2022.07.01 (更新日:2024.03.25)
未来の営業スタイルとは?今後の変化や10年後の営業スタイルを考える6つのポイント
これからの営業スタイルとは何でしょうか?近年、商取引の現場に営業担当の介在するシーンが少なくなってきています。その背景として、インターネットとテクノロジーの利用が進み、買い手が商品・サービス検討に必要な情報を自由に得られるようになったこと。デジタル購買などの処理や決済が、人手を介さずに済むようになったこと。顧客の嗜好や購買行動が分析によって予測できるようになったことなどが挙げられます。
営業はこのまま時代遅れの職種になるのでしょうか?
1. 営業を巡る変化
2. 営業の果たすべき役割
3. 営業の未来に必要なこと
を通じて、これからの営業を考えていきます。
目次
1. 営業を巡る変化
販売従事者が減少する
国勢調査の産業別、職業別の就業者数を調べた詳細なデータを見てみると、2015年とその前の2010年の就業者数の増減がわかります。中分類の全57職業で営業はどのように変化しているのか、5年間の増加数から順に見てみましょう。
1位は一般事務従事者で、39.0万人増加しています。一般的なオフィスワーカーが該当しますが、就業者数も805万人と、この中分類の中では最多となっています。
2位は介護サービス職業従事者で、29.0万人増加しており、5年間で23%増加しています。高齢化社会が進む中、介護人材の需要はさらに高まると予想されます。
3位は技術者で、22.5万人増加しています。就業者数は237万人で、職業の幅は広いですが、システムコンサルタント・設計者、その他の情報処理・通信技術者、機械技術者、輸送用機器技術者などが増加しています。
4位は保健医療従事者で、22.4万人増加しています。
5位は社会福祉専門職業従事者で、20.8万人増加しています。増加率は25.8%で、全職業中で1位となっています。
6位はその他の運搬・清掃・包装等従事者で14.8万人増増加しています。
7位は営業・販売事務従事者で13.2万人増加しています。増、以下、8位清掃従事者(9.0万人増)、9位その他のサービス職業従事者(6.8万人増)、10位法人・団体役員(4.0万人)と続く。
一方で、営業職を見ると、全57職業中54位で営業職業従事者(27.0万人減少)、55位で商品販売従事者(28.9万人減少)となっており、残念ながら販売と営業の2つの職業が増加率でほぼ最下位に近い大きく減ってきていることが見えてきました。
コンピューターにより自動化される
コンピューターによる自動化が進むことにより、20年後の将来には47%の仕事がなくなるという結論が導き出されています。電話販売員や訪問販売員が淘汰される一方で、営業職と技術職の両方をこなすセールスエンジニアが20年後に残る理由について、私たちは考察を深める必要があります。
予測1:2018年までに法人ビジネスの営業チームの2割が「バーチャル」となり、営業パイプラインのコンバージョン率が向上する (IDC)
法人営業は、一般消費者を対象としたビジネスに比べ、商材や意思決定プロセスが複雑である傾向が強いため、対面でのコミュニケーションが大切とされています。しかし、法人ビジネスにおいても、顧客側が事前にオンラインを中心に情報収集をする傾向が強まっているため、従来の方法では対応ができなくなってきています。
予測2:2025年までに営業担当の仕事はAI(人工知能)にとってかわられる(リードジニアス社)
営業担当の仕事がなくなるというわけではなく、営業担当はより戦略的で高度な業務を行うようになると予測されています。見込み客を探し出す、購入行動の理解、見込み客とのメールコミュニケーションにAIが使われるようになると予測しています。
セールステックが進化する
セールステックとは、ITを活用して営業活動の生産性を高め効率化を図る手法及びツールのことを指します。Sales(営業)とTechnology(技術)をかけあわせた造語であり、営業領域のイノベーションを生み出す概念です。代表的なものが営業活動の見える化及び生産性向上を行うために利用されるSFA(Sales Force Automation:営業支援ツール)や、顧客との良好な関係構築を築くために用いられるCRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)です。
株式会社矢野経済研究所が2018年に日本国内の528社を対象として行ったアンケート調査によると、2012年には22.5%であったCRM・SFA導入率ですが、2014年には29.0%、2016年には29.8%と増加、2018年には33.8%と、約3社に1社の割合でCRM・SFAを利用しています。
CRMやSFAはセールステックを実現するための代表的ツールですが、営業領域のDXには大きく分けて7つのカテゴリーがあり、欧米を中心に多くの企業がこの分野に参入しています。
1.営業促進・加速(Sales Enablement &Acceleration)
営業活動を効率化し生産性を上げるためのツールです。SFAはこのカテゴリーに属します。この分野のツールは対応範囲が広く、営業活動の記録や日報のストック、商談進捗状況の把握、営業数字の予測、案件管理、クレーム管理、およびこれらの情報の部門間共有など様々な機能が付加されているのが特徴です。
2.カスタマーサポート(Customer Support)
インバウンドセールスの効率化を図るためのインサイドセールスシステムなどが含まれます。顧客とのやり取りを音声だけでなくテキスト化して保存する機能や、最適なタイミングで顧客にメルマガを送付する機能など多彩な営業活動を自動で行うことができます。
3.インテリジェンス・解析(Intelligence & Analytics)
営業活動によって得られたデータを最大限に活用するためのツールです。高度なデータマイニングによりネクストアクションを支援したり、ビッグデータと結び付けて顧客の課題を抽出したりという高度な戦略性を持たせたツールが多く存在します。AIを搭載し専門知識がなくとも比較的簡単にデータ分析を行うことがITの活用により実現するというのが大きな利点です。
4.顧客関係管理(General CRM)
顧客データベースの構築と管理、プロモーション履歴の蓄積など企業と顧客との関係性を見える化するツールです。CRMがこのカテゴリーの代表です。カスタマーセンターやプロモーション部門などとデータを共有し、ネット通販と連携させるなどさまざまな場面で活用可能です。クラウドとの親和性も高く、特にBtoC企業において多く活用されています。
5.顧客体験(Custmer Experience)
顧客の購買プロセスの途中で、感動体験や疑似体験という付加価値を付け、売上げの増加を図るツールです。顧客の体感価値を最大化するために、例えばサイトに訪問したユーザーの訪問回数や流入経路に合わせて適切なポップアップを配信するWeb接客ツールや、チャットツールなどが当てはまります。顧客のオンライン体験を素晴らしいものにすることで、売上をさらに伸ばしていくことを目的としているツール群です。
6.コンタクト・コミュニケーション(Contact & Communication)
顧客とのやり取りやインバウンド対応の最適化を図るためのソリューション領域です。コールセンターシステムや顧客からの電話内容を分析してオペレーターにベストアンサーをサジェストするツールなどを用いて、お客様との直接のやり取りの質を向上させます。BtoCだけでなく、Web会議システムを利用したビジネスミーティングといったBtoBでの活用も可能です。
7.人材開発・コーチング(Peaple Development & Coaching)
営業活動を担当する人材の教育と育成を行うためのツールです。営業パーソンの教育やモチベーションの向上を図るツールやシステムが当てはまります。例えば、教育資料の動画プラットフォームや、オンラインでロールプレイング、その評価が出来るツールなどがあります。
マーケティングが営業を代行する
テクノロジーが進化するにつれ、お客様はインターネットを通じて企業やブランドとつながりやすくなりました。SNSなどの発展に伴い、見込み客が企業に直接コンタクトできる機会も増えています。そうした背景から、オンライン、オフラインのあらゆる場面で、いかにお客様とつながるかが重視されています。進化したマーケティングが営業を代行しているとも言えるのです。
顧客と企業とのつながりを深めることは、ただの顧客からファンへ、そしてファンを超えた「応援団体、アンバサダー」へと育て上げる機会を増やし、売上向上につなげる効果的な施策となるのです。
インサイドセールスが台頭する
アメリカはBtoBの営業担当が570万人で、そのうちインサイドセールスの営業担当が43.5%を占めています。セールステックの進化により、プロセスごとに最適なITツールを活用することが可能となり、今後、フィールドセールスの営業担当を追い越すと予想されています。
日本ではどうでしょうか。先程の国勢調査でもわかるように2015年の調査では、「営業・販売事務従事者」は増加し、69万人となっています。2010年調査より23.5%の増加であり、増加率は「社会福祉専門職従事者」に次ぐ2位という伸びとなっていました。この仕事が社会に求められ増えてきているいうことが見て取れます。
では、この「営業・販売事務従事者」という仕事は具体的にはどのようなものなのでしょうか。統計局の職業分類によると、「営業・販売事務従事者」とは、「事務従事者」の一分類であり、定義には「経営方針などに従い営業・販売に関する事務の仕事に従事するものをいう」とあります。これは「インサイドセールス」が台頭してきているということになります。
営業スタイルが高度化する
買い手と売り手間の情報の非対称性が失われた現在、製品の機能やメリットを紹介するだけの営業や、お客様が認識している課題(顕在ニーズ)の解決策を示すだけの営業は生き残れなくなります。
営業はこれまでに、「御用聞き営業」というスタイルから「商品提案営業」、「ソリューション営業」と時代背景の変化とともに、あるいはお客様の要望や機体の変化により、そのスタイルを進化してきました。
そして、昨今の環境変化の中においても変化せざるを得ない必然性をもって進化しようとしてしています。その大きな方向性が「インサイト営業」と呼ばれるものもです。
1.御用聞き営業
お客様に定期訪問して御用をお聞きして望みの商品を提供する営業スタイル
・定期的に得意先のもとに足を運ぶ
・お客様が欲しいと思うものをタイムリーに提案する
2.商品提案営業
商品提案営業とも呼ばれ、新商材や顧客のニーズに合った商材を提案する営業スタイル
・豊富な商品知識を持つ
・お客様ニーズを聞き出して適切な商品を提案する
3.ソリューション営業
お客様との対話を通して、お客様が抱えている問題やニーズをつかみ取り、解決策を提供する営業スタイル
・問題意識を持つお客様の真の課題を見つけて合意する
・顧客ニーズに合った解決策を提案する
4.インサイト営業
お客様自身が気づいていない潜在的な課題を顧客より先に察知して、その解決方法を提案する営業スタイル
・隠れたニーズを掘り起こし、お客様に気付かせる
・課題解決を通した組織変革を提案する
営業を巡る変化のまとめ
これまで自己完結型の仕事とされ、企業価値への直接的な貢献と人間臭い営みが魅力とされてきた営業が、その姿を変えようとしています。
1.営業は複雑で困難な仕事になっています
・インターネットによってあらゆる情報にアクセスでき、買い手が優位な状況が生まれています。
・ユーザー自身が気付かないニーズを掘り起こす必要があります。
2.分業化・効率化の波が営業にも押し寄せています
・市場調査、顧客選定、仮説構築、顧客提案、インストラクション、アフターフォローに至るまで、
広範な営業 プロセスを分割し、セールステクノロジーで代替する動きが加速しています。
3.アウトバウンドからインバウンドにシフトしています
・顧客訪問を中心とするプッシュ型から、プル型(お客様自身がネット上で検索をかけて自ら主体的に
行動する)顧客を積極的に取り込むモデルに変わってきています。
2.営業の未来を考える
Point1:営業の目的を再確認する
ここで営業の目的をもう一度確認してみましょう。辞書で“営業”を調べると「企業などが利益を得る目的で、継続的に事業を営むこと。また、その営み」と定義(デジタル大辞泉)されています。
事業を営むために、企業は有用なモノやサービス(価値)を創造して、市場に投入し、お客様と取引(価値交換)しなくてはなりません。つまり営業とは、「お客様が求めているもの、必要性(ニーズ)に気づいていないが、あったら役に立つであろうものを提供していく仕事であり、会社全体の責任を負うこと」なのです。
Point2:日本の営業の特徴を知る
欧米のMarketing & Salesは“分業型”で、「マーケティングが全体計画を策定し、販売が計画を実行する」という考えが主流ですが、日本の営業は“統合型”で、「営業は単なる販売“Selling”に留まらず、社内他部門、協力先を巻き込みながら顧客価値を共創する役割を担う」という考えに基づいて組織体制が組まれている企業が主流です。
つまり、欧米はマーケティング部門が主導するのに対して、日本は営業部門が企業業績の中心的役割を果たします。
Point3:営業の前後にあるプロセスを統合する
インターネットの普及によりブランドやサービスを選定するプロセスに、他人の推奨を参考にするというプロセスが加わったことで、ビジネスの焦点は顧客にモノやサービスを売ることから顧客がモノやサービスを他者に推奨することへと大きく変わってきています。
◆ データベース解析に基づく潜在顧客の獲得→ マーケティング領域へ
◆ 商品やサービスを導入いただいたお客様の成功をサポートする→ カスタマーサクセスへ
Point4:科学的思考でプロセスを管理する
これからはマーケティング機能とセールス機能は、それぞれがより高機能化していかなければ市場から選ばれません。そのためにも、機能ごとの役割を明確にしながら「マーケティングから商談、成約後のカスタマーサクセスまで各部門間が連携して、一貫した顧客対応をとる体制」を構築していく必要があります。
そのためにも、未取引の状態から広く顧客へアプローチし、新たな顧客との出会いができてから顧客に自社の提供価値を認識してもらい、顧客の課題解決の手段となることを正しく理解納得してもらい契約してもらい、想定通りの成果につなげてもらうための支援をする、という一連のプロセスを要素分解し、そのフェイズごとの活動を科学的に捉えていく必要があります。
Point5:インサイト力を身につける
ソリューション営業の実践には、顧客ニーズを聞き出すことが基本とされてきました。お客様は課題が何であるかを認識されていますが、有効な解決策が分からないために、営業のよい提案に期待を持っているからです。
しかし、インターネットの発達や、スマートフォンの普及により、お客様自身が必要な情報を、余すことなく収集できるようになりました。商談の主導権はお客様に移り、コストダウンに応じるか、特別条件がないと受注が困難になりました。
これからの営業に求められるのは“インサイト力” です。インサイトとは直訳すると「洞察」、「物事を見抜く力」などを意味します。インサイト営業は、お客様自身が何をすべきかを、先回りして見つけ出し、ニーズと認識されていない提案を行い、お客様の変革を助けるのです。
①お客様自身が気付いていない問題を発見する(エスノグラフィ調査*を利用)
*対象者の日常行動を包括的に知ることで、潜在的な価値や欲求を見出す仮説探索、発見型の手法
②潜在ニーズの解決を含む、より大きなテーマを未来課題と位置付ける
③未来課題へのチャレンジを提案し、固定観念を打破することでお客様自身の変革へとつなげる
参考記事:ソリューション営業はもう古い!?インサイト営業へ進化するために必要となる新たな課題とスキルを解説
Point6:人間力を磨く
どんなにAIやテクノロジーが進化したとしても、コンピュータが人間に及ばないことがあります。それは心と結びついた行動です。
(1)クリエイティビティ(創造性)を発揮すること … 人は思いもよらない知識を組み合わせて、新たな知を創出し、価値へと転換することができます。例えば、鳥の翼を分析して揚力を計算することはAIでもできますが、鳥を見て「空を飛びたい、だから飛行機を創ろう」と思い立つことはできません。また新しい考えを提示(コンセプト形成)することもありません。
(2)お客様の役に立ちたいと想うこと … 困っている相手に深い共感を示し、問題解決に向けて役に立ちたいという感情を抱くことは、人間固有のもので、関係者の心を動かします。
(3)お客様と信頼関係を築くこと … 誠実な行動、一貫した態度、相手に尽くす姿勢、謙虚さ、責任感などが伝わることにより、「信用や信頼」が芽生え、相手は胸襟を開くのです。
【おわりに】セールステクノロジーの利用価値は高まる
営業を取り巻く環境変化は、今後ますます加速するものと思われます。とりわけ情報の蓄積が進むことで、セールステクノロジーの利用価値は高まるでしょう。単純な営業活動はいずれ機械がこなすようになるに違いありません。
しかし、営業は極めてハイタッチな仕事であり続けています。信頼関係に基づいてお客様を未来に導くことは、未来洞察力と創造力にあふれる人間にしかできないことが、改めて明らかになりました。
テクノロジーに翻弄される前に、自社の営業価値を再定義してみてはいかがでしょうか?