企業の事例をご紹介します。
ヤフー株式会社
ヤフーは、組織開発を通して「人を育てる」という取り組みを丁寧に行ってきた企業の1つです。サービスの拡大とともに組織も巨大化してきました。
以前は、非効率な体質が懸念されており、経営陣も危機を感じていました。そこで社員に対し改革の必要性を説明し、2012年から組織開発を開始。2013年には組織開発の専門チームを発足し、部門の垣根を越えた連携強化が図られました。
具体的な実践例の一部としては「全従業員に対して1on1ミーティングの導入」、「バリューや新人制度の運用について考えるワールドカフェの実施」、「部下から上司へのフィードバック」、「関係者を一堂に集めて行う人材開発方針を決める会議の開始」などを行ってきました。
ヤフーの取り組みの多くは、「社員同士が対話をする機会を増やす」ことに重点を置いており、ヤフーでは組織開発のコンセプトに「組織の自走力」を掲げて取り組んできました。それを実現するために、多くの施策を行い成功してきました。今では組織開発文化が社内でしっかりと定着しており、積極的に取り組む企業として有名です。
楽天グループ株式会社
楽天は、現在17,000人以上、そして70を超える国籍の社員が所属する超大手企業です。社員への企業理念の浸透や、組織と個人の新たな関係性の構築を図るため、2018年10月に組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を新設し、個人・組織・企業文化などの様々な視点から研究を進めているほど組織開発に力を入れています。
楽天グループでも「1on1ミーティング」を導入し、上司と部下との関係性の強化を実施してきました。「1on1は上司が何かを言う場ではなく、質問して部下に考えさせる場である」という話をしており、コーチングに近い実践を行っています。会話や研究を通して「どのような成果が出たか」「ベストな仕組みを作り上げるにはどうすべきか」など、現場の声を参考に組織開発に取り組んでいる企業です。
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まとめ
この記事では、組織開発の目的や流れ、代表的なフレームワークについて解説しました。組織開発を通して社員同士の関係性に働きかけ組織の活性化を図ることは、企業の発展において欠かすことができません。実際に多くの企業が、組織開発により発展を遂げてきました。この記事でご紹介した流れやフレームワークを参考に、ぜひ組織開発を成功させてはいかがでしょうか。