2022.06.22 (更新日:2024.03.25)
ソリューション営業はもう古い!?インサイト営業へ進化するために必要となる新たな課題とスキルを解説
営業スタイルは時代によって大きな変遷を見せています。そこには顧客や商材の変化、ビジネスを取り巻く進化などが影響しています。特に、IT普及が目覚ましい現代において、その変化は大きなものとなっています。今求められている営業の姿を探ってみましょう。
目次
営業スタイルの変遷
営業スタイルの変化は、利用するツールといったハード面でも見られますが、特に営業担当者のお客様との関わり方に強く見られます。どのように製品・サービスを紹介していくのか、どの程度見込み顧客に対して深くアプローチするのかという観点から、主に「御用聞き営業」「プロダクト営業」「ソリューション営業」「インサイト営業」と変化してきた過程を見てみましょう。それぞれの特徴を押さえることで、現代においてより有効な手法を見出すことができます。
御用聞き営業
御用聞き営業とは、すでに取引をしていているお客様のところに定期的に伺って、その時点で必要なものがないかを聞き、必要なものを販売するというスタイルです。その際に新しい製品・サービスを紹介して勧めることもあります。また、お客様から必要になった時に電話がかかってきて、要望に応じた製品・サービスを提供することもあります。
どちらにしても、営業側から積極的にアプローチするというよりも、お客様の要望を聞いて販売するスタイルとなります。ルート型営業に近いタイプで、新規見込み顧客を得ることはあまり考えずに、既存のお客様に注力し、良い関係性を保っていく中で営業するというのが主な考え方です。一部の業界では今でも踏襲されている営業スタイルですし、お客様との関係性が強い状況では効率の良い手段です。
しかし、このやり方では新規に開拓して事業を広げていくことは難しいですし、ライバル企業にリピーターが奪われてしまうようなことがあると大きなダメージを受けます。また、お客様が欲しいと言ってこなければ販売しづらいので、売り上げが不安定になってしまい、予測が難しいという側面もあります。
プロダクト営業(商品提案型)
自社の製品・サービスをとにかくプッシュして勧めるスタイルです。ある程度ターゲティングはしますが、業種や企業規模、エリアくらいの絞り込みに留まります。そして、とにかく多数の電話勧誘、カタログ配布、ダイレクトメール送付などを行い、広く営業をかける傾向が強いのが特徴です。また、見込み顧客のニーズや課題に関する情報はあまり気にせず、自社の製品・サービスの魅力を強調して購入を促す営業トークが多くなります。いわゆる「押しの営業」という感覚が強いスタイルとも言えるでしょう。
プロダクト営業は独自性が強く、シェアを独占しているような製品・サービスについては効果的です。しかし、今はあらゆる分野で競合製品・サービスが登場していて、それぞれにメリットがあります。それだけに、単に自社の製品・サービスの提案を行うだけでは、なかなか成果が出づらいものです。
この製品・サービスを売り込んでお客様に食らい付いていくやり方は、少し前まではかなり一般的な手法でした。そのため、ベテラン営業担当者などはこのメンタルや手法に慣れています。意識自体を大きく変化させないといけないからです。営業担当者自身、そして営業担当者を支援するマネージャーが、いかにしてこの変化を実践できるかが重要になってきます。
ソリューション営業(課題解決型)
ソリューション営業は、課題解決型とも言います。見込み顧客が抱えている課題、もしくはターゲットとなる業界や市場全体に共通する問題を見つけ、それを解決するための手段として、自社製品・サービスを紹介するスタイルです。ここでの課題とは、見込み顧客自身が感じている、もしくは把握して何らかの取り組みをし始めているものです。問題に気付いていますので、それを解決する方法を探しているところに営業をかけることで、成約につなげることができます。
このソリューション営業を実践するためには、見込み顧客の課題を分析して、それに合った解決策を提示する必要があります。そのため、ターゲティングをしっかりと行い、自社製品・サービスが有効な業種や企業規模などを絞り込んでいきます。その後、見込み顧客にアプローチをしたら、実際にその課題を抱えているかどうかを把握して、より良い解決策を提案します。
特に、製品・サービスの仕様を変更することができる場合や異なるプランを複数持っている場合には、お客様のニーズに柔軟に対応できるので提案の幅が広がります。このように、ソリューション営業では、見込み顧客の課題やニーズに重点を置くことが特徴と言えます。
インサイト営業
インサイト営業は、ソリューション営業をさらに一歩進めた営業スタイルです。見込み顧客自身がまだ気づいていないような課題を洗い出して、その根本的な原因を分析します。そして、自社の製品・サービスがどのように役立ち、問題を解決してくれるのか、もしくはその製品・サービスによっていかに業務効率が向上し、職場環境が改善されるかを示します。
インサイト営業ではすでに目に見えている問題ではなく、潜在的な課題を指摘して、その解決策として自社製品・サービスを勧めるという点が大きな特徴です。
このインサイト営業を行うには、見込み顧客についての綿密な情報収集と分析力が必要とされます。具体的には、ターゲット顧客の経営状況や事業についてのリサーチと、直接のヒアリングです。お客様からの信頼を得て、良い関係性を培う必要があります。そうでなければ、お客様も自分たちの課題を他の人たちに話すことはできないからです。インサイト営業を成功させるためには、見込み顧客との関係構築に時間をかけて取り組むことも求められます。
ソリューション営業が古いと言われる理由
一時代前は、とにかく商品の魅力を伝えて売り込むプロダクト営業が良しとされていました。しかし、それではお客様の利益にならないということで、ソリューション営業に取り組む企業が増え、確かにこのスタイルで大きな成果を挙げることができました。そして、時代はさらに進み、すでにソリューション営業も古いスタイルとなりつつあります。どうしてこの営業手法が時代遅れとなっているのかを考えてみましょう。
ソリューション営業が台頭した背景
御用聞き営業やプロダクト営業からソリューション営業に移行していった背景には、経済のグローバル化が関係しています。同じ製品・サービスであっても、従来では考えられないような低価格のものが出てくるようになり、同じ価格でも機能性やデザインのバリエーションが豊富なシリーズが出てきています。
そのため、単に製品・サービスの良さをプッシュするだけでは、新興国から来る製品・サービスに勝てなくなってしまったのです。そこで、付加価値を付けるために、課題解決という形での提案をする手法が開発、実践されるようになったわけです。
また、それまでの営業スタイルは商材ありきの手法で、お客様のことをあまり考えない姿勢でした。時には強引な進め方で売り込むこともあったのが現実です。こうした営業のプレッシャーに不快感を覚える企業が増えてきたため、よりお客様目線に立って、お客様の利益のために働くという丁寧な姿勢を示すソリューション営業の受け入れが進んだのです。
ソリューション営業の限界
それまでの営業スタイルからすると大きな方針転換であり、「お客様のために」という姿勢が見られることは素晴らしい進歩です。しかし、ソリューション営業にも限界が見えてきました。時代の流れとともに、新しい営業スタイルが求められる状況に変化しているのです。
顧客が課題解決方法について情報収集できるようになった
その状況の変化は、インターネットの普及がもたらしたものです。企業はどこでもインターネットに接続して情報収集ができる環境を構築しています。ネットの世界ではありとあらゆる情報があふれていて、しかも正確性の高いリソースも多くなっています。
そこで、企業は何か課題や改善したい点が見えてくると、すぐにネットで検索して調べるようになりました。わざわざ営業に頼まなくても、自分たちで問題解決法を見つけられるようになっているのです。
問題解決を図る製品・サービスを売っているメーカーもネット上で見つけられますし、オンラインで直接購入が可能となっています。こうした流れで問題解決を図れるのであれば、手間のかかる商談をしなくても良いわけです。自分たちでいくつもある選択肢の中から選べるという自由度もあります。
ネットで検索して購入することは、大きな時間短縮になるという利点もあります。今は何をするにしてもスピードが求められる時代ですので、時間をかけて商談を重ねるのではなく、短時間でネット購入する方が効率的と考える企業も多くなっているのです。
VUCA時代で課題が見えなくなった
こうしたお客様側の環境変化と共に、営業をする側の難しさも出てきています。VUCAと呼ばれる要素が強くなっているのです。これは、「変動性:Volatility(ボラティリティ)」「不確実性:Uncertainty(アンサートゥンティ)」「複雑性:Complexity(コムプレクシティ)」「曖昧性:Ambiguity(アムビギュイティ)」という現代ビジネスにおける難しさを示す用語であり、企業経営や実務は年々複雑なものとなっています。
そのため、ソリューション営業をする際に行う課題の洗い出しや解決策の分析がかなり難しいのです。適切な提案ができなければ、製品・サービスを勧めることもできないので、営業に限界が出てきます。
インサイト営業とはどのような営業スタイル?
ソリューション営業に取って代わるものとして、インサイト営業が注目されています。この営業スタイルの特徴と求められる要素を考えてみましょう。
ソリューション営業との違いは「潜在課題」へのアプローチ
インサイト営業では、顕在化している課題、つまり見込み顧客自身がすでに気付いている課題ではなく、潜在課題に着目します。お客様自身が気付いていない問題を、ち密なヒアリングや情報分析によって発見して、そこから解決策を提示するのです。
ソリューション営業よりさらに高い付加価値を付けられるのが、インサイト営業のメリットです。ライバル企業との差別化を図ることもでき、たとえ同じジャンルの商材であっても、営業力によってお客様の購買意欲を高めることができます。さらに、お客様にとっても自社の利益を高めてくれる存在と映るため、長期的な関係を築き、継続的な利益をもたらすビジネスパートナーとなることができます。
課題喚起と課題解決の二つのスキルが必要
お客様自身が見つけ出せていない課題を見つけるためには、高い情報分析力と本質を読み解く力を土台としてお客様に課題を認知させるスキルと、本質的な問題を解決する課題解決スキルが求められます。インサイト営業では表面的な問題解決ではなく、本質的な原因を特定し、根本的な課題解決を図ることを目指します。
潜在課題の本質的な原因は、業務システムや職場環境などの深く経営に根付いたところにあることが多いのです。それだけに、大きな変化をもたらす解決策を示すために、お客様を納得させるだけの高度な提案が求められます。
インサイト営業力に不可欠な「洞察力」を身につけるために
インサイト営業では、プレゼン力やクロージングスキルといった、従来の営業スタイルで重視されてきた能力だけでは成功できません。それ以上に重要なのがインサイト、つまり「洞察力」なのです。これは、物事の本質を見抜く力とも言えるでしょう。具体的に、どんな分野での洞察力を身につけていくべきなのかをチェックしてみましょう。
顧客のビジネスモデルを深く理解する
潜在課題は、見込み顧客の本質的もしくは根本的なところに原因があるものです。これを把握するには、ビジネスモデルそのものについて深く理解しなければなりません。見込み顧客が何を販売しているかだけでなく、誰をターゲットとしていて、どんな形で利益を出しているのかを徹底的に分析します。
深い理解を得るためには、その業界やマーケットを広くリサーチし、データの蓄積と傾向分析をする必要があるでしょう。
同時に、見込み顧客へのヒアリングも欠かせません。企業独自のビジネスモデルを構築していることもありますし、一般的な手法に手を加えてオリジナルのフローを実践していることも多いからです。独自のモデルを構築している場合、他社との差別化を図ろうとして無理が生じて、それが問題となっていることもあります。こうした点も考えて、一般的な流れと見込み顧客のビジネスモデルを比較するといった分析も行うと良いでしょう。
社会情勢の変化に敏感になる
為替や市場の変動、法令改正などの要素によって、新たに課題が生まれてくることも多々あります。少子高齢化のように、変動がゆっくりと進んでいるものもありますし、地域紛争による地政学リスクの顕在化といった、急に生じるものもあります。
こうした情勢の変化はニュースなどを通して把握しておくことで、企業に生じるリスクや課題を理解しやすくなります。また、たくさんのお客様とコミュニケーションを取ることで、業界に起こっている変化についても確認できます。大事なのは、今までの常識や習慣に捉われず、変化に敏感であることです。
自分なりの仮説を持つ
課題解決力を高めるためには、とにかく課題について様々な異なる仮説を立てて、シミュレーションすることです。そして、その中からより良い解決策を見つけ出します。出てきた最良の答えがどのように優れているのかを分析することで、効率よく適切な解決策を見つけるコツをつかめるようになります。
他社の事例や先輩社員の提案した内容などを学ぶことも重要ですが、それ以上に自分なりに仮説を作り試す努力を続けましょう。実践的な課題解決スキルを向上させることができます。
【まとめ】インサイト営業力を高めて今後も求められる営業組織へ
インサイト営業とは、見込み顧客自身が気付いていない本質的な課題を洗い出し、その解決策を提案する手法です。従来のソリューション営業と比較して高いスキルが要求されるものの、提案に付加価値をつけることができ、顧客との長期的な関係構築にもつながることから、多くの企業がインサイト営業力に注目しています。顧客を取り巻く環境が変化している今、自社の営業スタイルについても見直しを図ることが必要になっているかもしれません。