2024.03.07 (更新日:2024.03.25)

育成体系

カークパトリックモデルとは?4段階評価方法の具体的な内容や目的、メリットを詳しく解説!

新入社員研修やリーダー研修、そして管理職研修など、企業人事には様々な研修制度があります。しかし、それらの社員研修がどれだけも効果をもたらしているかを客観的に考察したり、数値化したりすることは非常に難しいのが現実です。

ここでは、人材育成の評価方法である「カークパトリックモデル」の基本的な考え方について事例を交えながら詳しくご紹介します。カークパトリックモデルを導入する目的をはじめ、メリットや課題点などについても解説しますので、研修の効果測定や社員の評価についてお悩みの研修担当者の方はぜひ参考にしてください。

カークパトリックモデルとは

カークパトリックモデルとは、1975年に米国の経済学者であるカーク・パトリック氏が提唱した評価や測定方法をまとめたモデルのことです。

カークパトリックモデルでは、人材教育の効果を「反応」、「学習」、「行動」、「結果」の4段階で表すことによって、教育や研修の対象者の満足度や理解度はもちろん、研修後の行動の変化や業績の向上度合いまで、総合的に評価できます。

カークパトリックモデルが注目されている理由

カークパトリックモデルは、研修や教育プログラムの効果を評価するためのフレームワークとして広く認知されています。このモデルが注目される理由は、その包括性と実用性にあります。4段階の評価法は、単に研修の満足度を測るだけでなく、学習の成果、行動の変化、組織への影響といった多面的な視点から研修の効果を評価することを可能にします。また、このモデルは柔軟性があり、様々な研修や教育プログラムに適用することができます。これらの理由から、カークパトリックモデルは研修効果の評価ツールとして注目されています。

カークパトリックモデルの目的

カークパトリックモデルを導入する最大の目的は、教育対象者が研修を受けたことに対して満足しているか、実際に研修を受けることによって知識やスキルをどの程度習得できたか、さらには学んだ内容を業務に実践的に活かせているかなどの研修結果を数値化して測定することにあります。

さらに、カークパトリックモデルを用いることで、人材教育の費用対効果を検証・確認できることも大きなポイントです。企業にとって、研修内容を検証、改訂するために非常に有効的な評価法と言えます。

カークパトリックモデルの活用シーン

カークパトリックモデルは、様々な研修や教育プログラムの効果評価に活用されています。新入社員研修やリーダーシップ研修、スキルアップ研修など、目的や内容が異なる研修でも、このモデルを用いることで効果を評価することができます。また、組織の人事戦略や教育戦略の策定にも活用されています。研修の効果を評価し、その結果を基に研修内容の改善や人材開発の方向性を決定することが可能です。

カークパトリックモデルのメリット

研修などの人材教育の内容を数値化して評価できるカークパトリックモデルですが、導入することによって次の3つのメリットがもたらされます。

研修の効果を正確に測定できる

カークパトリックモデルを用いることによって、『今まで効果があるはず』と考えて実施してきた研修や教育に対する効果測定を正確に数値化できることです。これまで漠然と行っていた慣習的な研修や教育の内容に対して評価することで、課題や問題点など改善すべき点をしっかりと把握できます。

研修内容のブラッシュアップを図れる

研修の効果を正確に測定することによって、研修内容のブラッシュアップを図れます。評価を上げるためには、どのような内容を盛り込めばいいか、そしてより効果的に伝えるためにはどのようなアプローチ方法で研修を進めるべきかが明確になるはずです。

研修や教育の受講者たちにアンケートやヒアリングを実施することで、本当に効果のある内容であったかをより具体的に確認できます。アンケート結果を参考にしながら内容の修正や改善を行えるため、より効果的で実りある研修に近づけることが可能です。

投資効果を確認できる

近年、世界的に注目されている「SDGs」や「EGS投資」の影響もあり、企業の人材育成に関してもステークホルダーに対して公表する必要性が高まっています。そこで求められているのが「人材研修の投資対効果(ROI)の測定」です。

人材育成には、莫大なコストがかかるため、その費用に見合った成果や効果が得られているかを数値化して確認することが求められます。カークパトリックモデルでは研修の満足度や達成度を数値化できることから、投資対効果の確認にも非常に役立つ手法と言えます。

カークパトリックモデルにおける4段階評価法について

カークパトリックモデルを用いて研修内容を評価する際は、定められた4つの評価基準を元に行っていきます。研修内容の効果をそれぞれの基準に当てはめながら評価を実施していくことで、研修コースとしてのパフォーマンスがどのように作用しているかを確認できるのです。

ここからは、カークパトリックモデルの4段階評価法について詳しくご紹介します。

レベル1 Reactions(反応)

レベル1の「Reactions(反応)」では、受講者の反応、すなわち研修に対する「満足度」が評価指標となります。例えば、研修の終了時に受講者アンケートを実施するなど、リアルな声をヒアリングし、研修内容を評価していくことは、すでに多くの企業で取り入れられている評価方法の一つです。

レベル2 Learning(学習)

レベル2の「Learning(学習)」では、教育対象者の知識やスキルに対する理解度が評価指標となります。研修終了後の確認テストやレポート作成、そしてシミュレーションを実施して、研修や教育に対する習得度や理解度、どのようなことが得られたかを確認します。

近年では、ラーニングマネジメントシステムや誰でも簡単に問題を作成できるアンケートシステムが数多くリリースされているため、どの企業も比較的取り入れやすい評価基準です。

レベル3 Behavior(行動)

レベル3の「Behavior(行動)」の行動指標は、教育対象者の知識やスキルの実践度合いや現場での行動変化・変容です。

具体的には、研修終了後に1ヶ月から1年程度の実践期間を設けた後に、教育対象者本人への直接ヒアリングの実施をはじめ、上司や部下からのヒアリングやアンケートを通した他者評価による行動変容をチェックします。

そのほかにも、研修から数ヶ月後にフォローアップ研修を実施し、前回の研修からどのような変化があったかを発表してもらうという方法もおすすめです。レベル1や2と比べると、手間やコスト、時間がかかる高度な測定方法と言えるでしょう。

レベル4  Result(業績)

レベル4の「Result(業績)」は、業績の向上を測定基準とする最も高度な評価方法です。人材育成をした結果、企業業績にどのような影響を及ぼし、どのような結果につながったかを数値化します。一定の期間が経過した後に業績に対する評価(業績指標の追跡)を実施します。

例えば、研修前後の「売上」や「顧客満足度」、「生産性」などの変化を確認して、教育に対する投資対効果を確認していきます。比較的簡単に取り入れられる方法が「投資対効果(ROI)の測定」です。より短い時間と低コストで大きな学習効果が得られている場合は、ROIの数値が高いことを意味します。

ある程度小規模の店舗や営業部門であれば、教育やトレーニングの効果を比較的短期間で売上に反映することが可能です。

レベル4の「Result(業績)」で高い評価を得るためには、教育や研修を通してどのような結果を求めるかを明確にすることはもちろん、社員一人ひとりにどのような行動変容が求められて、どのような知識やスキルを身につけるべきかをしっかりと逆算して教育プログラムを作ることが重要になります。


研修における評価測定方法

カークパトリックモデルの4段階評価について理解できたところで、ここからは研修における具体的な評価測定方法についてご紹介します。どの企業でもすぐに導入できる方法ですので、ぜひ参考にしてください。

受講者アンケートの実施

最も手軽に導入できる評価測定方法が「受講者アンケートの実施」です。学校などの教育現場はもちろん、大手企業でも取り入れられているスタンダードな評価測定方法として頻繁に実施されています。

研修内容が面白かったか、内容は理解しやすいものだったか、どのような内容が印象的だったか、さらには業務に実際に活かせそうな内容があったかなど、社員がどのように感じているかを具体的に知ることができるのが最大のメリットです。

研修や教育の直後にアンケートを実施することで、研修に対するフィードバックをその場でもらえるため、研修の改善点や問題点があった場合もすぐに改訂できます。研修終了後しばらくしてから、筆記テストなどを実施することで、研修内容の定着度をチェックすることも可能です。

受講者アンケートは、あくまでも研修や教育の内容のわかりやすさや教育者に対するフィードバックが得られるものとして捉え、より良い研修内容にするために活用してください。

上司や同僚、部下から評価をもらう

2つ目の評価方法としておすすめなのが「回顧調査」です。回顧調査とは、実際の行動変容を確認するために用いられる評価測定方法を指します。

研修から一定期間が過ぎた頃に、上司や同僚、部下などからヒアリングを実施し、教育対象者が研修内容を現場でどの程度実践しているかをチェックするものとして考えてください。

研修前と研修後に回顧調査を実施することで、教育対象者がどのように成長したかという研修の効果を正確に測定できます。上司など複数の人物にヒアリングをすることで、時間も手間もかかる測定方法ではありますが、大手企業でもよく採用されているメジャーな方法です。

カークパトリックモデルの問題点

カークパトリックモデルの評価レベルが高ければ高いほど、研修などの人材育成がより効果的に実践できているという証になりますが、その分実践の難易度も高まってしまうというデメリットがあるので注意が必要です。

ここからは、カークパトリックモデルを活用する際に注意すべき問題点や課題点について詳しくご紹介します。

3段階4段階の評価を行うのが難しい

カークパトリックモデルには4つのレベルが存在しますが、レベルが上がれば上がるほど実践するハードルも高くなりがちです。より高い評価を得るためにも、レベル3の「Behavior(行動)」とレベル4の「Result(業績)」の評価を実践することが求められますが、これら2つのレベルの測定は非常に困難を極めます。

これらのハイレベルな評価を実施するためには、評価指標をしっかりと設定しなければなりませんし、外部環境など様々な要因が複雑に絡み合うことで評価しづらいというデメリットが生じてしまいかねません。

そのため、これらのハイレベルな評価は、経年比較や相対比較などをしながら、長期間取り組むことが求められます。

企業の業績につながらないこともある

どんなに内容の濃い研修や社員の満足度の高い研修であったとしても、企業の業績に直結しないケースもあることを理解しておきましょう。たとえ、研修に対する満足度が高かったり、受講者の知識やスキルが向上したりしても、職場での実践に繋がらないこともあるのです。

研修担当者の多くが抱えるジレンマでもあり、結果が得られないと判断された研修が廃止されることもあります。研修終了後に受講アンケートを実施するだけで終わりにするのではなく、レベル3や4の高度な評価を実施して、自己満足な研修とならないよう注意してください。

研修への満足のみで行動が伴わないこともある

人材教育が目指すべきポイントは、社員一人ひとりの行動変容です。そのため、研修受講者が満足した研修内容であったとしても、行動変容が確認されなければ費用対効果の少ない研修として判断されてしまいます。

研修を実施するからには、研修を通して何かしらの学びや気づきを得て、個人が自発的に業務にあたるという行動変容が認められることが理想的です。

そのため、「勉強になった」や「学びが多かった」という受講者の声を鵜呑みにするのではなく、研修後の社員の様子をよく観察し、どのような変化がもたらされたかを確認することが重要です。

関連記事:トレーニング定着フォローについて関心ある人材育成担当者の方はこちらを参照ください

カークパトリックモデルを活用するためのポイント

カークパトリックモデルを活用するためには次の3つのポイントを押さえる必要があります。

「レベル3 Behavior(行動)」の内容を具体的に決めておく

先述した通り、レベル3の「Behavior(行動)」とレベル4の「Result(業績)」は測定方法が非常に難しいため、多くの企業で実施されていないのが現状です。しかし、レベル3の行動案を具体的に決めておくことで、どの企業でもある程度の測定が可能となります。

研修ごとに、社員一人ひとりに求める行動変容を明確に決めておくことで、社員の達成度合いを確認することが可能です。

逆から順番に考えていく

レベル3の行動案を考えるためにも、レベル4の「業績」についての目標を明確にすることが必要不可欠です。このように、カークパトリックモデルを導入する際は、必ずレベル4の目標から考えてください。ハイレベルからローレベルに向かって目標を設定することで、より実りのある研修内容となるでしょう。

フォローアップセミナーを実施する

研修会や勉強会で得た知識やスキルをただ「知っている状態」にすることは比較的容易ですが、それを現場の業務に落とし込んで「できる状態」にすることは非常に難しいことです。

そこで、研修が終了してから一定期間経過した際に、フォローアップセミナーの実施をおすすめします。参加した社員の経過観察はもちろん、フォローすることもできるため、社員を即戦力として育てるためにも有効的な手段です。

これからの研修効果測定

DX(デジタルトランスフォーメーション)や、先行きを予測できないVUCA時代に備えるESG(環境・社会・ガバナンス)の視点が重要視される現代において、研修の効果測定もこれらの視点を取り入れる必要があります。DXに対応した研修では、デジタルスキルの習得やデジタルツールの活用能力の向上を測定することが求められます。また、ESGに対応した研修では、環境や社会への配慮、適切なガバナンスの理解といった視点から効果を測定することが求められます。これらの視点を取り入れた効果測定は、組織の持続可能性と成長に寄与します。

まとめ】自社の研修の効果を高め、さらなる発展につなげましょう

今回は、カークパトリックモデルの基本的な考え方について詳しくご紹介しました。カークパトリックモデルは、アメリカの70%の企業が採用している評価モデルであり、日本でも大企業を中心に浸透しています。

カークパトリックモデルを人材研修に活用することで、研修の効果を正確に測定できたり、研修内容のブラッシュアップを図れたり、さらには投資効果を確認できたりするなど、企業にとっても社員にとっても様々なメリットが得られます。

カークパトリックモデルの評価方法を理解し活用することで、自社の研修の効果を高め、さらなる発展につなげてみてはいかがでしょうか。

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