2024.03.27 (更新日:2024.04.15)

デジタルマーケティング

バリュープロポジションとは?定義や作り方の事例、フレームワークを徹底解説!

安定的な成長とシェア拡大を達成するうえで、効果的なマーケティング戦略は欠かすことができません。消費者にとって本当に価値ある製品・サービスを生み出すカギとして、近年多くのマーケティング担当者から注目されているのが「バリュープロポジション」です。

バリュープロポジション(Value Proposition)の定義

バリュープロポジションとは「Value(価値)」と「Proposition(案、提案)」を組み合わせたマーケティング用語の1つで、「顧客が特定の製品・サービスを手にすることで得られるメリットもしくは価値」と定義されています。簡潔に言えば、「その製品・サービスが顧客から選ばれた理由」です。

1つのプロダクトに関してバリュープロポジションを有すると認められるためには、「自社で提供可能であること」「競合他社にはないユニークな特徴を持っていること」および「顧客のニーズを満たすこと」の3つの条件を満たしていなければなりません。

多くの企業が、競合他社とのシェア争いを制するため、自社が提供する製品・サービスの差別化を図っています。確かに、ユニークな特徴を持つことは1つの強みであり、話題や関心を引きやすくなりますが、それが顧客のニーズと合致していなければ、どれほど優れた性能や特徴を持っていたとしても、消費者にとって価値あるものとはなりにくいため、訴求効果は低いでしょう。ですので、「ユニークな特徴を持っていること」「顧客のニーズを満たすこと」の両方を満たした「バリュープロポジションを明確に提示することができれば、消費者の購買意欲は大いに高まり、それが企業の業績アップへと繋がるわけです。ですから、事業内容に関わりなく、企業がバリュープロポジションを意識する重要性はかつてないほど大きくなっています。

バリュープロポジションが必要とされている背景

バリュープロポジションが必要とされている大きな理由として「市場のグローバル化」が挙げられます。インターネットの普及と国際的な流通網が整備されてきたことに伴い、消費者は国内だけでなく海外の企業が販売する製品・サービスも気軽に購入できるようになりました。結果として、消費者は1つの商品を購入する際、以前のようにメーカーやブランド名だけで決めるのではなく、より自分のニーズに合った価値あるものを選ぶというスタイルへと変化しました。販売する企業の観点からすると、膨大な選択肢の中から自社のプロダクトを選んでもらうため、自社のオリジナリティを維持しつつ、消費者の細かいニーズに応える製品・サービスを提供しなければなりません。こうしたマーケティング環境の変化により、バリュープロポジションの必要性が高まっているのです。

バリュープロポジションの作り方

自社のバリュープロポジションを確立する第一歩は「顧客のニーズを分析すること」です。企業ではなく顧客の視点に立ち、行動の背後にある動機を分析することで、本当にニーズを満たす価値ある製品・サービスとは何かを見極めやすくなるでしょう。以下にそのための具体的なステップを解説していきます。

1. 仮説を立てる

ファーストステップは、ターゲティングの対象である人々の行動を分析して、アクションの背後にある動機に関して仮説を立てることです。例えば、ファミリーレストランを訪れる人々の動機は「仕事の打ち合わせ場所が欲しかった」「家族をどこかへ連れていきたかった」などが挙げられるでしょう。「レストランに来たかった」というのは、特定の動機に促された結果として生まれた考えなので、仮説には該当しません。

仮説を立てる際に大切なのは、顧客データに基づいたエビデンスが存在することです。企業の希望や推測が含まれる主観的な視点ではなく、あくまでも客観的な視点から顧客の動機に関して仮説を立てるようにしましょう。

2. 3C分析

顧客の動機を把握することができたなら、続いて3C分析を行います。3Cとは「顧客(Customer)」「競合他社(Competitor)」「自社(Company)」の頭文字から取られた表現です。この分析方法を通して3つの異なるクラスが持つ特徴を明らかにすることにより、マーケットにおける優位性や弱点を理解することが可能となります。

顧客を分析する際には、仮説で考慮した動機やニーズに加えて、マーケットの動向なども考えます。また、政治や経済、技術革新など、顧客のニーズに影響を及ぼす可能性がある他の要素も検討します。これにより、ユーザー視点での価値ある商品とは何かが浮き彫りになるので、自社の強みを生かす方法が見つけやすくなるのです。

競合他社の分析には、「結果」と「原因」という2つの視点が必要となります。結果に含まれるのは、業績やマーケットのシェア、株価や顧客の数などです。一方、原因には製品・サービスのクオリティー、社員の数や販売エリア、営業スタイルやカスタマーサポートの内容などが挙げられます。この分析を通して競合他社の強みを把握することで、自社の持つメリットが把握しやすくなるはずです。

自社の分析では、保有するリソースや収益性、資本力や販売するプロダクトなどの強みを確認していきます。このデータを顧客および競合他社のデータと比較することで、ストロングポイントとウィークポイントが明白になります。結果として、業績アップが見込める分野を見極め、リソースをふさわしく配分するということが容易になるでしょう。また、現時点で顧客にとって価値のある製品・サービスを提供できているのかという点も見えてくるはずです。

3. STP分析

3C分析だけではバリュープロポジションの見極めが難しいという時には、異なる視点に基づいたフレームワークであるSTP分析を行いましょう。STPとは「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字から取られた表現です。

セグメンテーションでは、顧客となる層を複数の基準で細分化する作業を行います。性別や年齢、居住地域や収入なども細分化のファクターとして利用可能です。また、性格や行動パターンなど、顧客のパーソナリティを細分化の基準として採用することも少なくありません。こうして細かく顧客のクラス分けをすることがSTP分析のカギとなります。

ターゲティングは、細分化で分けたクラスの中から、よりアプローチしやすい層を見極めるプロセスのことです。企業によっては、最もアプローチしやすい層だけを対象としてマーケティング戦略を組み立てることでしょう。これを「集中型マーケティング」と呼びます。一方、売上が見込める複数の層にそれぞれ異なる戦略でアプローチをするという判断を下すケースもあります。これは「差別型マーケティング」と呼ばれ、リソースにある程度余裕がある企業が採用しやすい手法です。

ポジショニングでは、市場データに基づいて、自社と競合他社との比較を行い、自社の立ち位置を把握します。価格や品質、販売網の広さや顧客満足度などを基準にすると良いでしょう。この方法により、自社の優位性を確保できる分野が可視化できますから、「マーケットにおいて自社だけが生み出している価値とは何か」を見極めやすくなるはずです。

BtoBマーケティングに関して詳しく解説した記事はこちらを参照ください↓

BtoBマーケティング

バリュープロポジションの失敗例

バリュープロポジションを意識して綿密なマーケティング調査を行い、ユニークな特徴を持つ商品を開発したものの、いざ蓋を開けてみたら思うように業績が伸びないというケースは少なくありません。そうした失敗を招く原因としては多くの場合「顧客の視点に立った分析が欠けている」という点が挙げられます。

価値が顧客へ伝わらない

バリュープロポジションを構成する3要素の中で「ユニークな特徴を持つ」という点が不足すると、予想したほど顧客へ訴求しないということが起こります。特に、プロモーションで「これまでの自社商品よりも良い」「他社の商品よりも良い」といった表現を使用すると、価値が伝わらないことが多いのです。

バリュープロポジションで大切なのは、これまでにない特徴、言い換えれば「新しい価値」を強調することです。そのため、「既存の価値」をさらに高めるというのはバリュープロポジションの方向性と合致しません。結果として、多くのリソースを投入したにも関わらず、企業が期待していたほど消費者の購買意欲が高まらないということが起こりえるわけです。

顧客が感じる価値を見いだせない

「顧客のニーズを満たす」という要素が欠けている場合もマーケティングは失敗しやすくなります。これは往々にして「良い商品を作れば消費者は必ずその価値をわかってくれるはず」という視点を持っている企業で起こり得ることです。確かに、開発者の視点から見れば、画期的なアイデアに基づくクオリティーの高い価値ある商品となっていることでしょう。とはいえ、実際に顧客が手に取った時、あるいは体験したときに価値を見出す、つまり「こういう製品・サービスが欲しかった」と感じなければ、購買意欲を刺激することはできません。そうなると、どれほどプロモーションをして知名度を高めたとしても、売上そのものには反映されず、実質的には失敗ということになってしまうのです。

バリュープロポジション7つの成功事例

バリュープロポジションを把握してマーケティング戦略に適用することで大きな成功を収めている企業は国内外に数多くあります。実際の成功事例を見ると、事業内容や規模に関わりなく、バリュープロポジションの効果が発揮されるということに気付くでしょう。

1. Uber

Uberがタクシー業界を席巻するカギとなったバリュープロポジションは「スマートフォン1台で迎車から降車まで完結する」という点です。これまでタクシーの利用者はタクシー会社へ電話するか、もしくは待機しているタクシーを探し、乗車時間や走行距離に応じて料金を支払うというのが一般的な利用方法でした。Uberならスマートフォンの専用アプリでこれらすべての手続きが完了します。料金はルートに応じて配車前に提示されるので、「精算時にお金が足りるだろうか」と心配する必要はありません。また、支払いもアプリを通じて行うので、現金やクレジットカードが手元にないときでも利用することが可能です。

アプリを介してドライバーの評価がチェックできるというのもUberの特徴です。ですから、「態度の悪いドライバーが運転するタクシーに乗ってしまい不快な思いをさせられた」というトラブルが起こるリスクも非常に低いのです。こうしたUberのユニークなメリットは消費者に高く評価されており、今やそのサービスは世界各国へ広がっています。

2. Apple iPhone

Apple社がiPhoneを通して提示したバリュープロポジションは「画面をタッチするだけで操作ができる」という点です。iPhoneが登場するまではキーボードと小型の液晶画面がセットになったペンタイプもしくは折り畳み式の携帯電話が主流でした。これらの端末はキーボードの小さなボタンを操作する必要があり、使いづらいと感じる人も少なくありませんでした。一方、iPhoneは液晶画面に大きく表示されるアイコンをタッチするだけで簡単に操作できるという圧倒的な価値を消費者に提示しました。複雑なコマンドを覚える必要はなく、直感的に操作が可能ということから、携帯電話を敬遠する傾向にあった高齢者からも高い支持を獲得します。

iPhoneのマーケティング戦略による効果は凄まじく、日本国内ではスマートフォン市場で圧倒的な販売シェアを誇ります。あらゆる世代から「使いやすいスマートフォンと言えばiPhone」と認知されているこの現状は、バリュープロポジションの持つ高い影響力を示すものと言えるでしょう。

3. Slack

Slackが提供したバリュープロポジションは「1つのアプリでビジネスシーンの多様な業務が完結する」という点です。Slack以前に広く使用されていた各種チャットアプリはチャット機能が充実していた一方で、スケジュールやタスクの管理、リマインドやファイルの共有機能などは搭載されていませんでした。そのため、ユーザーはそれぞれの機能を持つアプリを個別に起動する必要がありました。一方、Slackはこれらビジネスパーソン向けの機能を複数搭載しているので、このアプリを立ち上げるだけで複数の作業を実行・完結できるというユニークな特徴があるのです。

Slackではスレッドやチャンネルの管理と切り替えが容易で、複数のタブを開く必要はありません。加えて、他のアプリと同期させてデータを簡単に移行できるようになっているので、別のチャットツールからSlackへの切り替える作業も簡単です。こうした理由から、個人ではなく企業としてSlackを導入するケースが増えています。

4.ダイソン

家電メーカーであるダイソンが顧客へ向けて打ち出したバリュープロポジションは「吸引力が変わらない」という点です。これまでは、掃除機と言えば「紙パックの中にゴミが溜まると吸引力が低下する」というのが常識であり、消費者にとってストレスを感じさせる原因ともなっていました。ダイソンはこのストレスを取り除くユニークな特徴を持った商品「サイクロン掃除機」を発売することで、一気に消費者の心を掴むことに成功したのです。

ダイソンがCMを始めとしたプロモーションの中で「ただ1つの」という表現を繰り返し用いたことも注目に値します。この巧みなブランディングにより、掃除機の買い替えを検討している消費者は「本当に便利な掃除機のメーカーと言えばダイソン」というイメージを周知させることに成功しました。

5. Airbnb

Airbnbが持っているバリュープロポジションは「アプリ1つで賃貸・宿泊ができる」という点でしょう。賃貸物件のオーナーにとって、年間契約をする借主がいないと収入がないというのは常に悩みの種でした。一方、旅行をする人はホテルや旅館を予約し、割高なルームサービスや外食を利用するというのが当たり前でした。Airbnbはこれらの不満を同時に解消することに成功します。物件のオーナーは空き部屋の有効活用ができ、旅行者は綺麗な戸建てやマンションにお得な料金で宿泊することが可能です。不動産会社や旅行サイトなどを介する必要がなく、予約やメールのやり取り、決済はすべてAirbnbのアプリで完結するという便利さも消費者のニーズに合致しています。

6. zoom

リモートワークが急速な広がりを見せる中で、オンライン会議用アプリとして世界中でシェアを拡大したのがzoomです。このアプリが持つバリュープロポジションは「使いやすさ」でしょう。これまでの会議用アプリは参加者1人1人がアカウントを持つ必要があり、会議を開催するユーザーも基本的にはアドレス帳に登録されているアカウントしか招待できませんでした。一方、zoomではアプリがPCやスマートフォンにインストールされていれば、個人情報が紐づいたアカウントを持っていなくても会議に参加することが可能です。

zoomには1つの画面上で作業が完結することや、マイクのON・OFF、カメラのON・OFFを1クリックで簡単に切り替えることができるといった特徴もあります。そのため、あまり電子機器に慣れていない人でも悩むことなく直感的に使うことができるわけです。

7. 無印良品

無印良品が提供するバリュープロポジションは「シンプルさを追求したアイテム」です。多くのメーカーでは、消費者の様々なニーズに応えるため、多機能で幅広い用途に対応した製品・サービスを消費者へ提供します。一方、無印良品は「使い勝手が良くシンプルなものが欲しい」という顧客をターゲットとしました。機能からデザイン、梱包に至るまで、徹底的に「簡潔であること」を意識して開発およびブランディングを進めた結果、幅広い世代から価値を認められるようになったのです。

販売網の大きさも無印良品の強みです。通常の店舗に加えて、駅構内やLAWSONなどでも販売を行っているため、「必要な時いつでも買える無印良品」というユニークなイメージが定着しつつあります。

バリュープロポジションキャンパスとは

バリュープロポジションキャンパスとはビジネスシーンで使用されるフレームワークの1つです。日本では2015年に発表され、それ以来マーケティング戦略を分析するツールとして広く活用されています。バリュープロポジションキャンパスを通して企業と顧客に関するデータを可視化することで、企業が提供する製品・サービスの価値と消費者のニーズがどれほど合致しているか、俯瞰的な視点からチェックすることが可能です。

バリュープロポジションキャンパスの作り方

バリュープロポジションキャンパスでは、図1のように右側に円形の顧客エリア、左側に正方形の企業エリアを図示します。顧客エリアは「顧客がしたいこと」「顧客が喜ぶこと」「顧客が避けたいこと」の3クラスに分割します。一方、企業エリアは「提供する製品・サービス」「製品・サービスが生み出すメリット」「製品・サービスにより避けられるリスク」の3クラスに区分けしましょう。これでバリュープロポジションキャンパスによる分析のベースが完成します。

キャンパス内に書き込む1つ目の要素は「ターゲットとなる顧客と提供する製品・サービス」です。顧客情報は、性別や年齢などを簡潔かつ具体的に記載しましょう。続いて、顧客エリアにある3要素をすべて埋めていきます。最後に、企業エリアの3要素を書き込みます。すべて記入が終わったなら、左右に記載されているデータをクラスごとに比較して、どれほどの相違があるのか分析しましょう。これにより、自社の提供する製品・サービスが本当に顧客のニーズを満たす価値あるものとなっているかが分かるはずです。

【図1】バリュープロポジション

【まとめ】顧客中心のイノベーションで本当の価値を見出す

毎年、革新的な技術や斬新なデザインの製品・サービスが数多く生み出されています。とはいえ、高い訴求効果を持つ人気商品となるのはほんの一握りに過ぎません。そこへ至る条件とは、バリュープロポジションに基づいて顧客のニーズを理解し、顧客中心のイノベーションを起こすことなのです。

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