2024.04.08 (更新日:2025.12.11)

マネジメントノウハウ

目標達成に導くコーチングとは?効果やメリット、具体的なステップを徹底解説!

「企業は人なり」という格言が示す通り、企業が安定した成長を達成していくためには、そこで働く人、つまり社員の育成が不可欠です。この目標を達成するうえで要となるのが「コーチング」です。

コーチングとは

コーチングとは、相手が目標達成に必要な行動や思考プロセスを自ら見出せるよう、質問や対話を通じて支援するコミュニケーション手法です。単にアドバイスを与えるのではなく、相手が自分の状況を整理し、判断の根拠を言語化できるよう導く点が特徴です。

ビジネス領域で一般的に用いられる GROW モデルでも、「Goal(目標)→Reality(現状)→Options(選択肢)→Will(意思)」という思考プロセスを質問によって辿らせる構造が示されており、コーチングの基礎となっています。

また、質問を軸にするアプローチは認知心理学的にも効果が知られており、“自分で言語化した内容は記憶に残りやすく、行動転換につながりやすい”という研究とも合致します。

営業組織の1on1など実務の現場では、「部下が上司の“正解”を探して黙り込む」という状況がしばしば起こります。こうした場面でも、コーチングは相手の思考を引き出し、主体的な判断力を育てる助けになります。

そのためコーチングは、ビジネスだけでなく教育、キャリア形成、ライフプランニングなど幅広い領域で活用されています。自分で考える力を促す手法であることから、特に組織における人材育成やマネジメントの分野で重要度が高まっています。

コーチングの効果

コーチングの大きな効果の一つは、「対話を通じて相手自身が進捗や課題を正確に把握できるようになること」です。単なる報告ではなく、思考のプロセスを言語化するため、状況の整理が自然と進みます。

心理学研究でも、言語化を通じて自分の思考を客観視する「メタ認知」が働き、行動の選択肢やその利点・リスクを自分で整理しやすくなることが示されています。

たとえば営業組織の1on1では、「進んでいるように見えるが、なぜそう言えるのか本人が説明できない」という状況が起こりがちです。
 ・何が順調で
 ・どこにリスクがあり
 ・次にどんな打ち手を取るべきか
コーチングの対話を通じて本人が言語化できるようになるため、進捗の可視性が大きく向上します。

また、上司や周囲からの「指示待ち」を減らせる点も効果として重要です。自分で判断根拠を説明できるようになるため、毎回の承認や指示を待つ必要が薄れ、意思決定のスピードが高まります。
こうした効果は、コーチングが単なるモチベーション管理ではなく、実務に直結する行動変容を生み出す理由といえるでしょう。

コーチングのメリット

「目標は明確に定まっている一方で、そこに至るまでのプロセスが定められていない」という場面では、コーチングが非常に有効です。その理由として、コーチングが持つ3つのユニークなメリットが挙げられます。

自発性が向上し主体的な行動が生まれる

コーチングは「自分で考えて決める」プロセスを重視するため、相手が自分の判断に責任を持ちやすくなります。心理学ではこれを 自己決定感 と呼び、自分で選んだ行動ほど継続しやすいことが知られています。
営業組織の現場でも、コーチングを取り入れることで「言われたからやる」のではなく、「こうすると決めたから動く」という状態になりやすくなります。これは、単なる“やる気”ではなく、相手の内側にある目的と紐づいた行動が増えるため、意思決定のスピードが上がるという実務上のメリットがあります。

モチベーションを維持できるようになる

コーチングでは、目標設定から振り返りまでのプロセスを“本人の言葉”で整理していきます。自分で言語化した目標は、外から与えられたノルマよりも意味づけが強く、行動の持続に影響します。

実務の1on1でも、「上司に言われているから頑張る」のではなく「自分が決めたから続ける」という状態を作りやすく、途中で迷った時も自分の言葉に戻ることで軸が保ちやすくなります。

また、心理学の研究では、“達成までの道筋が具体的に描けていると、モチベーションは下がりにくい”
ことが確認されており、コーチングの対話構造はこの点を自然に支援する役割を果たします。

新しい可能性やアイディアを見つけ出せる

コーチングでは「どうすべきか」よりも「どうありたいか」「何を大切にしたいか」といった価値観・目的に基づく問いかけを用います。このアプローチは、解決策に飛びつく前に視野を広げるため、思い込みに囚われていた枠を外す効果があります。解決志向アプローチの研究でも、理想状態の明確化が行動の幅を広げると指摘されています。価値観や望む方向性を起点に対話するという点で、コーチングの手法と相性の良い考え方です。

実際のマネジメントの現場でも、課題ばかりを掘る会話よりも、「どうなりたいか」から逆算する対話の方が新しい判断基準や行動の可能性につながりやすくなります。



関連記事:コーチングとティーチングの違いについて詳細はこちらの記事を参照ください↓



コーチングに必要とされる5大スキル

コーチングで目指すのは、自律性を持った人材を育成することです。コーチは援助を与える立場であり、対象となる相手に心理的なプレッシャーを与えてはなりません。以下の、5つのスキルを常に意識して効果的なコミュニケーションを図ることで効果的なコーチングを行うことができるでしょう。

1. 傾聴スキル

傾聴は、コーチングの中核となるスキルです。心理学では「能動的傾聴」と呼ばれ、相手の言葉だけでなく、感情・背景・文脈を含めて理解する姿勢が重要だとされています。
ビジネス現場、とくに営業組織の1on1では「結論だけを急いでしまい、背景理解が欠ける」という状況が頻繁に起こります。

  • 本人が何を根拠に“進んでいる”と判断しているのか
  • どこにリスクが潜んでいるのか
  • なぜその行動を選んでいるのか

傾聴を徹底することで、“思考の筋道”が見えるようになります。こうして相手の内側にある意図や不安を引き出すことで、1on1が「報告」ではなく「思考が深まる対話」に変わり、コーチングの効果が高まります。

2. 承認スキル

承認は、相手の“行動の事実”を客観的に認めるスキルです。心理学では「行動承認」が内発的動機づけを高めると示されています。
承認には3種類があります。

  • 存在承認:場にいること・関わっていることを肯定する
  • 変化承認:小さな改善・試行した行動の変化を認める
  • 成果承認:結果と、その裏側にあるプロセスを評価する

営業マネジメントの現場で多い誤解は、“成果承認だけに偏る” ことです。
しかし、行動変容に影響するのは 変化承認 の方が大きい。
 「今週は仮説の精度が上がってきたね」
 「先週より質問の質が良くなっている」
こういった具体的なフィードバックは、相手の自己効力感を高め、次の行動につながります。

3. 質問スキル

質問は、相手の思考を深めるための“介入技術”です。コーチング研究でも、質問は「自己認識の促進」「意思決定の質向上」に寄与するとされています。

質問には段階があります。

  • クローズド質問(Yes/No):思考の負荷を下げて話しやすくする
  • オープン質問(Why/How):考えの背景や根拠を引き出す
  • 未来志向質問(Goal):行動の選択肢を広げる

営業1on1では、「その案件、いまどこまで進んでる?」と聞いても“事実の列挙”しか出てきません。

  • 「その判断をした理由は何?」
  • 「他の選択肢はどんなものがありそう?」
  • 「次の一歩として、どこにリスクを感じている?」

しかし、例えば上記のような質問は、思考の構造を可視化し、相手自身が“気づく”プロセス を生み出します。

4. フィードバック・スキル

コーチングのフィードバックは、“答えを教えるため”のものではありません。相手の視野を広げ、気づきを促すための“認知の再構成”です。研究でも、効果的なフィードバックには以下の要素が重要とされています。

  1. What:何が起きたか(事実)
  2. So What:それはどういう意味か(気づき)
  3. Now What:次にどう活かせるか(行動)

営業組織でありがちな失敗は、「改善案の提示(=助言)」が多すぎること。

  • 「ここはうまくいったね。なぜそう言える?」
  • 「別パターンを考えるとしたら?」

コーチングでは、本人が自分で答えを見つけるプロセスを支援することが重要です。

効果的なフィードバックの手法についてはこちらの記事を参照ください。



関連記事:「フィードバックとは?効果的な4つの方法と部下が育つ人材マネジメントについて解説」


5. リクエスト・スキル

リクエストは、コーチが“行動の選択肢”を提示しつつ、決定権は相手に残すスキルです。命令や指示ではなく、主体性を守りながら行動を促す点に特徴があります。

重要なのは、以下の3点です。
・選択肢は提示してよい
・決めるのは相手
・理由を共に言語化すること


営業マネジメントでよくある誤解は、「リクエスト=お願いベースの指示」になってしまうこと。

  • 「A案・B案がありそうだけど、本人としてはどちらがしっくりくる?」
  • 「次の一歩として、今週どれなら確実に実行できそう?」

実際のリクエストは上記のように、“本人の意思決定を支援する枠組み”です。主体性が保たれることで、行動の定着率が高まるという研究もあります。

効果的なコーチングのステップ

人材育成を目的にコーチングを取り入れる際には、どのステップをどの意図で行うのかを理解しておく必要があります。これが曖昧なまま進めてしまうと、部下にとって単に「上司から𠮟責を受ける場」と誤解される可能性があります。こうした状況を避け、自己流による失敗を防ぐためにも、以下の5つの点を念頭に置いてマネジメントしていくことが重要です。

 1.現状認識

コーチングを行う上司は、まず部下が現状をどう評価し、どのように感じているかを丁寧に把握する必要があります。満足しているのか、不満や不安を抱えているのかを探るためには、質問を通じて本人の自己評価を引き出すことが効果的です。部下が自分の考えを話し始めたら、上司は評価を急がず、穏やかに耳を傾ける姿勢を意識しましょう。これは後続ステップの思考整理にもつながります。

 2.具体的な目標設定

現状が把握できたら、次に部下自身が具体的な数値目標や行動イメージを持てるようサポートします。
プロセスがイメージしづらい場合は、上司が答えを与えるのではなく、ディテールを補助する質問を投げかけることが重要です。ここでは、「上司の意見を復唱するだけ」にならないよう注意し、自律的な目標設定を促します。

3.課題の確認

現状から目標へ向かうために克服すべき課題や障害を明確にする工程です。
過去の類似経験や、その際の対処法を尋ねることで、本人の思考整理が進みます。こうした準備ができていると、部下は落ち着いてプロセスを開始でき、途中の迷いも減ります。

 4.リソースの確保

目標達成のために活用できる時間・予算・協力者・スキルなどのリソースを整理します。
特に1人で取り組む場合には、必要なスキルや経験が十分かどうかを、上司が客観的に補助して確認することが大切です。リソースの見立てが曖昧だと、進行中に躓きやすくなります。

5.ロードマップの作成

目標達成に向け、1日〜1週間単位の行動目標を設定します。
短期的なステップが可視化されることで、部下は進行状況と比較しながらプロジェクトを進めやすくなり、迷いなく行動できます。ロードマップは“行動の地図”として、日々の振り返りや軌道修正にも役立ちます。

ビジネスにおけるコーチングの重要性

ビジネスの現場では、多くの企業が組織強化の手段としてコーチングを導入しています。一般的なモデルは、上司がコーチ役となり、部下の思考整理と行動支援を行う形です。
コーチングが円滑に進むことで、上司はマネジメントスキル・コミュニケーションスキル・リーダーシップといった管理職としての基礎能力を具体的な場面で磨くことができます
上司自身が自己認識を深め、成長を実感できるようになることで、組織全体のリーダーシップ力が底上げされ、持続的な変革を進められる状態が整います。

部下にとっても、コーチングを通じて自主性・判断力が培われ、人事評価の向上につながるケースが多く見られます。結果として、企業全体では主体的に動ける人材が増え、生産性や競争力の向上に寄与するというメリットがあります。

また、コーチングは組織文化の形成にも影響します。コーチングを継続的に推進することで、意見を共有しやすく、学習を重ねることを前提とした文化が育まれ、個人やチームが持続的に成長できる土壌が整います。

こうした背景から、管理職に対しコーチング資格の取得を勧める企業が増えてきています。

コーチングを身に着ける方法

コーチングを身に着ける主な方法は「本で学ぶ」「研修を受ける」「スクールに通う」の3つです。まず、書籍での学習は自分のペースで基礎を理解できる点が大きなメリットです。コーチングの認定資格を持つ専門家が提供する動画コンテンツを併用する人もいます。ただし、書籍や動画で得られる知識はあくまで一般的なものであり、実務の状況すべてに当てはまるとは限りません。そのため、独学だけでは自己流に偏ってしまうリスクがあります。

短期間の研修を選ぶ人もいます。研修の多くは資格試験対策に重点が置かれ、心理学的な要素を含む座学中心の構成になっているケースが一般的です。知識の整理には役立ちますが、実際のセッション形式やデモンストレーションの機会は限定的であることが多いため、実践力の習得には注意が必要です。

より実践的に学びたい場合は、コーチングスクールに通う方法があります。スクールでは、数か月から1年ほどの綿密なカリキュラムが用意されており、ロールプレイを通じて基本から応用まで段階的に学習できます。受講者が部下役を実際に体験することで、コーチングの効果や課題が具体的に理解できる点も大きな利点です。また、スクールでは一般的な認定資格に加え、上級資格の取得を目指せるケースもあります。

コーチングの成功事例

ある企業では、若手社員を中心にプロジェクトチームを発足しました。メンバーはいずれも経験が浅く、当初はプロジェクトリーダーの指示を順番にこなしていくトップダウン型の進め方を採用していました。しかし、このやり方では工数ばかり増え、成果指標である売上は伸び悩むという状況が続いていました。

そこで、チームは指導スタイルをコーチングへ切り替えます。リーダーはメンバー一人ひとりに、工数を削減しつつ成果を高めるための具体的なアイデアを問いかけ、その内容を各自が試行・改善できるようサポートしました。指示を待つのではなく、自分の提案を自分の判断で進めるプロセスが定着し、メンバー間でも情報共有と工夫が自然に生まれるようになりました。

その結果、業務フローは大幅に効率化され、売上も当初の予測を大きく上回る成果につながりました。コーチングが、単なる業務指示では得られない自発的な改善サイクルを生み出したケースと言えるでしょう。

効果的なコーチングを実現するためのマネジメント研修

コーチングの成否には、コーチ役となる上司のマネジメント能力が大きく影響します。場当たり的に進めてしまうと、コーチングが単なる対話の場に留まり、期待した成果にはつながりにくくなります。どれくらいの頻度でコーチングを行うか、また、部下との関係性を強化するためにコーチング以外の場面でどのように関わるかといった点を踏まえ、日常のマネジメント全体の中で意図的に設計する必要があります。

こうした背景から、近年では人事職をはじめとする管理職向けに、マネジメント研修が広く提供されています。経験豊富でコーチングに精通した講師から基礎を体系的に学び、ロールプレイによる実践的なフィードバックを受けることで、コーチングの進め方をより深く理解できます。このように、座学だけでなく実技を通じて学ぶことで、現場で再現できるスキルとして身に付けることが可能になります。

【まとめ】効果的なコーチングを実践し、チームを強化する

コーチングは、人材育成において有効性の高いアプローチです。日常業務に取り入れることで、部下の主体性が引き出され、仕事への向き合い方にも良い影響を与えます。継続的な対話を通じてマネジメントの基盤が強化され、上司と部下の関係性が安定しやすくなる点も特徴です。

近年では、人事部門が担うマネジメント教育の中にもコーチングを組み込む企業が増えてきました。コーチングを受けた部下は、自ら課題を捉え、改善に向けて動く姿勢が強まり、組織のプロジェクトを力強く前に進める存在へと成長していきます。こうした積み重ねが、チーム全体のパフォーマンスを底上げし、組織としての持続的な成長にもつながっていくでしょう。

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