2024.04.24 (更新日:2024.05.27)
全く新しい組織体制「ホラクラシー」とは?特徴や成功事例を詳しく解説!
日本のみならず、世界的の多くの企業には役職や階級が存在します。しかし、最近では従来の組織形態とは異なった全く新しい組織管理体制として「ホラクラシー」という概念が生まれ、注目を浴びています。
ここでは、ホラクラシー型組織に関する基本的な考え方を詳しくご紹介します。ホラクラシーの特徴はもちろん、ティール組織やヒエラルキー組織との違いについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
ホラクラシーとは
ホラクラシーとは、2007年に米国のソフトウェア会社の創業者が提供した組織経営の考え方で、企業内に役職や階級、さらには上司や部下などの上下関係が一切存在しない組織の形態を意味します。
ホラクラシーの最大の特徴は、役職者や上司が存在しないことで企業内や組織内で意思決定権が分散されるということです。つまり、組織を構成する社員やスタッフの一人ひとりには役職は与えられず、それぞれの部署内やチームに役割や意思決定権が与えられます。
ホラクラシーが注目されている背景
どの業界の企業でもIT化が推進されていること、そして日々変化し続ける消費者のニーズにも素早い対応が求められていることから、スピード感のある経営や対応を重視する企業が増えてきました。
従来の階層型の組織では意思決定までに時間がかかるだけでなく、上下関係や社内政治による心理的ストレスを感じやすかったり、上司による威圧的な態度や指示によってモチベーションが低下したり、など様々なデメリットが生じてしまいかねません。
しかし、ホラクラシー組織では個人やチームに決定権があるため、従来のトップダウン形式の組織よりもテンポのいい対応が可能です。さらに意思決定をそれぞれのグループに分散することによって仕事に対するモチベーションを高めることにも繋がることも、ホラクラシー経営の需要が年々高まっている要因と言えるでしょう。
ホラクラシー組織とヒエラルキー組織との違い
ホラクラシー組織は、分散型で非階層型であるのに対し、ヒエラルキー組織は中央集権型で階層型の組織です。
ヒエラルキー組織には、管理職やリーダーの役職者が存在します。役職者が意思決定やマネジメント、人事評価、業務の取りまとめなどを行うため、本来の業務に加えて組織を管理する負担がどうしても大きくなってしまいます。
しかしホラクラシー組織には管理職やリーダーなどが存在しないため、あらかじめ定められたルールに照らし合わせ、社員一人ひとりの工夫裁量と意思決定によって業務が進められます。業務をチーム内でしっかりと分担し、チーム一丸となって仕事をやり遂げていくのです。
ホラクラシー組織とティール組織との違い
ホラクラシー組織はティール組織の中のひとつです。
ホラクラシー組織には、明確なビジネスモデルや厳格なルールが確立されているのに対し、ティール組織は明確なモデルが存在していないため、より柔軟に対応できるのが大きな違いです。
ティール組織の方が導入から運用までの自由度が非常に高いため、試験的に導入しやすいと言えるでしょう。
関連記事:ティール組織についてはこちらの記事で解説しています(ティール組織とは?5つの組織モデルの特徴やセルフマネジメントを可能にした事例を徹底紹介!)
ホラクラシーのメリット
ホラクラシーのメリットとして、次の3つが挙げられます。
メリット① スピード感のある意思決定が可能
ホラクラシーでは、絶対的な決定権を持つ上司や責任者が存在しません。そのため、ルールに合致すると社員の一定の賛同が得られた場合は、業務方針ややり方をすぐに改善することが可能です。上司や上層部への確認作業が不要となることで、スピード感のある意思決定ができることがとても大きなメリットと言えます。
さらに、チームや個人が主体となって業務が進められることで、やるべきことや役割がより明確となり、業務効率向上にも大きく寄与します。
メリット② 社員による主体性の向上
管理職や上司と言う概念を持たないホラクラシー組織は、社員のスキルアップや仕事に対するマインドに関しても良い影響を及ぼすと考えられています。
ホラクラシー組織では上司からの指示で動くのではなく、あらかじめ定められた社内ルール(ホラクラシー憲法)に従って迅速に意思決定し、業務を進めていきます。その結果として、社員それぞれに自然と「考える力」や「主体性」が身についていくのです。
さらにホラクラシーは、チームがルールに従って独立して意思決定するため、上下関係によって生じる軋轢(あつれき)や不満からも解消されます。ストレスやモチベーションの低下から解放されることで、社員一人ひとりがイキイキできる環境や風土を整えることができるのです。
関連記事:メンバーの主体性を高めるサーバントリーダーシップの効果を発揮するための8つの方法とポイントについてはこちらで紹介しています
メリット③ 柔軟な組織運営
ホラクラシーは柔軟な組織運営を可能にします。チーム体制は取るものの、管理職は存在しません。従来のような階級別に役職や業務を与えられる訳ではなく、あくまでもフラットな関係性のもと、進化し続ける組織を作ることができるのです。
それぞれの社員は自分がやるべき業務に邁進し、必要に応じて流動的に活動します。組織に依存することがないので、自分のタスクに集中することが可能です。人事配置に関しても状況に応じて最適な配置転換をするなど、柔軟に対応できることも大きなメリットです。
ホラクラシーのデメリット
ホラクラシーには多くのメリットも存在しますが、ホラクラシー組織を導入するためにはデメリットについてもしっかりと把握することが大切です。
デメリット① 管理者が不在になる
ホラクラシー組織を採用する際に一番考えなければならないのが「リスク管理」に関する問題です。フラットな組織として運営するホラクラシーでは、意思決定をする際に上層部へ確認したり、承認を得たりする必要がありません。
スピード感を持って業務にあたれる反面、コストの妥当性やリスク回避についてしっかりとした議論がされないまま意思決定されてしまう危険性があります。
従来の階級制の組織運営が浸透している風土において突如管理者が不在になることで、システムの導入はもちろんのこと、業務もスムーズに進まないことが懸念されるのです。
デメリット② 組織のコントロールが難しくなる
ホラクラシー組織では、個人やチームに権限があるため、基本的に社員の管理を行う立場の人間が存在しません。それぞれの社員を信頼して業務を一任するため、チームをまとめることが難しいというデメリットがあります。
たとえば、プロジェクトの進捗状況をチームとしてまとめるのが難しかったり、それぞれの社員が持つ情報や知識を共有しづらかったりと言う課題が生じてきます。
まとまりのある組織として運営していくためにも、社員とチーム、企業のエンゲージメントの高さが求められるのです。
デメリット③ 導入コストがかかる
ホラクラシー組織として運営していくためには、初期の導入コストがかかってしまいます。従来の階級制の組織運営から180度方向転換をするためには、社員への理解を深めることが大切です。そのためには、社員教育はもちろんのこと、ホラクラシー組織として転換するために一定の期間を設ける必要があります。
このようにホラクラシー組織としてのスタートを切るためには、企業や組織の環境づくりに多額のコストがかかることを念頭に置いてください。
ホラクラシーが向いている企業の特徴
ここからは、ホラクラシー組織としての運営に向いている企業の特徴についてご紹介します。
社員全体が能動的に動いている
ホラクラシー組織として成功するためには、社員それぞれが主体的に、かつ能動的に行動することが求められます。管理職が不在の状況で生産性をアップするためには、社員一人ひとりの力量はもちろんのこと、スキルアップが必要です。社員の主体性を高めるためには、社員自らが考えて行動する機会を増やしていきましょう。
社員間での風通しが良い
上司と部下という上下関係がないホラクラシー組織は、意思決定のために社内でほとんどの情報がシェアされている必要があることから、もともと情報を特定の役職に限定しない、組織内や社員間の風通しが良い企業で成功しやすいでしょう。
意見を交換したり、アイディアを自由に発言できたりできる風土や組織的な合理性の高さが求められるのです。
コミュニケーションが密に取られている
ホラクラシー組織ではチームや社員一人ひとりにしっかりと役割分担をするため、セルフマネジメント力が必要不可欠です。そのため、組織やチームワークが希薄にならないようにコミュニケーションが密に取られている企業がホラクラシー組織形成に向いていると言えます。
ホラクラシー組織として効果的に機能するためには、社内SNS を活用したり、社員の交流を図るためにイベントを実施したり、さらにはカフェテリアやオープンスペースを設置したりと、社員同士で活発な交流を図れる仕組みづくりが重要です。
ホラクラシーを導入する上での注意点
ホラクラシーの概念を組織に導入する際に考えられるリスクや注意点についてご紹介します。
責任や成果の所在をはっきりとさせる
ホラクラシー組織ではチームや個人の裁量で業務が進められます。個人の役割をしっかりと果たし、社員の自主性を高めるためにも、責任の所在を明らかにしてください。役割分担をする際に、責任に関してもしっかりと言及、確認した上で意思決定するように求める必要があります。
さらに、企業としてどうあるべきか、そしてチームとして何を達成すべきかといった「目標」や「目的」についても明確にさせることが重要です。目標や目的を社員全員で共有することで、モチベーションを高めることに繋がるでしょう。
チームなどスモールスタートにて行う
ホラクラシーを導入する際に重要なのが「導入する際の組織の規模」です。いきなり企業全体でホラクラシーを導入してしまうと、従来のトップダウンでの意思決定をする組織経営が浸透している企業のほとんどは多くのトラブルを抱えてしまいかねません。
ホラクラシーの概念を全社員に理解してもらうまでは相当の時間を要します。そのため、導入当初は部署ごとやチームやプロジェクトごとなど、数人規模の小規模な単位からスタートしてください。実際にやってみた結果を検証した上で、徐々に単位を広げていきましょう。
情報をオープンにし、コミュニケーションが取れる社風をつくる
ホラクラシー組織では、業務に関わる情報はすべてオープンにし、共有することが必要です。そのため、ハード面ではITツールを活用した情報の一元管理を実施するなどの対策が求められます。
さらにソフト面では、情報共有する時間や機会を作ることが重要です。チームとしてのプロジェクトの進捗状況をしっかりと共有するためのミーティングを設けてください。
そして、個人情報や機密情報の取り扱いに関する研修会を実施するなどして、情報共有することの重要性を理解してもらうことも大切です。
関連記事:ホラクラシー組織つくりを目指すリーダーの参考となる、シェアド・リーダーシップについて特徴やメリット、組織環境を解説した記事はこちら
ホラクラシー経営に成功している企業の事例をピックアップ
ホラクラシー組織としての運営に興味はあるものの、実際に実現可能か不安な方も多いのではないでしょうか。ここからは、ホラクラシー経営に成功している国内外の企業を厳選してご紹介します。ホラクラシーを導入してどのような変化がもたらされたかに注目して確認してください。
ザッポスドットコム
アメリカのアパレル通販の「ザッポス社」も、2014年にホラクラシーを導入した企業です。2009年にAmazon社の傘下に入ったものの、企業としてのコアバリューを維持したまま独自経営を行っています。
ザッポス社は、ホラクラシー組織を導入したことにより、役職の階級制度を廃止した自主運営型へと企業の運営方針を大きく転換しました。業務を進める上での自由度が高くなり、業務効率が大幅に向上したとのことです。
株式会社アトラエ
求人メディア「Green」や人工知能を活用したビジネスマッチングアプリ「yenta」などのサービスを提供している株式会社アトラエではリーマンショックのタイミングで組織編成の見直しを図り、ホラクラシーを導入し、マネージャー職を廃止しました。
アトラエでは、チームとして目標を共有し、会社の出退勤や服装の自由化を推進しました。さらに評価制度として、メンバー同士で実施する「360℃評価」を導入したのも大きな特徴です。
ホラクラシー組織では管理職や上司という概念が存在しないため、昇進や昇格を含めた従来の人事評価体制では運用が難しくなるのが大きなデメリットでした。
しかし、360℃評価では、複数、かつ特定のメンバーに個人を評価してもらい、その評価に基づいて報酬を決定します。現場の評価をダイレクトに報酬に反映できるので、不公正の是正にも効果を発揮しているのです。
ダイヤモンドメディア株式会社
不動産業界向けのWEBソリューションを提案するダイヤモンドメディア株式会社(現:株式会社UPDATA)は、2008年からホラクラシーを導入している国内でもホラクラシー組織の先駆者として知られています。
ダイヤモンドメディア株式会社は、ホラクラシー組織として運営を始めたことによって社員それぞれの業務が削減化され、効率的な働き方を実現しました。
上司と部下の上下関係を廃止することはもちろんのこと、雇用する側とされる側という概念も排除されているのが特徴です。そのため新しい人材を取り込む際は3ヶ月間の業務委託契約を実施し、一緒に働く社員の意見を仰いだ上で判断しています。
勤務時間や場所、そして休日に関しては完全自己裁量で決定することができますが、その分それぞれのセルフマネジメント力が求められます。
給与に関しても社員同士の話し合いで決めるのも特徴です。社員それぞれの給与や経費も含めて企業の財務状況はすべてオープンにされています。
【まとめ】自社の組織形成に上手に活用していく
今回は、ホラクラシー型組織に関する基本的な考え方についてご紹介しました。ホラクラシー組織として運営することで、スピード感のある意思決定が可能となるだけでなく、社員の主体性が向上したり、柔軟な組織運営が実現できたりするなど、様々なメリットが得られるでしょう。
ご紹介したホラクラシーの特性や注意点などを踏まえて、自社の組織形成に上手に活用していくことをおすすめします。
組織マネジメントについて体系的に理解したい方は、下記関連資料をご覧ください。